今回は、Satapornらが2021年に発表した下記の論文をご紹介します。
Change in the plasma proteome associated with canine cognitive dysfunction syndrome (CCDS) in Thailand
(タイにおける犬認知機能障害症候群(CCDS)に関連した血漿プロテオームの変化について)

Abstract

背景
犬認知機能障害症候群(CCDS)は、高齢犬に見られる進行性の神経変性疾患である。生物学的マーカーがないため、CCDSは一般に過小診断される。
本研究の目的は、プロテオミクス技術(タンパク質の同定や定量を行う技術)を用いて血漿バイオマーカーの候補を同定し、本疾患の発症メカニズムの理解を深めることであった。血漿アミロイドβ42(Aβ42)は、CCDSのバイオマーカーとして議論のあるものと見られている。プロテオミクス解析により、タンパク質の同定と定量を行った。

結果
CCDS群、老犬群、成犬群において、血漿検体中の87個のイヌ科動物に特異的なタンパク質が同定された。
87個のタンパク質のうち、老犬群では48個、成犬群では41個のタンパク質が変化していた。CCDS群で同定されたいくつかの明瞭な発現血漿タンパク質は、補体・凝固カスケードおよびアポリポタンパク質の代謝経路に関与していた。血漿中のAβ42濃度は、CCDS群と老犬群でかなり重なりあっていた。成犬群では、Aβ42濃度は他の群に比べ低値であった。しかし、CCDS群では血漿Aβ42はCanine Cognitive Dysfunction Rating scale(CCDR)スコアと相関を示さなかった(p = 0.131, R2 = 0.261)。

結論
今回の結果から、血漿中のAβ42はCCDSの診断用バイオマーカーとして使用できる可能性はないことが示唆された。
ナノLC-MS/MSのデータから、CCDSの予測される基礎メカニズムは、炎症を介した急性期反応タンパク質と補体・凝固カスケードが同時に生じることであり、一部はアポリポタンパク質と脂質代謝によって機能することが明らかとなった。発現量の異なるタンパク質のいくつかは、血漿中のAβ42とともに、CCDS診断のための潜在的な予測バイオマーカーとなる可能性がある。今後、より大規模な集団ベースの疫学調査において、タンパク質の発現とCCDSの病態との相関を明らかにするための検証研究が必要である。

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本文献からわかること

本論文は犬の認知症のバイオマーカーを見つけようという試みをしております。
残念ながら、本論文でも「これだ!」という指標は見つけられなかったとのことです。
また、前回ご紹介した論文ではCSF中のAβ42は診断ツールにならないとご紹介したことと併せ、本研究では血漿中のAβ42も診断ツールにならないことが示唆されたようです。

ただ、CCDSの発生機序として炎症反応や凝固カスケードが関与している可能性が示されたことは、CCDSの予防や進行の制御に関する重要な情報だと感じました。
本研究でもまだまだ調べ切れていないバイオマーカーもあるようなので、今後の追加研究が待たれます。