犬の認知症とは

犬の認知症を発症した、17歳の老犬
犬の認知症を発症した、17歳の老犬

犬の認知症とは、その名のとおり、高齢になって認知機能が衰え、様々な症状が発生する症候群です。正確には、犬の認知機能不全症候群(CCD:canine cognitive dysfunction)と呼びます。犬の認知症の発生機序はまだまだ不明な点が多くありますが、ヒトの認知症の発生と同じような病態で発生していると考えられています。

犬の認知症では、①見当識障害(家や庭で迷う など)、②人あるいは他の動物との関わり合いの変化(家族や同居動物への無関心 など)、睡眠と覚醒の周期の変化(昼夜逆転し夜中に起きてしまう など)、トイレのしつけや以前に覚えた学習を忘れる、⑤活動性の変化あるいは不活化、⑥不安感の増大 という6つの徴候(DISHAAの6徴候)が表れることが特徴的です。

犬の認知症の症状はサプリメント/薬物療法で緩和できる

犬のQOLも、飼い主のQOLも守るために、できることはあります。

夜鳴き続ける、徘徊し続ける、歩いて部屋の隅にはまってしまう、ちょっとしたことで怒るようになってしまったなど、犬の認知症のケアは飼い主に大きな負担となります。

「せめて、夜寝るようになってくれたら…」

そう考えている飼い主さんもたくさんいらっしゃいます。犬のためとはいえ、飼い主さんにも生活があります。飼い主さんが精神的・身体的な限界を迎えれば、犬のケアをしてあげることすらできなくなります。

犬の認知症のケアで最も大切なことは、犬のQOLを維持しながら、飼い主さんのQOLも守っていくことだと私は考えています。

サプリメントの可能性

「犬の認知症は進行性の病気だから、特に何もできない見守り寄り添うしかない」

と思いがち。でも、犬の認知症に効果のあるサプリメントは様々あります。

例えば、N.W Milgram(2002)らは、抗酸化作用のある食事が高齢犬の認知機能の低下を緩和するという研究結果を発表しています。Sarah Elizabeth Heath(2007)らは、グルタチオンの主要な前駆体であるN-アセチル システイン 、α-リポ酸、ビタミン C および E、L-カルニチンおよびコエンザイム Q10が含まれる、認知機能不全栄養補助食品Aktivait ®が、認知機能低下に抑制的に働くこと示唆した研究結果を発表しています。

中医学的な観点からは、漢方薬の抑肝散や八味地黄丸がヒトの認知症症状の緩和に使用されています。犬では、臨床研究例は少ないものの、私自身臨床の中で効果が得られることを実感しています。漢方薬を使用する場合、認知症とひとくくりにせず、その認知症の背景にどのような病因があるかというところから調べていく必要があります。

また、Barbara Broers(2019)らは、大麻から抽出されるカンナビノイドの一種であるTHC/CBDがヒトの認知症症状を緩和したことを報告しています。CBD(カンナビジオール)は、日本でも犬に対する使用に関して研究が進められており、臨床の現場でも使われ始めています。チクゴ株クロレラ研究所からは、クロレラエキスがアルツハイマー病モデルマウスにおける認知障害進行抑制効果を示した研究も報告されています。

薬物療法による緩和

サプリメントでよい効果が得られればそれに越したことはありませんが、なかなか難しい場合には、薬物療法を適切に行うことで、犬と飼い主の双方のQOLが向上します。

薬物療法というと、睡眠薬で寝かせてしまうというイメージがあるかもしれません。しかし、お薬=可哀そうと選択肢から外してしまうのは、適切ではありません。

例えば、米国で、犬の認知症の認可薬として使用されているセレギリンは、モノアミンオキシターゼという脳内の神経伝達物質であるモノアミン(ノルアドレナリン、セロトニン、ドパミン)の分解を抑制する薬です。犬の認知症では、脳内の神経伝達物質と神経の働きが弱くなって、様々な症状が発現すると考えられています。セレギリンは、脳内のモノアミンの濃度を高めることで、認知症の症状を緩和します。

睡眠薬で寝かせてしまうというのは、脳の働きを薬で弱めてぼーっとさせて寝かせるということを指しますが、セレギリンで行うことはその逆ではっきりさせるというイメージを持つとよいでしょう。

