犬の噛み癖というと、「しつけの問題」と考えがち。でも、それって本当に「しつけ」の問題なのでしょうか?

実は、身体の問題で噛みつきを引き起こす場合があります。これを知らずに、いくら「しつけ」をがんばってもうまくいきません。この記事では、犬の攻撃行動を引き起こす可能性のある代表的な疾患をご紹介します。

1:関節疾患

大型犬でよくみられる股関節形成不全や、小型犬でよくある膝蓋骨脱臼・レッグペルテスなどの関節疾患は、関節の痛みから攻撃行動が発生することがよくある疾患です。

痛みは、抱っこを嫌がったり、保定されてケアされることを嫌がることにつながります。

「痛いからやめて!」という意思表示で攻撃した際に、飼い主が抱っこやケアをやめてくれた経験を積むことで学習し、痛い触り方をされそうなときに唸ったり噛んだりしてそれをやめさせる行動が定着していきます。

仮に関節疾患が治癒して、痛みが軽減された後も、一度学習した行動は忘れにくいため、過去に関節疾患が原因で始まった攻撃行動について、攻撃行動だけが残るということも起こります。

2:皮膚疾患(アレルギー等)

アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、細菌や寄生虫の感染等、様々な理由により皮膚疾患は起こります。皮膚の痒みや痛みは、関節疾患同様、患部を直接的に触られるのを嫌がるようになるだけでなく、精神的にイライラが募り、落ち着かないことで攻撃行動を生じさせやすくなります。

また、アトピー性皮膚炎では、精神的ストレスが痒みを増悪することが知られています。痒みはイライラを増加させ、イライラは痒みを増加させるという悪循環が発生します。

3:消化器系疾患

腸は、第二の脳と呼ばれるくらい多くの神経細胞が集積しており、腸の状態は脳の状態に強く影響を与えます。そのため、腸の状態が悪いと、気分が悪くなり、問題行動の原因となります。その反対に、精神的ストレスを受けると、腸の働きが悪くなり、下痢や血便を生じます。

犬が、お腹がいたい時に、あるいは、お腹の調子が悪い時に噛むことはよくあることです。例えば、毎週末に苦手な人が来る家の柴ちゃんが、毎週末下痢をするという状態になっており、下痢をしているときに近づくと咬まれるということがありました。

下痢と攻撃行動が周期的に発生しており、その原因が、苦手な人の来客だったことは明らかです。当院での診察前は、下痢をした場合に、下痢に対する対症療法を行うという形で対応されていましたが、当院の受診後、金・土・日にはストレス緩和を目的に、抗不安薬を頓服で使用するようにしたら、下痢も攻撃行動も抑えられるようになりました。

4:甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症は、その名の通り、甲状腺ホルモンの分泌が低下することで、元気がなくなる、食欲がなくなる、食べていないのに太る、脱毛する、フケが増える、皮膚疾患が悪化するなどの症状が生じます。

甲状腺機能が低下すると、活力がなくなり、動きたくなくなります。ケージに引きこもるようになることもあります。このような状態ですので、飼い主が犬を散歩に連れて行こうとしたときに嫌がるであったり、触ろうとしたときに嫌がるという行動も増えるため、結果として攻撃行動につながる場合があります。

攻撃行動のある犬で、普段から元気がなく、年齢よりも老けて見えて、被毛につやがなく、脱毛しているような場合、甲状腺機能低下症がある場合が少なくありません。

甲状腺ホルモンは薬で補えるため、ホルモン剤を飲むことで、身体的な症状と共に、行動的な側面でも改善することが多いです。

5:認知症(老化)

犬の長寿命化に伴い、犬の認知症も増えています。人の認知症と同様に、犬の認知症でも、感情のコントロールがうまくできなったり、これから起こることを予測する力が弱くなり不安を感じることで、攻撃的になることがあります。

認知症となる年齢では、認知症だけでなく、他の機能も低下したり、疾患を罹患したりします。例えば目が見えにくくなると、見えにくい方から手を出すだけでびっくりして咬むようになるということもありますし、耳が聞こえにくくなると、こちらが近づいていることに気づかず急に触られたと思ってびっくりすることもあるでしょう。

これまでにも触れたとおり、老化に伴って関節が痛くなれば、抱っこを嫌がるようになるかもしれません。

このような変化が総合的に影響して、攻撃行動が悪化することがあります。