今回ご紹介させていただく論文は、Nicoleらが2019年に発表した下記のものです。
”The gut microbiome correlates with conspecific aggression in a small population of rescued dogs (Canis familiaris)”
(レスキュー犬の小規模集団における腸内細菌叢と同種間攻撃行動との関連性)
腸内細菌と攻撃性について、関連性が無いか調べた論文になります。
一見、腸内環境と精神状態には関連性がないように思いますが、人の方では腸内環境の状態が不安や抑うつの1要素になっていることが示唆されています。
そのため、腸内細菌などの腸内環境は犬の精神状態に影響し、攻撃性を生じやすくしている要素になっているのではないか?と仮説を立てたようです。
果たしてどんな結果だったのでしょうか?
それではみていきましょう。
Abstract
攻撃性は、犬と人間の双方を危険にさらす家庭犬の重大な行動障害である。
犬の攻撃性の根本的な原因は十分に解明されておらず、効果的な治療を行うためには解明が必要です。
最近の研究では、マウスやヒトなど他の哺乳類において、腸内細菌群の組成の多様性が行動や心理の調節に関係していることが明らかになっています。
これらの知見を踏まえて、イヌの腸内細菌叢の組成が攻撃性と関連する可能性があると仮定した。
我々は、闘犬組織から押収したピットブルタイプの犬の小集団から採取した糞便マイクロバイオームサンプルを解析した。
この集団には、同種間攻撃行動を示す犬21匹と示さない犬10匹が含まれていた。
β多様性解析により、腸内マイクロバイオームの構造と犬の攻撃性との関連性が支持された。
さらに、攻撃的な犬と非攻撃的な犬を層別化する腸内細菌の特定の生物群(クレード)を、系統学的アプローチで解明した。
そのクレードには、Lactobacillus、Dorea、Blautia、Turicibacter、Bacteroides内のクレードが含まれる。
これらの分類群のいくつかは、消化管疾患状態だけでなく、哺乳類の行動調節にも関与していることが示唆されている。
本研究のサンプルサイズには限界があるが、我々の知見は、腸内細菌が犬の攻撃性に関連していることを示し、腸内細菌叢と相互作用する攻撃性に関連した生理的状態を指し示している。
また、これらの結果は、腸内細菌が攻撃的行動の発現前の診断に有用であり、攻撃性の不可解な病因を見分ける可能性があることを示している。
※www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳し、微修正しました。
この文献からわかること
本論文は、腸内環境と同種間攻撃行動の関連性を調べた結果、異なる細菌叢や生物群の多様性が見られることが発見されたとのことでした。
とはいえ、同種間攻撃行動を示す犬には腸内環境を整えるアプローチが有益だ!とは言い切れません。
なぜなら、論文の結論にも挙げられておりますが、本論文での細菌叢が異なったことは下記の3つの可能性を示しているからです。
仮説①:攻撃的な犬は腸内細菌群の構成に影響を与える生理的条件を腸内に示している
つまり、対象群と攻撃群ではそもそも備わっている生理状態が異なるというわけです。
そのため、いくら腸内細菌叢を整えるようなアプローチをしても、元々の生理状態が変化しなければ意味がありません。
仮説②:腸内細菌叢の構成は攻撃的な行動に影響を与えうる
もしそうであれば、純粋に腸内細菌叢を整えることで、犬の攻撃性や精神状態に影響を与えられる可能性があります。
そうなると腸内細菌叢を調べることで、特定の細菌が増えていたり特定の細菌が見られるような状態を確認できると、攻撃性のリスクを評価できたり、腸内細菌叢の調整目標ができたりしますね。
そうなると、フードやサプリメントといった食事療法が大きなカギを握るのかと思います。
仮説③:攻撃的な犬は非攻撃的な犬に対して何らかの偏った共変量にさらされ、それも腸内細菌叢に影響を与えている
これはややこしい話ですね。つまりは、今回変数として用いなかった何か別の要素が、腸内細菌叢に影響を与えているかもしれない、という話です。
となると、食事やサプリメントでは対応できない何かが影響している可能性があります。
いずれにせよ、腸内細菌叢を整えることは人と同様に、犬にとっても非常に重要な療法になってくるかもしれません。
犬用の R-1(ヨーグルト)が商品化されてもおかしくないかもしれませんね。
食事療法は(嗜好性が良ければ)すごく簡単に実践できる療法です。
特に攻撃行動を生じる動物には、内服が困難だったり、行動修正が実践しづらい動物も少なくありません。
こういった研究がさらに進み、治療オプションが増えてくると、助かる家族が増えるかと思われます。
今後に期待してみていきましょう。