このように、薬物療法については、それぞれの飼い主さんが持つイメージがあるわけですが、薬には種類ごとに別の働きがあり、その働きを理解して使用することが重要になります。

もちろん、お薬を使わずに過ごすことができればそれに越したことはありませんが、薬を使うという選択肢も排除するべきではないでしょう。

大切なことは、複数の選択肢を持つこと

犬のQOLと飼い主のQOL、その両方を維持していくには、複数の選択肢を持てるかどうかが重要です。犬の認知症といっても、その原因は一つではありません。全員が同じ経過をたどっていくわけではありません。

怒りっぽくなる子もいれば、昼夜逆転が強い子もいれば、不安が強くなる子もいます。中医学的観点からみれば、認知症は、腎精不足からだけでなく、脾気虚や、肝気鬱結によっても起こります。

原因が様々なのですから、本来根本的な治療には複数の治療の方向性、複数の選択肢が存在します。これを多数持っておき、Aという方法がダメならB、BがいまいちだったらCという形で、犬の反応を探りながら、適切に緩和できる治療法を見つけていくという姿勢が大切です。

ぎふ動物行動クリニックではオンラインカウンセリングを実施しています。

当院、ぎふ動物行動クリニック(院長:獣医行動診療科認定医奥田順之)では、犬猫の行動や心の問題に専門的に取り組んでおり、全国どこからでも、オンライン行動カウンセリングを実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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DISHAAの6徴候とは

犬の認知症の基本的な症状は、DISHAAの6徴候に集約されます。

Disorientation(見当識障害)

見当識障害とは、自分が今どこにいるのか、何時くらいなのか、目の前の相手が誰か、といったことが分からなくなってしまうことをいいます。
犬でよくみられる症状としては、ドアの蝶番側から部屋を出ようとする、徘徊する、部屋の隅から動けなくなるといったことが挙げられます。

social Interaction(社会的交流の変化)

社会的交流については、家族や同居の他の動物への関わり方の変化として確認されます。

例えば、家族とあまり関わろうとしなくなったり、同居動物への関心が無くなったりといったことが挙げられます。飼い主が帰ってきたときに喜んでいたのに喜ばなくなった、オモチャで誘っても反応しなくなった、名前を呼んでも振り向かなくなったなどの変化がみられます。名前への反応については単純に耳が聴こえにくくなっている場合と、反応が弱くなった場合の両方が考えられます。

逆に、過剰に近くにいようとするようになったといった変化がみられることもあります。これは、不安が強くなることによって起こることがあります。

Sleep/wake cycle (睡眠/覚醒サイクルの変化)

睡眠/覚醒サイクルについては、昼夜逆転したり、夜に頻繁に起きるようになるといったことがあります。犬の認知症では脳内の神経伝達物質が枯渇してしまうため、睡眠の調節を行う脳神経の働きが落ち、睡眠サイクルが崩れると考えられます。

夜に吠えがひどい、徘徊がひどいとなると、家族がゆっくり寝られなくなってしまうため、この変化を主訴に動物病院に相談される方も多くみられます。

Housesoiling, learning and memory(粗相、学習と記憶)

排泄の失敗や学習・記憶力については、今まで当たり前にできていたことが突然できなくなってしまうといった変化です。

特に、排泄場所を忘れてしまったかのように失敗してしまったり、簡単にできていたトレーニングが出来なくなってしまうことなどが挙げられます。トイレのしつけを忘れる、台所など入ってはいけない場所に入らなかったのに入るようになった、など家庭内のしつけを忘れてしまうようになります。

Activity(活動性の変化)

活動性については、活動が過剰に増えるものから、減るものまでさまざまにあります。

活動性の減少については、寝ている時間が長くなる、臭いを嗅いだりといった行動が減る、刺激に反応しづらくなるといったことが挙げられます。一般的な老化でも起こる変化ですので、必ずしも認知症による影響ではないかもしれません。しかし、体調が悪くないにも関わらず、食べ物の臭いを嗅いだり、食べることにすら関心がなくなってしまうというレベルでは、正常な老化以上の変化が起きていると考えたほうがいいでしょう。

活動性の増加については、ウロウロ歩き続ける、目的無く吠え続ける、ずっと何かを舐めているといったことが挙げられます。起きているうちは回転し続けるような状態になることもあります。目的もなく歩き回る常同障害を併発することもあります。

Anxiety(不安)

