「ウールサッキング(毛織物吸い行動)」という行動を知っていますか?
一部の猫に認められる、主に布製品を吸ったりかじったりする行動ですが、かじったものをそのまま誤食してしまうと腸閉塞になり、開腹手術が必要になるケースもあります。
ウールサッキングの原因はまだあまりわかっていませんが、品種や早期離乳、日常生活におけるストレスなど、複数の要因が関与していると言われており、治療には様々な角度からのアプローチが必要になります。
今回はその一例をご紹介します。
ご相談の趣旨
主に布製品をかじる・誤食する
基本の情報
- 雑種猫、年齢1歳6ヶ月、性別避妊メス
- 保護団体より、生後半年くらいの頃に迎え入れた
- 現在、健康状態に問題はなし(動物病院受診済)
既往歴
- 紐を誤食した後に催吐処置を行ったが、うまく吐けず、結局便に出てきた
生活環境・生活習慣
- 基本的には家中フリーだが、留守番時(週3-4回)は3階だけで過ごすようにしている
- 先住猫が1匹いる
- お気に入りの場所の取り合いなどがきっかけでケンカしていることが多く、毎日のように追いかけっこしている姿を見る
- どちらかが怯えているなどはなく、対等にやり合っている印象
- くっついて寝る機会は少ない
- 2匹がケンカした時に、どちらかが大きな声で鳴くことがある
- 夜はご家族と寝室のベッドで一緒に寝る
問題となっている行動について
- 行動の状況
- 保護団体のところにいる時、一度トライアルしたが、ウールサッキングが原因でその家庭とはうまくいかず、戻ってきた経緯があった
- 家に迎えてしばらくは落ち着いていたが、2-3ヶ月くらいで服の紐をかじるようになった
- 波はあるが徐々に悪化傾向(かじる対象の拡大、頻度の増加)
- 1回かじったものをかじりやすい習性がある
- 最近の出来事
- 11月初頭に連発した(きっかけは不明)
- ①11/1
- 長めの留守番をした日だった
- それまでも同じくらい長い留守番をしたことはあった
- 帰宅したところ、かじったことのなかった毛布をかじり、大量に吐いた跡があった
- ②11/4
- 夜、ご家族は就寝中
- 普段は台所に行けないようにしているが、たまたま寝室の扉が開いていて台所に行ってしまった
- お肉の吸水紙とラップを食べて吐いた跡があった
- ビニールまでかじったのは初めてだった
- ③12/5
- 夜、ご家族がリビングでうたた寝中
- 猫用の水・食器を置いているマットをかじった跡があった
- 数日後に便に出てきた
- ここ1ヶ月はやや減ってきていたが、3日くらい前、③と同様にうたた寝している間にマットをかじった
- これまでの対策
- 一度かじったものは捨てる
- かじりそうになった時に声かけてやめさせている
- 声がけだけでやめるのが半分くらい
- やめない時は、そばに行ってかじっている物を回収している
- 回収時に怒ったりすることはなく、異様に執着する様子もない
- お腹が空いているせいかもと思って、昼もドライフードを食べられるようにした
- あまり効果はなかった
その他の情報
- おもちゃ遊び好き
- 蹴りぐるみはかじって半分くらいになったことがあった
- 羽がついているものもかじって飲み込んでしまうので気を付けて遊んでいる
- 遊ぶのは休日が多い(平日は仕事もあり遊べないことも多い)
- 性格はかなり甘えん坊
- 基本的にずっとご家族の膝の上にいる
- 1匹で3階に行って、ご家族を呼んで鳴くことがある
診断とお話し
- 診断名:ウールサッキング(毛織物吸い行動)
- いろいろなものを齧ってしまう行動は、ウールサッキングと診断しました。
- ウールサッキングの原因ははっきりとはわかっていませんが、早期離乳や分離不安、ストレスがきっかけで生じることが多いと言われています。また、シャム種・オリエンタル種などはウールサッキングの好発品種と言われています。
- ウールサッキングをする猫の多くは、生後8ヶ月までの若齢のうちから布を齧る・吸う行動が見られ始め、徐々に布以外のものに対象が広がっていきます。2歳くらいまでに行動が落ち着く子が多いですが、中には生涯行動が続く子もいます。
- 本猫は保護猫なので生後の環境がわかりませんから、早期離乳が影響している可能性はあります。また、普段からかなり甘えん坊の性格であること、留守中・就寝中などに多く行動が見られることなどから、ご家族の気を引けないストレスや葛藤が原因で行動が発現している可能性もあります。ご家族が見ている時には、齧る行動によってご家族が必ず見てくれる・声をかけてくれることから、関心を求めるために行なっている側面もあるかもしれません。
- また、同居猫ちゃんとの関係があまり良好ではないことからも、持続的なストレスがかかっている可能性もあります。
- 重度の場合には、かじる行動に執着してしまって本人にも周囲にも全然止められなくなってしまう、常同障害と呼ばれる病的な状態となってしまう子もいます。こうした場合には投薬治療が必要となりますが、カウンセリングでお話を聞いた限りでは、おそらく現時点では投薬などは必要ないと考えられます。
- 今後は行動を改善するために、環境面、ご家族との関わり、同居猫ちゃんとの関係など、様々な角度から取り組んでいきましょう。
具体的な対応策
- 環境の整備
- 齧りそうなものは撤去・アクセスできないようにする(継続)
- ご家族の対応
- 遊びの時間を増やして、ご家族との好ましいコミュニケーションの時間を確保する
- 同居猫ちゃんとの関係
- 同居猫ちゃんと離れて落ち着いて過ごす時間を確保する
- それぞれ別の場所で遊ぶ・リラックスできるようにする
- 部屋や階で行動範囲を仕切って、接触の機会を減らす
- その他
- かじっても良いもの(丈夫なおもちゃ、歯磨きガムなど)を与えて、かじる欲求を満たす
- 食物繊維を多く含む食事に変更する
- どうしても留守番中や就寝中などに行動が目立つ場合、サプリメントや内服も相談する
まずは環境の管理を徹底しつつ、遊びを増やすことや同居猫ちゃんとの生活を工夫することから実践して、反応を見ていく方針となりました。今後も注意深く経過を見守っていきます。
ウールサッキングに関してさらに詳しく学びたい方は、是非こちらの記事もご覧ください。
https://tomo-iki.jp/cat-problem/12886


