柴犬のこはるちゃんガオーっという表情-しつけ教室にお泊り中

犬の噛みつきは病気なのか?具体的にどうすればいいのか。獣医行動診療科では、大まかに以下の流れに沿って行動を減らしていきます。

犬の噛みつきは病気なの?

犬の噛みつきの多くは、犬自身が自分の身を守るため、あるいは資源を守るために行う行動であり、犬であれば当然行う行動です。

しかし、中には、なんの脈絡もなく、突然発生する攻撃行動も存在します。また、脳機能の問題から、攻撃が生じやすくなっていることもあります。

脳機能の問題による噛みつき

人間のうつ病や躁鬱病では、気分が安定せず、攻撃行動につながる場合があります。てんかんを患っている方についても、てんかんに関連した異常派(脳波)によって行動の変化が起こることが知られており、犬でもてんかんの発症後に、攻撃行動や不安行動が増えることが知られています。

このように、脳機能の異常によって引き起こされる攻撃行動も少なくありません。

身体の異常による噛みつき

また、身体的な痛みや不快感、その他身体的な疾患が攻撃行動の原因となっているケースが少なくありません。

痛みや不快感

身体の痛みは、直接的な噛みつきの原因になります。患部を触られたくなくて、攻撃するというのはわかりやすいですね。腰が痛いときに、抱っこされたら嫌ですよね。

あるいは、お腹が痛いときに、撫でられるのを嫌がるということもあります。

人にも頭痛があるように、犬にも頭痛があると考えられますが、頭痛はそとから確認できません。雨の日に噛む行動が多い犬がいますが、それはもしかしたら、気圧の関係から頭痛が起こっている可能性も否定できません。

ホルモンによる行動の変化

甲状腺機能低下症や、副腎皮質機能亢進症等により、行動の変化が起こることはよく知られています。特に、甲状腺機能低下症と攻撃行動の併存は、臨床でもしばしば遭遇します。

認知症による行動変化

認知症によって攻撃行動が悪化することはよくあります。多くは、若いころに攻撃行動があったものの、一旦良くなったものが再度悪化するという例です。

犬は若いころに感情を抑えきれなくても、成長に従い、徐々に感情のコントロールができるようになることがあります。認知症になると、一度できるようになった感情のコントロールができなくなり、それが、攻撃につながるようになるということが起こります。

身体疾患の除外

  • 身体疾患がある場合は、身体疾患の治療を優先

問題行動の分析

  • 噛む行動のきっかけや状況の分析(噛む前の状況)
  • 噛む行動を増やしている対応・要因の分析(噛んだ後の状況)
  • 噛む行動や付随する行動が異常行動か正常行動かの分析

問題行動への対応(環境修正・行動修正)

  • 安全に暮らせる生活環境の設定
  • ストレスとなっている生活習慣の改善
  • 噛むきっかけとなる刺激の除去
  • 噛む行動を増やしている要因の除去
  • 飼い主が犬を安全に扱えるようになるためのトレーニング
  • 噛む行動以外の行動を誘導するトレーニング
  • 噛むきっかけとなる刺激に馴らすトレーニング

問題行動への対応(薬物療法・その他の療法)

  • 異常な程度頻度・異常行動である場合、薬物療法
  • ホルモンが関係している場合避妊去勢手術

飼い主自身で今すぐできること(当座の対応)

茶黒の柴犬ちゃんと散歩


噛む唸るといった攻撃行動、中でも成犬で血を見るような攻撃行動では、素人の飼い主さんがネットの情報を信じて対応しても、改善の見込みは少ないと思います。お金はかかりますが、早い段階で専門家を探すのが最善だと思います。お近くの専門家をお探しの方は、以下のリンクをご確認ください。

お近くで行動診療をやっている獣医さんの探し方

相談できる専門家を探すには? 出血を伴い犬歯が刺さる程度の咬みつきでは、半数以上の症例で薬物療法の適応になります。何が原因で発生しているかによって対応は異なり、…

第一に、飼い主と家族の安全対策

とはいえ、何かできることはあるでしょうか。

飼い主自身で対策を行う場合、安全対策が何より重要です。安全対策とは、攻撃行動を発生させない対応を取るということです。そして、飼い主自身の判断で行う安全対策はあくまでも一時しのぎであって、できるだけ早く専門家に相談してください。その前提で以下のような対策が考えられます。

撫で方の再考

撫でるときに噛むという犬では、撫で方を客観的に考えてみると良いでしょう。犬にとって嫌な撫で方になっていないかどうかが重要です。噛まれるということは、犬の嫌だという意思表示です。

「撫でてあげているのに噛まれる」と考えているのであれば、それは飼い主側の欲求の押し付けです。撫でたいのは飼い主さんで、犬は撫でられたいのかを考えてみましょう。

犬が低い姿勢で飼い主の下に入ってくるような場合や、すぐにお腹を見せる場合、撫でてほしいんだろうと考える飼い主が少なくないわけですが、実はこうした姿勢は劣位行動と言って、脅威を感じる相手に自分を小さく弱い存在であると見せる犬でよくみられる行動である可能性があります。

生活環境内に仕切りを設ける

ケージに近づくと唸る、フードを食べている時に近づくと唸るといった攻撃行動では、自分の居場所に飼い主が近づいてくること、フードを食べている時に飼い主が近づいてくることに対して警戒心を抱き、唸っている可能性が高い状況です。

人の動線と、犬の生活環境の間に間仕切りを設けることで、犬が脅威を感じる場面を減らし、攻撃行動を発生させにくくすることができます。

ハウスリード

リードの付け外しの際に噛まれる場合、リードを着けられて拘束されることに対して、嫌悪感を抱いている可能性が高いです。この場合、もしリードを着けることができるのであれば、つけっぱなしにしておくと、付け外しの必要がなくなり、噛まれる可能性が低くなります。

常にリードを着けておいて、散歩用と家用を散歩に行くときに付け替えるという対策も良いでしょう。リードが既についている状態であれば、付け替えの際に噛まれる可能性は低くなります。リードを付け替えた際は必ずおいしいオヤツを与えるようにしましょう。

一緒に寝ない

いっしょに寝ていて、寝がえりを打った時に噛まれるという状況があるようでしたら、やはり一緒に寝るのは控えたほうが良いでしょう。犬は犬の寝床で寝られるように、ハウスのトレーニングをする必要があります。ハウスのトレーニングは、専門家の指導を受けながら進めることをお勧めします。

守るものを与えない

ガムなど嗜好性の高いオヤツや、フードを守って、唸る噛むということも少なくありません。こうした場合、いくらその犬がガムやフードを好きであっても、守れるように与えてしまうと、危険を生じます。ガムであれば与えない、フードであれば手で与えたり投げて与えるなど安全に与えられる方法を模索していきましょう。