感覚機能の衰え、状況把握能力の低下により、不安傾向が強まります。
全般的な不安の増大、小さな刺激に対する不安・反応の増大、飼い主との分離に対する不安の増大などが見られます。

人の認知症との比較

人の認知症は、脳神経疾患や機能障害などの様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態のことをいいます。

症状

よくある具体的な症状としては、物忘れが多くなることはよく知られています。
例えば、人や物の名前を忘れる、何度も同じことを聞いたり言ったりする、置いたものの位置がわからず探すことが多くなる といったことが挙げられます。

他には、見当識障害(誰、いつ、どこ、といったことが理解できなくなる)、理解や判断力の障害(変化に対応しづらくなる)、実行機能の障害(ものごとをスムーズに進められなくなる)、感情表現の変化(怒りっぽくなる、突然落ち込む など)といったことが主な症状として挙げられます。

理解力・判断力の障害や、感情表現の変化は、犬の認知症でも起こる症状であり、その病態は共通する部分があると考えられています。

病態

人医での認知症は病態によっていくつかに分類されており、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症 が代表的なものになります。

■アルツハイマー型認知症

脳神経の変性により、一部が委縮していくことによって発症しますが、進行は比較的緩徐といわれています。

■血管性認知症

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により発症する認知症です。
障害の部位によって認知機能の障害が異なることが特徴で、進行は緩徐もしくは段階的に急速に進行するといわれています。

■レビー小体型認知症

アルツハイマー型認知症と同じく、脳神経細胞の変性によって生じる認知症ですが、レビー小体という物体が神経細胞に溜まっていくことによって発症します。
アルツハイマー型認知症では、物忘れが多いことが特徴的ですが、レビー小体型認知症では幻視や幻聴、パーキンソン症状(手足の震えや動作の緩徐化など)がみられることが特徴的です。

■前頭側頭型認知症

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症と同じように、神経細胞の変性による認知機能の低下による疾患ですが、変性部位が前頭葉や側頭葉前部に特に強いことが特徴的です。
脳の前頭葉は感情や社会性、側頭葉前部は言語や記憶を司っている脳神経分野のため、流ちょうに喋れなくなる、言い間違いが多い、相手に暴力をふるう、社会のルールを守れなくなるといった症状が生じます。


犬の認知症では、現在に至るまで多くの研究が進められていますが、人の認知機能不全症との病理組織学的な変化における相同性は確認されておらず、犬の認知機能不全は重度に老齢化が進んだ脳組織の状態ということが疑われています。

※犬の認知機能不全は人のアルツハイマー型認知症と同じような病気である、という記載を散見しますが、病態としては異なると考えるべきかと思われます

犬の認知症の症状(動画)

徘徊と吠え

徘徊を続け、角で立ち往生(軽度)する様子が見られます。立ち往生して動けなくなると吠えます。
この症例では昼夜逆転があり、夜間に吠え続けるということでご相談いただきました。

回転(無目的行動)

寝る時間が非常に長いものの、起きると回転行動を繰り返しそのほかの行動はほとんど見られませんでした。

犬の認知症と人の認知症の比較

人の認知症の症状は、大きく中核症状と周辺症状という2つのグループに分けられております。

中核症状とは、認知性の障害のことで、記憶障害、見当識障害、実行機能障害、高次脳機能障害からなり、これらの症状が重ければ重いほど脳の病理組織学的変化が重度なものとなっている可能性が高いです。
周辺症状とは、非認知性の障害のことで、行動症状・心理症状(BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia)といわれる症状による障害のことです。

BPSDのうちの行動症状としては、身体的攻撃性、鋭く叫びたてる、不穏、焦燥、徘徊、文化的に不適切な行動、性的脱抑制、収集癖、罵る、付きまとうなどといった症状があり、心理症状としては、不安、抑うつ気分、幻覚、妄想などの症状が含まれます 。

一方、犬の認知症の認知障害やBPSDなどの症状を中核症状・周辺症状という形では分類することができず、認知機能障害・情動変化・身体機能障害など全てひっくるめてDISHAAの6徴候として分類している点は大きく異なります。

