【本記事のハイライト】
- 何の前触れもなく攻撃する場合、「脳の疾患」の可能性がある
- 犬は元々平和的な生き物であり、急に血が出るほど咬むという状態は、何らかの異常が潜んでいる可能性が高い
- 獣医師による診断を受け、病気の有無を調べることが優先される
犬が前触れなく突然咬むという相談は、当院でも非常に多いです。
最近では、犬の攻撃行動が、脳や身体の病気によって引き起こされるということも一般的に知られるようになってきました。行動は脳の制御下にあります。脳は腸や身体全体と繋がっており、腸や身体全体の状態が脳に影響し、行動に影響します。脳の病気、身体の病気が咬み付きに影響している可能性は少なくありません。
脳と身体の疾患の有無を精査してから、治療を行わなければ、間違った治療を行うことになりかねません。
犬の精神病
最も多いのが、人間のうつ病のような、犬の精神病ともいえる脳機能の異常です。これは、主に脳神経の働きや神経伝達物質の均衡に不具合が生じている場合に生じると考えられており、あまりにも不安が高い、衝動性が高い、刺激に対する反応性が高いといった、生得的なレベルを大きく超えた行動がみられるようになります。
特にセロトニンという神経伝達物質は、脳のブレーキとも呼ばれ、感情の昂ぶりを抑える作用があります。セロトニンを人為的に枯渇させた動物は攻撃的になることが知られていますし、持続的なストレス状態に動物を置くことで、セロトニン代謝に異常が生じることも分かっています。
人間のうつ病でも、セロトニンの代謝に影響を与える薬が症状の改善に役立つことが多くありますが、犬の攻撃行動でも、セロトニンの代謝を調節する薬を使うことで、劇的に症状が改善する場合があります。
セロトニンが枯渇した動物では、感情のブレーキが効かず、急に攻撃する、突然攻撃するという風に感じられることが少なくありません。
仮に脳機能の異常がある場合には、抗うつ薬等による治療が不可欠です。その治療をせずに、トレーニングで改善しようとしても、効果が得られることはないと思った方が良いでしょう。
ホルモン疾患
脳機能に強く影響する身体の機能としてホルモン分泌があります。甲状腺機能低下症や、副腎皮質機能亢進症では、ホルモンのバランスが崩れることで、脳の状態も変化し、それが行動の変化、攻撃行動の発現につながることがあることが分かっています。
ホルモン疾患が分かれば、ホルモンを補充するなどの薬物療法を行うことで症状が改善することが多いです。
痛みや不快感
もう一つは、身体的な病気です。痛みや不快感がある状態では、その部分を触られたくない、抱っこされたくないという思いから攻撃行動が生じることはあります。ただ、これは急に咬むというよりは、こちらが何かしようとして、嫌がって咬むという事なので、その分、原因はわかりやすいかもしれません。
てんかん発作
もし仮に、本当に急に何の前触れもなく脈絡なく攻撃が生じる場合、てんかん発作の一種である、焦点発作が起こっている可能性が考えられます。焦点発作とは脳の一部でてんかん発作が起こる病気で、脳の一部だけが暴走しているため、情動や行動の変化が生じます。
仮にてんかん発作であった場合は、抗てんかん薬による治療が不可欠です。その治療をせずに、トレーニングで改善しようとしても、効果が得られることはないと思った方が良いでしょう。
激怒症候群
また、急に攻撃行動が発生する場合「激怒症候群」という名称が使用されることがありますが、これは、本当に原因がわからない攻撃行動のことを指します。しかし、多くの場合では、周囲の人間が気づいていないだけで、何らかの行動学的なきっかけがあったり、身体的な問題が見つかります。本当に原因不明の咬みつきはほどんどありません。
まとめ
犬は本来平和的な生き物で、むやみに他者を攻撃するような行動はとりません。それなのに、犬が突然怒って咬む行動があるということは、なんらか、正常とは違う状態があると考えるのが自然です。
完全に心も身体も健康であれば、前触れのない攻撃は発生しないでしょう。特に犬歯が刺さるようなレベルの、抑制のない攻撃ではなおさらです。脳であれ、身体であれ、何らかの異常があると考えて、対処すべきです。
必ずしも「病気」だけが原因ではありません。しかし、病気が背景に隠れていることも十分に考えられるのです。だからこそ、まずは、病気の可能性を疑い、その可能性が低いのであれば、トレーニングや関係性の改善という部分に取り組んでいくという順番が適切です。
犬の急な攻撃の治療に向けて、病気の関与を調べたい場合は、是非行動診療科を受診してください。
ぎふ動物行動クリニックの行動治療
犬のしつけ教室ONELife/ぎふ動物行動クリニック(岐阜本院・浜松分院/院長奥田順之:獣医行動診療科認定医)では、犬の噛み癖、自傷行動などの問題行動の相談・治療に取り組んでいます。来院型のほかに、往診による診療、遠方の場合はオンライン診療、預かりによる行動治療(岐阜本院)も実施しております。
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