犬の噛み癖のしつけと改善をどのように進めるか?

噛み癖のある犬を飼っている飼い主さんは、日々どうしたら犬とうまく過ごせるのかを考えていると思います。噛み癖を治していく、或いはうまく生活していくためには、適切な手順を踏んで診断と治療・改善をしていく必要があります。

本ページは、本当に強い咬みつきに悩んでいる方に向けたページになっています。咬みつきにも程度や種類があり、子犬の咬みつきやかすり傷程度の咬みつきに関しては本ページでは扱いませんので、犬歯が刺さる程咬みついて困っているという方に読んでもらいたいと思います。

まずは噛み癖の原因を探る

噛み癖に対して、いきなり噛み癖の改善を行うことはできません。なぜかと言えば、犬の噛みつきが発生している原因は千差万別で同じものはないからです。特に犬歯が刺さる程度の噛みつきの場合は、獣医師の診断を経るべきです。と言うのは、身体の不調から噛みつきが発生している場合もあるからです。例えば、9歳になって急に噛みつくようになった、原因を探ってみると脳腫瘍だったとか、そういうこともあるわけです。

まずは、自分の家の犬がどのような原因で噛みついているのか、専門の先生に診てもらう様にすることが最も無難な対処法です。では、専門の獣医さんたちはどのように噛み癖の原因を診断していくのでしょうか?以下、その手順を見ていきましょう。

カウンセリング(行動履歴の問診)

まずは、カウンセリングで飼い主さんからこれまでの経緯を聞きます。概ね初診は90分から120分かかります。それだけじっくり話を聞かないと詳細な原因を突き止めることが出来ないんですね。

何を聞くかと言うとこんな感じです。

  • 生まれがブリーダーさんなのか、ショップさんなのか、友人宅なのか?
  • 社会化の程度がどうだったのか?
  • 生まれてから住んでいた場所、今住んでいる場所
  • 生活環境(サークル?フリー?)
  • 生活習慣(散歩・ゴハン・留守番…)
  • 家族との関係・家族構成
  • 問題行動の発生状況
  • 一番最近起こった問題行動の詳細
  • 二番目に最近起こった問題行動の詳細
  • 三番目に最近起こった問題行動の詳細
  • はじめて問題行動が起こった状況
  • 典型的な問題行動の発生状況
  • これまでの対処と反応
  • 既往歴・治療歴
  • 現在の体調

色々あるんですが、本当にたくさん聞きます。そうでないと、何が原因になっているか分からないんですね。飼い主さんも言いにくいことが有ったりして、言えなかったりするので、信頼関係を築いて教えてもらう(実は娘さんがゲージをよく叩いていて、それが原因だったりとか。)ということが必要になることも良くあります。

カウンセリングで聞くべき内容をまとめた質問紙と言うものがあります。ぎふ動物行動クリニックでもカウンセリングの際に毎回使っていますが、獣医動物行動学研究会が統一質問紙を作成していますので、こちらも参考になります。

問題行動の診断(鑑別診断)

カウンセリングでの問題行動と噛み癖の状況、年齢、犬種、既往歴等々を加味して、疑うべき病気のリストを作成します。これを鑑別診断リストと呼びます。先にも書きましたが、噛み癖が必ずしも『しつけ』の問題で起こっているとは限りません。身体疾患の可能性を除外していく必要があります。

「犬と猫の問題行動診断治療ガイド」には攻撃行動の医学的鑑別の項で、感染症性、占拠病変性、栄養性、中毒、蓄積性疾患、脳障害、先天性、外傷、内分泌性、皮膚疾患、その他vと11項目に分けて可能性を指摘しています。

噛み癖【攻撃行動】の鑑別診断

感染症性疾患
・ウイルス性(狂犬病・犬ジステンパーウイルス性脳炎)
・細菌性(脳組織の細菌性膿瘍)
・原虫感染(トキソプラズマ・ネオスポラ)
・寄生虫(犬糸状虫、犬小回虫、鉤虫、有鉤条虫、住血線虫など)
占拠性病変
・肉芽腫性脳脊髄炎
・新生物(腫瘍)
栄養性
・チアミン欠乏(海水魚を主食にしている犬)
・トリプトファン欠乏
・高タンパク食
中毒
・鉛中毒
・リン化亜鉛(殺鼠剤)
・有機リン化合物
・塩素化炭化水素
蓄積性疾患
・フコース蓄積症(イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルに特異的な疾患)
脳障害
・肝性脳症(門脈シャント、酵素欠乏、重度の肝疾患)
・全身性エリテマトーデス
先天性
・脳回欠損(ラサプアソ、ビーグル、アイリッシュ・セッター)
・水頭症
外傷
・頭部外傷
・疼痛
内分泌性
・甲状腺機能低下症
・偽妊娠
・ステロイドの投与
その他
・精神運動性てんかん(焦点発作)
・知覚の変化(視覚や聴覚の能力低下)
・認知機能不全症候群
・常同障害