犬の認知症の診断

犬の認知症(CCD)と診断するには、①身体疾患との鑑別 ②行動学的問題との鑑別 ③犬の認知症の評価 が重要になります。

①身体疾患との鑑別

特に高齢犬であれば何かしらの身体疾患を生じている可能性は高く、そのことにより問題となる行動が生じていることはまず念頭に置いておかなければなりません。
痛みや痒みなどによって寝られない、足が悪くてトイレまでたどり着けず粗相をしてしまう、といったことはまだわかりやすいかと思います。

一方、脳腫瘍によって見当識障害が生じている、てんかんの一症状として夜中に鳴いている、甲状腺の病気によっていつもより動きが悪くなっている、といったことは動物病院で検査していかないことには判別がつきません。

ただし、踏み入った検査となると全身麻酔をかけてMRI検査といったことも検討しなければならないので、どこまで行うかは動物の状態とご家族がどこまでハッキリさせたいかにもよります。

それらの可能性を、できる限りの検査で除外していき、身体疾患があればその治療を行います。

身体疾患の治療を進めていく中で、それでも当初の問題が改善されない場合は、身体疾患が関与している可能性が低いと考えられ、次は行動学的問題との鑑別を考えていきます。

②行動学的問題との鑑別

犬の認知症と鑑別する上で重要な行動学的問題としては、分離不安、各種恐怖症、常同障害、各種攻撃行動、不適切な場所での排泄、関心を求める行動などが挙げられます。

例えば、夜に吠え始めるのは「家族と離れたことによる不安感の増大」によるものかもしれないですし、粗相を生じてしまったことも「日々のストレスやフラストレーションが積み重なったことによること」かもしれません。

その点はなかなかご家庭で判断することは難しい場合も多くありますので、行動診療科にて問診を受けていただくとハッキリする部分が多いかと思います。

ただし、犬の認知症か行動学的問題なのかをハッキリ分けて考えられるわけではないため、犬の認知症以外の上記の可能性も踏まえつつ、その状況毎の具体的な対応策を現実的なレベルで検討することの方が重要になります。

③犬の認知機能の評価

いざ犬の認知症を疑った場合、どの程度犬の認知症が疑われ、どの程度進行している可能性があるのか、ということを評価する必要があります。

そのために使われる評価ツールとして、Salvinらの犬の認知機能不全評価票(CCDR:canine cognitive dysfunction rating scale)、Rofinaの質問票、内野式100点法 などがあります。

それぞれの質問票には点数があり、CCDRでは60点が満点で、数値が高ければ高いほど犬の認知症に罹患している可能性は高くなり、進行も高度になっている可能性があります。

内野式100点法では、合計点30点以下を生理的な老化、31点~49点を犬の認知症・痴呆 予備群、50点以上を犬の認知症・痴呆としています。このように、高齢動物に認められる行動変化は必ずしも犬の認知症・痴呆と診断できるものではなく、生理的な老化と地続きの関係にあります。

https://blog.nagoyamirai.jp/wp/wp-content/uploads/2017/08/fb0eb15ddb3cd81100d8a072a9297825.pdf

フードメーカーのピュリナも独自の認知機能評価シートを作成しております。
簡素なものになっており、ご家族でも簡単に埋めていただけるものになっておりますので、気になる方は一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

とはいえ、その日の行動と明日の行動は必ずしも同じではないため、可能であれば繰り返しの評価が望ましいと考えられます。

もちろん、これらの評価ツールは診断時にも有用ですが、治療によって症状がどの程度改善しているかについても数値化できるため、治療の評価にとっても有用です。

犬の認知症の治療法

いざ犬の認知症と診断された場合、どこに向かって治療を行っていくかが重要になってきます。
前述の通り、認知症は現在の医療をもってしても完治することはできません。
そのため、治療の目標は「完治」ではなく、「問題となっている行動の改善」もしくは「症状進行の抑制」になります。

主な治療法や対処法は ①薬物療法 ②サプリメントや食事療法 ③環境整備 ④活動機会の提供 が挙げられます。

①薬物療法について

犬の認知症の治療薬として日本において認可されているものはありませんが、海外ではセレギリン、ニセルゴリンといった薬剤が治療薬として認可されています。

それとは別に、寝られない、昼夜逆転してしまっている、ずっと動き続けて止まらない、といった臨床症状に対して補助的に使う薬剤もあり、主に不安感を下げたり、鎮静効果や催眠効果があるものが用いられます。
代表的なものとしては、ベンゾジアゼピン系薬、トラゾドン、メラトニン、抗ヒスタミン薬 などが挙げられます。

