犬の本気噛みでは、血が出るほど噛むにも関わらず、家族の中で噛まれる人と噛まれない人がいる場合が少なくなりません。

「なぜ私だけ咬まれるのか?」

と、理不尽な気持ちにさいなまれている方も少なくないはず。本記事では、噛まれる人と噛まれない人が出る3つの理由と原因別対策法について解説します。

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ぎふ動物行動クリニック(院長:奥田順之/獣医行動診療科認定医)では、犬の攻撃行動や吠えの問題、尻尾を咬みちぎってしまう、過剰グルーミングなど、多岐にわたる問題行動について、ご相談を承っています。オンラインでの相談も可能です。

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理由①:犬の表情が読めていない人が噛まれる

1つ目は簡単な理由です。犬の表情が読めているかどうかです。犬の表情、つまりボディランゲージには様々な意味があります。以下のイラストは、世界的に有名なボディランゲージのイラストです。

このようなボディランゲージの意味を理解できるかどうかは、犬から見て付き合いやすい人かどうか大きく変わってきます。

犬の噛みつきでは、お腹を撫でていて噛まれたということが少なくありません。ブギーのイラストでは、お腹を見せるのは、お腹撫でのポーズと書いてありますが、それはあくまでもリラックスしてお腹を見せている場合です。

むしろ緊張して、身体を縮こまらせながらお腹を見せる犬もいます。こうした犬は、相手から圧迫感を受けてお腹を見せている可能性があります。実際にそうした犬に対してお腹を撫で続け、噛まれてしまった方が大勢いらっしゃいます。

犬の気持ちは『お腹を見せている』=『お腹を撫でてほしい』といった短絡的なものではなく、全身の行動表現を見て、緊張感しているのか、リラックスしているのか、警戒しているのか、気を許しているのか、判断しなければなりません。

しかし、一般には、『尻尾を振っているから、喜んでいる』『跳びついてきたから遊んでほしいんだ』など、単純化されてしまっていることで、本当の犬の気持ちが分からないままに、思い込みで接してしまうことが往々にしてあります。尻尾を振っていても警戒していることは良くありますし、跳びついたのも攻撃的な意図で跳びつく事だってあります。

このような、犬の全身から発せられているメッセージを読み取ることができ、犬に配慮することができる人は、犬に咬まれることは少なくなるでしょう。

「私はすごく気を使っているのに咬まれる!」と思っている方も、ビクビクして気を遣えばいいのではなく、犬の心理を読み取り、犬が望む関りや楽しみ喜びを提供できることもとても重要な事です。気を使うこととメッセージを読めるようになり、良いコミュニケーションが取れることは違います。

対策①:犬の表情を読めるようになる

犬の表情を読めるようになるには、犬の表情を読む練習を専門家と一緒に行うことが一番です。

一般的なしつけ教室でも教えてもらえますし、行動学を専門にする獣医師の元で勉強するのも良いでしょう。最近ではノーズワークが普及してきており、ノーズワークレッスンの中で犬のボディランゲージをしっかり読んでいくということを学ぶ機会も得られるようになってきました。

参考:ノーズワークスポーツクラブ

元々犬を怖がっていた人(犬が近寄ってきただけで噛まれるかもと思ってしまう等)や、犬に人の理想を押し付けがちな人(お腹見せているからお腹撫でてほしいに違いないと思ってしまう等)は、犬の表情そのものを見るのではなく、自分の中にある犬像というフィルターを介して犬を見てしまうので、ボディランゲージの読み違いが起こりやすくなります。

冷静に観察でき、意図を理解できるようになることが、重要な対策となります。

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理由②:体罰をふるっている人が噛まれる/体罰をしていない人が噛まれる

次に、体罰の問題を取り上げます。日本の中ではまだまだ人が犬の上に立つために暴力が必要であると考えている人が多くいらっしゃいます。比較的男性にその傾向が強いのは、生物学的に男性が好戦的で支配的であるからかと思います。

子犬が飼い主の関心を引こうとして噛んできた時に、「噛んだら叱らなければならない」との思いから、強い体罰を行うことがあります。子犬は、体罰を受けたことで恐怖を感じます。手で叩かれれば手は危ないものだと思い、叩いてきた人が近づいてくると危ないと感じて、防衛的な攻撃行動を示すようになります。

防衛的な攻撃行動を示したことに、さらに体罰で追い打ちをかけていくことで、今度は先制攻撃をしなければ自分の身が危険と判断し、小さな刺激でも攻撃するようになっていきます。