セレギリンによるCCDの症状の緩和の効果

セレギリンは、脳機能を支える重要な神経伝達物質、ドパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの分解を行うモノアミンオキシダーゼの機能を阻害する薬剤であり、セレギリンの投与により、モノアミンの代謝に影響を与えることができます。モノアミンの中でも特にドパミンの代謝・分解抑制作用により、パーキンソン病の治療にも用いられています。

犬の認知症の症状の緩和にもセレギリンが効果的であることが知られています。

Chapter 22 Canine cognitive dysfunction as a model for human age-related cognitive decline, dementia and Alzheimer's disease: clinical presentation, cognitive testing, pathology and response to 1-deprenyl therapy,

Progress in Brain Research
Volume 106, 1995, Pages 217-225

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0079612308612182

②サプリメントや食事療法

加齢と酸化ストレスは強い関連があると考えられているため、抗酸化物質を摂取することで、犬の認知症の症状進行を軽減できる可能性があります。
代表的な栄養素としては、ビタミンC、コエンザイムQ10、葉酸、ポリフェノール類などがあります。

食事については、低品質なフードを食べていると犬の認知症のリスクが高まると示されております。
食事によっても抗酸化物質を摂取することは可能で、ω3-脂肪酸(DHAやEPAなど)も摂取できることで犬の認知症改善効果が期待されます。

サプリメントの効果(アクティベートAktivait ®

栄養補助食品Aktivait ®の成分には、グルタチオンの主要な前駆体であるN-アセチル システイン 、α-リポ酸、ビタミン C および E、L-カルニチンおよびコエンザイム Q10が含まれています。必須脂肪酸のドコサヘキサエン酸 (DHA) とエイコサペンタエン酸 (EPA) も含まれており、どちらもヒトの脳の老化の影響に有益であることが示されています。

さらにAktivait ®には、天然のリン脂質であるホスファチジルセリンが含まれており、細胞活動を強化および維持する作用があります。実験動物では、ホスファチジルセリンの投与により、学習および記憶テスト中に用量依存的な改善がみられています。

③環境整備について

犬の認知症を発症すると、動き回ってしまったり、逆に寝たきりになってしまったり、排泄が上手くいかなかったり、散歩に上手く行けなくなったり、といった問題が生じてきます。

なので、動き回っても動けなくならないように円形サークルを利用したり、床ずれが生じないように低反発マットを使用したり、オムツを使用したり、歩行補助ができるハーネスを用いたりというように、その子に生じている問題で、その家庭でも実行できるような環境整備を一緒に検討します。

④活動機会の提供について

上記の各種対応を行っても、身体や感覚を使わなければ使わないほど衰えてしまい、結果的に犬の認知症の進行を早めてしまう可能性があります。

そのため、できる限り散歩に行ったり、できるトレーニングを継続したり、知育トイを用いたり、簡単にできる活動を継続したり、今までより取り入れたりすると良いでしょう。
とはいえ強いるものではないので、愛犬も家族も楽しめるような遊びや関わりを見つけていくことが心身両面で大切なポイントになってくるかと思います。

犬の認知症に対する薬物療法

犬の認知症は、基本的には回復するものではなく、徐々に進行していきます。
その中で、飼い主が過度の負担とならないように症状を緩和し、生活のサポートをしていく目的で、薬物療法が用いられます。
犬の認知症においても、特に飼い主さんが困る症状は、昼夜逆転、夜間の吠え、攻撃性で、主にそれらへの対応が主眼に置かれます。

薬物療法は、認知症の治療薬 と 認知症の症状緩和薬 に大きく大別されます。

認知症治療薬は、認知症の進行や症状全体を緩和する可能性があるお薬です。
代表的なお薬として塩酸セレギリンというお薬があり、米国において犬の認知症治療薬として認可されております。
ただ、覚せい剤原料となり得るため、日本ではその利用については慎重な取り扱いが必要(※ぎふ動物行動クリニックでは、処方することはできます)とされます。

一方、認知症の症状緩和薬は、不安を抑える、睡眠サイクルを改善させる、寝て欲しいときに眠気を誘う、といった目的で使用されます。
良く用いられるお薬として、フェノチアジン系薬(鎮静や不動化)、トラゾドン/ベンゾジアゼピン系薬等(抗不安)があります。

漢方薬も症例によっては奏功することがあり、漢方薬の中では抑肝散が注目を集めています。
その他には、抑肝散加陳皮半夏、八味地黄丸、釣藤散なども人間の認知症に対して用いられており、応用の可能性があります。
柴胡加竜骨牡蛎湯も不安を除き睡眠を誘導する作用が強いため選択肢の一つになります。
これらの漢方薬の利用については、体質や症状などをよく検討して、中医学・漢方医学的な診断を行う必要がある上、まだ十分なエビデンスはなく、今後、研究を進めていきたい部分です。

犬の認知症に対する代表的な薬物

2022年4月2日薬物療法

犬の認知症に使用する代表的な薬剤

犬の認知症に関する論文紹介

2022年4月4日論文紹介

【論文紹介】レスキュー犬の小規模集団における腸内細菌叢と同種間攻撃行動との関連性

2022年4月3日犬の認知症・痴呆

【論文紹介】自然発症の犬特発性てんかんにおける認知機能障害

2022年4月3日犬の認知症・痴呆

【論文紹介】新規ブチリルコリンエステラーゼ阻害剤によるイヌの認知機能障害治療

2022年4月3日犬の認知症・痴呆

【論文紹介】犬認知機能障害症候群(CCDS)に関連した血漿プロテオームの変化について(in タイ)

2022年3月26日犬の認知症・痴呆

【論文紹介】脳組織へのアミロイドβの蓄積が高いことは、犬の認知症の進行度と相関する

日本犬は認知症になりやすい?

柴犬や日本犬は、犬の認知症になりやすいとの記載をみかけることもありますが本当でしょうか?

動物エムイーリサーチセンターの調べでは、高齢性認知機能不全発生頭数の48%が日本犬系雑種、34%が柴犬であったと報告されています。

一方で、10~13歳における犬の認知症発生率は日本犬より洋犬で発生率が高く、その他では差がなかったとの報告もある。(水越ら,2017年,”高齢犬の行動の変化に対するアンケート調査”)
また、海外における疫学調査において、日本犬に認知症の発症が多いというデータはないようです。

多くの研究が示しているように、日本犬でとりわけ認知症の発症が多いという可能性は低いのではないかと見積もられます。
また、日本犬に認知症が多かったという研究について、調査対象が生活に支障を生じる程度の重症度の犬を対象としたことも影響しているのではないかと言われています。

色々な意見はありますが、どの調査も加齢すればするほど認知症が生じやすいことは一致しています。
そのため、動物の医療が発達し、予防が徹底され、フードの質が改善されてきている昨今、犬の寿命は数十年前に比べ格段に伸びており、それに伴って犬の認知症の発生頭数は増加しています。

認知症を発症した犬は、様々な行動障害が発生するため、犬だけでなく、飼い主のQOLも下げる結果となってしまいます。
病気が治るということはありませんが、様々な対処によって緩和することはできます。
共に暮らし、介護していくために、どのような対処が出来るのか、飼い主も学び、支援者もしっかりと学び続けなくてはなりません。

犬の認知症・痴呆相談例:1

お伺いした内容

【全体の流れ】
2017年10月に管理センター(保健所)に保護され、2018年1月に保護シェルターに移動。その後、2018年7月に飼い主さん宅へ保護されたとのことでした。

【元々の生活】
4月までの生活としては、朝5:00・昼14:00・夕方18:30(遅い場合は20:00ごろ)に散歩やトイレだしをしているような生活で、飼い主さんがご飯を食べ終わるなど、散歩に行けそうなタイミングで吠えて要求することがお決まりになっていたとのことでした。夕方~夜の散歩・トイレ出しが終わったら、ケージに入って落ち着いて寝ており、夜遅くまで起きていることはなかったとのことでした。

【夜中の吠え・徘徊について】
5月に入ってから、ケージに入れるとクゥーンクゥーンとなくようになり、ケージの扉を開けておくようにしたとのことでした。

5月10日になったころには、昼寝る時間が長くなり、昼のトイレ出しで起こそうとしても起きなくなったとのことでした。玄関で誰が通っても寝ている状態となり、14:00ごろにトイレ出した時もその後すぐ寝てしまう状態だったとのことでした。17:00ごろに散歩に連れていくと覚醒し、その後、夜10時頃まで起きて動き回るようになったとのことでした。それ以降は、20:00ごろにもう一度トイレ出しするようにしているとのことでした。