シンプルな例では、体罰を行う人に対してのみ攻撃して、やさしく接してくれる家族には攻撃しないということが起こります。

複雑な例ではその逆になることがあります。体罰を行ってくる相手には攻撃してもさらに強い体罰が来ることを予測して攻撃できないけれど、体罰をしない家族に対してはその抑制が効かずに攻撃してしまうということがあります。

元々体罰を受けていることで過度な緊張状態となり、不安が強く、情緒が安定しないことで、攻撃しやすい状態になります。その上で、体罰を行ってくる家族は、あまりにも怖すぎて隠れること固まる事しかできない。一方で、体罰をせず優しく接してくれる相手には、緊張度が少し弱くなり、自分の気持ちを出せるようになる。体罰を受けて触られることに対する恐怖があるとき等に、そうした体罰をしてこない相手からの接触の時だけは、自分の「嫌」という気持ちを表現できて、攻撃してしまう。ということがあります。

対策②:報酬を用いた好意的な関りを中心に

飼い主が体罰を振るうということは、あってはならないことです。毅然とした態度、リードする姿勢というものは必要ですが、それは手を上げることではありません。むしろ、手を挙げて暴力を振るうことで、犬をリードできると考えているのであればそれは間違いです。

飼い主家族が行うべき犬との関係づくりは、『報酬を用いた好意的な関り』を行うことであることを忘れてはなりません。体罰を行ってきた家族も、気持ちを切り替えて、報酬を用いた好意的な関りを持つようにすることで、犬が安心して、家族全体の関係性が変わっていきます。

報酬を用いた好意的な関りとは、要するに犬と楽しく関わりましょうということです。報酬はオヤツの場合もありますし、遊びの場合もあるでしょう。上手に褒められるようになれば、飼い主からの褒めも良い報酬になります。

報酬を用いた好意的な関りとして、やりやすいのは一般的なトレーニングですね。飼い主が何らかの指示を出して、犬がその指示を理解し実行したら報酬を与えるというやり方です。言うは易く行うは難しで、上手にこのトレーニングを行うには、練習が必要です。トレーニングスクールなどで、専門家の元で指導を受けることが大切です。

理由③:犬に制御されている人が噛まれる

犬の攻撃に対して動じる人、動じない人がいたら、動じる人には攻撃するけど、動じない人には攻撃しないということが起こります。

犬に咬まれると非常に痛いので、犬にいつ噛まれるか心配でドキドキしているような方も少なくないと思います。犬がこっち向くだけで噛むんじゃないかと勘繰ってしまったり。犬の攻撃を怖がることは必要な事ですが、必要以上に怖がってしまうと、犬が攻撃することで、怖がる相手をコントロールするようになってしまいます。

犬は威嚇したり噛んだりすることで、その人を威圧しコントロールできます。例えば、その家族が部屋から出ようとしたときに追いかけて吠えて噛めば、その人を立ち止まらせることができます。一部の支配欲の強い犬では、人を支配することそのものが報酬になり、人を支配するために攻撃するということも起こってきます。

一緒のソファで寝ていた時に、人が起き上がろうとすると噛まれるということがあります。多少犬が唸っても、過剰に反応せず生活できる人なら、犬の方も唸ることで何らかの報酬が得られるわけではなく攻撃は強化されにくいでしょう。一方、恐る恐る対応し、唸ったら過剰に反応してしまう人に対しては、余計に唸りやすくなってしまい、結果噛まれてしまうということも起こります。

対策③:犬に制御されない環境設定

「犬の攻撃を怖がらないようにしてください」

というアドバイスは難しいでしょう。やはりその人にとっては犬の攻撃は怖いでしょうし、噛まれるのは嫌でしょうし、どうすればいいかわからないと思います。

できる対策は、その人が犬に制御されるような環境を作らないということです。

特定の家族が部屋から出るときに吠えかかり咬みついてくるようなパターンでは、犬にリードをつけて噛まれない人が持っておくとか、サークルなどをもちいて犬の行動範囲を制限すれば、犬の攻撃により人が制御されるということはなくなります。

噛まれないような環境を設定することは当座の対策です。本質的には、犬との好意的な関係を作った上で、ハウスやオスワリなどの指示で、あるいはリードを用いて、確実に犬を制御できることが大切です。攻撃が生じても、人側がイニチアシブをとり、犬を落ち着かせることができるようになれば、犬の攻撃が抑えることが可能です。こうした関係づくりは、一朝一夕にできるものではありませんが、専門家の指導の下で、しっかりと取り組むことが大切な事です。