5月20日ごろからは、起きている時間が伸びて、0:00ごろまで起きているようになったとのことでした。この頃はまだ吠えが少なく、ウロウロしたりぼーっとして立ち尽くしていることが多かったとのことでした。

5月25日ごろからは、夜中中起きているようになり、夜中の間、人がそばにいないとクゥーンと吠えることが増えてきたとのことでした。定期的に1時間おきくらいに吠え、飼い主さんがそばに行くと止まるというという状態で、これ以上鳴くと困るので、フードを与えたり、ミルクを与えたりしていたとのことでした。外に連れ出してみたりもしたとのことでした。朝散歩に行くと、その後寝るような状態になったとのことでした。

5月28日は、22:00~23:00にかけて吠えていたものの、対応しなかったところ、収まったとのことでした。その次の日の朝は、おじいちゃんがリードを着けて散歩に行くことができたとのことでした。

【攻撃的な行動について】
攻撃的な行動については、2月頃から始まり、特におじいちゃん、おばあちゃんに対して、吠えるようになったとのことでした。状況としては、おじいちゃん、おばあちゃんが近づいて撫でようとしたり、リードを着けようとすると唸り、牙を見せるようになったとのことでした。2月以前は、おじいちゃんがリードを着けようとしても嫌がらなかったとのことでした。

2月頃までは飼い主さんが散歩後の足ふきをするときも嫌がらずにやらせていたものの、2月からは嫌がって唸って歯をむき出すようになり、それ以来拭くことはしていないとのことでした。

2月~4月の間は、こうした攻撃の頻度は多くなく、週に1回程度だったのが、5月入ってから、週に2~3回見るようになり、特におじいちゃんに対して強くなり、立っているだけ(目を合わせるだけ)で吠えるようになったとのことでした。

【その他の行動の変化】
・5月から極端に歩くスピードが遅くなった。4月までは走ることもあったが今はない。
・抱っこしようとすると唸る、トリミングサロンでもドライヤーをかけていると唸ることがある。

【その他の情報】
・5月28日血液検査の結果、BUN(103)、CRE(3.98)、IP(9.5)高値
・5月27日ごろから嘔吐が2日に1回程度
・お皿の水は好きではなく、ホースの水や、公園の水道の水、水たまりの水、植木鉢の水を飲みたがる。
・週に1回程度、ゴハンを全く食べない日がある。その他の日は食欲があり、ほとんど食べている。
・便の状態は固くコロコロ。下痢はしたことはない。
・体重9.4㎏

診察室での様子

サークルの中にいさせたところ、立位で立続けていました。背中を触ると軽く唸る行動が見られました。回転運動をすることはほとんどありませんでした。顔は下を向いており、意識がはっきりしているような状態ではなく、目をつむって立位のまま寝そうになっていました。

診断とお話し

今までの行動の経歴とカウンセリング時の様子から考えると、犬の認知症(高齢性認知機能不全)による症状であると考えられます。内野式100点法では35点であり、100点法では認知症予備群に分類されます。身体疾患として血液検査の結果より腎不全が疑われます。かかりつけ動物病院にも相談の上、そちらの対応をどうするかについては、ご検討いただければと存じます。

犬の認知症・痴呆は、治療で回復することは現在の医学では難しく、症状を緩和したり、犬と飼い主さんのQOLを上げるために何が出来るかを考えていくという形になります。薬物療法で緩和されることもありますので、そうした対応も含めて実施していくようにしましょう。

ただし、今回、腎機能の低下がありますので、薬物療法については慎重な対応が必要です。排泄の機能が落ちており、嘔吐も見られるということで、副作用が出やすくなることも考えられます。副作用の少ない薬物療法から実施していき、反応を見ながら、また、症状の進行を見ながら、対応を考えていく必要があるでしょう。

以下に対処法を列挙いたします。

対応と対策

1. 家で吠えた場合
吠えた時に、オヤツを与えたり、ミルクを与えたりすると余計に吠えが強くなる場合があります。無視してもやまなくなることも考えられますので、状況を見ながら判断をしていく必要があります。

2. 薬物療法
薬物療法では、以下の薬物を使用してみましょう。

・ ジルケーン
ミルクに含まれるタンパク質のカゼインをトリプシン加水分解したα-カソゼビンを主成分としています。脳のGABAA受容体に作用して、脳全体の活動のトーンを下げ、鎮静や睡眠を誘導する作用があります。ミルク由来のサプリメントですので副作用を心配せず使用することができます。

・ 八味地黄丸
老化に伴う諸症状、認知機能の低下にも使用される漢方薬です。漢方医学的には「腎」(西洋医学の腎臓の意味ではありません)は生命力の源であり、腎の機能が下がることで、老化に伴う諸症状(足腰のふらつき、排尿の異常・失禁、元気の消失、認知機能の低下など)が現れます。八味地黄丸は腎の機能を補うことで、これらの諸症状を緩和します。

・ 抑肝散加陳皮半夏
認知症に伴う、不安・不眠・易怒性の亢進など、感情の問題に利用される漢方薬である、抑肝散に陳皮と半夏を加えた漢方薬です。

今回は感情の問題よりも、昼夜逆転や徘徊の問題が強いという印象があります。嘔吐があるため、抑肝散加陳皮半夏を処方しました。先に八味地黄丸を試して様子を見て、その後、抑肝散加陳皮半夏を試しましょう。

漢方薬とジルケーンでよい結果が得られない場合は、副作用のリスクは上がりますが、西洋薬で脳内伝達物質の代謝を調整して認知機能を回復させることを目指す、もしくは夜間の睡眠を誘導する、あるいは不動化させるということも、今後検討が必要になるかもしれません。

犬の認知症・痴呆相談例:2

実際のご相談

今年の初めごろから、ぐるぐる回る、行き止まりで立ち往生してしまう、食欲がないなどの症状に問題を感じご相談いただきました。

お知らせいただいた内容(行動の経歴)

Mちゃんは15歳の柴犬の女の子で、高齢からか、最近徐々に認知機能が衰えてきており、特に今年の春以降、ぐるぐる回り続ける、行き止まり(テレビ台の裏など)で立ち往生してしまう、などの症状がみられるようになったとのことでした。

生活はリビングが中心で、家具などはほとんど置いていないものの、テレビ台があり、しばしばその裏に迷い込んでしまい出れなくなってしまうということでした。出れなくなった場合はその場で寝ていることがほとんどであるとのことでした。

夜に急に起き出すこともあり、しばらくぐるぐる回っているとのことでした。しかし、吠えることはないため、飼い主さんが寝不足になったり、近所迷惑になるということはまだ起こっていないとのことでした。

外でしか排泄をしないため、1日4回さんぽに行っており、腰を支えてあげることで排泄ができているとのことでした。

食欲が弱く、ドッグフードをふやかしたり、カステラやチーズを与えているとのことでした。

診断とお話し

今回の問題行動は、犬の認知症(高齢性認知機能不全)と考えられます。かかりつけ動物病院にて血液検査を実施しており、腎臓が悪いとのことでしたので、そちらのケアも継続的に実施していく必要があるでしょう。

今回の症状は、いずれも高齢性認知機能不全の症状(DISHAの5兆候)に該当します。犬の認知症は、治療で回復することは現在の医学では難しく、症状を緩和したり、犬と飼い主さんのQOLを上げるために何が出来るかを考えていくという形になります。以下に対処法を列挙いたします。

今後の治療法・対処法

1.環境の改善
グルグル回っても大丈夫なように、円形のサークルを用いるようにしましょう。あるいはリビングの角にドッグガードを置くなどして、角を作らないようにしましょう。

2.散歩に行く
足腰が立つうちは、散歩に行くようにしましょう。刺激を与えることで、脳機能の活性化につながります。

3.手からゴハンを与える
手からでなければ食べないと思いますが、手から与えて飼い主さんとのコミュニケーションをはかるようにしましょう。声掛けしながら与えると良いでしょう。

4.食べられるものを与える
食欲がないようなら、ドッグフードにこだわらず、食べられるものを与えるようにしましょう。臭いの強いものを与えることで脳が刺激されます。

5。補助器具の使用
足が立たなくなってくると思いますので、徐々に腰を浮かせる補助器具を使用するようにしましょう。

6.薬物療法
症状を緩和する目的で、抑肝散加陳皮半夏を使用してみましょう。朝晩のご飯に混ぜて与えるようにしましょう。

犬の認知症の豆知識