布やビニールなど食べ物でないものを食べてしまうことを、専門的な用語では「異嗜(いし)」といいます。
子猫は、さまざまなものを噛んで確かめてみるものですが、そうしたものを実際に食べてしまうことは滅多にありません。しかし、中には「ウールサッキング」「毛織物吸い」などと呼ばれる、布などの食べ物以外の物を吸うだけではなく実際に食べてしまう行動がみられる猫もおり、頭を悩ませている飼い主さんも多いのではないでしょうか。
猫の「ウールサッキング」「毛織物吸い」とは…?
この行動は、吸う動作を含むことから、お母さんのお乳を吸う行動が成長してもなくならず、悪い癖となってひどくなったもの…と思われる方も多いと思いますが、単純に「お乳を吸う行動が成長後も抜けていない」場合と「布を吸って食べてしまう」場合とでは、少し背景が異なっています。
猫が成長しても持続する長すぎる吸乳行動
まだミルクを飲んでいる時期の子猫にはお母さんのお乳に対する生まれもった欲求が備わっています。この欲求は、栄養を取るために必要なものなので、お乳を吸う行動は、離乳期に十分な栄養を取れて欲求が満足されるまで続き、次第に減少していきます。
離乳期の初期に母猫から十分なお乳を与えられなかった子猫、早くに離乳した子猫、また、人工哺乳で育てる必要のあった子猫には、栄養を取ることとは関係なくきょうだい猫の身体や自分の身体を吸うような吸いつき行動がみられることがあります。この吸いつきはひどい悪癖になる場合があり、人間の皮膚や同居の犬、ぬいぐるみ、ボタンや衣服のようなものに対してまで吸いつくことがありますが、これらの行動は離乳の変型タイプのひとつとも言え、正常な行動の延長線上にあるものです。
おとなになっても吸いつき行動が残ってしまった猫では、くつろいでいる時にお母さんのお乳を押すようなふみふみの仕草やゴロゴロとのどを鳴らす行動が継続してみられるものの、吸いつく行動はいずれなくなることが多いといわれています。
猫のウールサッキング・毛織物吸い行動
お母さんのお乳を吸う行動からくるもうひとつの問題行動として、「ウールサッキング」と呼ばれる毛織物や布などを吸ったり食べたりしてしまう行動があります。
この行動は、ウール製品や布の切れ端を口で吸ったり噛んだりしてちぎって飲み込んでしまったり、人間の身体(脇の下など)を吸い続けようとするもので、ラノリンと呼ばれる羊毛の脂質などの動物の皮脂に対する反応として起きる行動であるといわれている他、早期の離乳、ストレス、食欲に関する神経の機能異常、分離不安、吸乳行動の持続など、さまざまな要因が関連していると考えられています。シャムやバーミーズなどの東洋品種やその雑種に頻繁にみられることから、遺伝的な要因も関係していると考えられます。
ウールサッキングがみられる猫のほとんどは、生後9~10ヶ月くらいまでは異常な吸いつき行動をみせることはありません。その後、生後1年以内に問題行動が始まることが最も多く、2歳までに自然に消失することもありますが、中には一生やめない猫もいます。
猫のウールサッキング、布を食べる行動の原因は…?
からだの病気が潜んでいることも…
食べ物以外の物を食べてしまう行動が、特に成猫や老齢になってから始まった場合や、なんら行動学的な要因が見当たらないという場合には、身体的な病気が潜んでいる可能性があります。栄養欠乏や電解質の不均衡、胃腸障害などにつながる疾患や、多食につながる疾患、そして中枢神経系の障害などについて、獣医学的な検査を徹底的に行うことが不可欠です。
常同行動・常同障害
常同行動とは、特定の行動が異常な頻度や持続時間で強迫的に繰り返されるもので、犬の尾追い行動やハエ噛み行動、犬でも猫でも過度の舐め行動などがよくみられますが、ウールサッキングも常同行動として繰り返されている場合があります。
ストレス、葛藤、または欲求不満を伴う環境によって生じることが多いとされ、飼い主がその行動に関心を与えることによって強化されるといわれています。
関心を求める行動
絶えず飼い主の後をついて回り、時々鳴き声をあげながら飼い主と関わろうとしたり身体を接触させようとするなど、飼い主に対する愛着が過剰な場合にも、飼い主の衣服や肌を吸ったり舐めたりする行動が過剰となることがあります。猫によっては飼い主の留守時などに不安が強くなり、問題行動が悪化する場合もあります。
また、これらの猫は絶えず飼い主との関わりがなければ不安になってしまうため、飼い主がなんらかの形で関心を示したり注意を向ける行動を過剰に繰り返すことがあり、ウールサッキングもこの行動のひとつである場合があります。この行動は行動学的には「関心を求める行動」と呼ばれています。
猫のウールサッキング、布を食べる行動をやめさせるには…?
身体的な病気が疑われる場合は、動物病院で検査や治療を受けましょう。また、ウールサッキング以外の行動上の問題が影響していると考えられる場合には、その治療も必要でしょう。
その上で、実施できる対策としては、以下のとおり挙げられます。
①飼育環境と生活習慣を見直しましょう
猫の問題行動は、単純にひとつの原因があるのではなく、猫の生活環境・生活習慣に存在する何らかのバックグラウンドストレスが絡んだ複合的な問題であることがほとんどです。そこで、猫の飼育環境が適切かどうか、猫の社会的なニーズを満たしているかどうか確認し、「猫にとって快適な生活環境を常日頃から整えておくこと」が大変重要な治療のひとつだと言えます。
そのためには、下記5項目を満たすことができるよう努めましょう。
- 安全で安心できる場所を用意すること
- 猫にとって重要な必要物資(トイレ、フード、水、爪とぎ、おもちゃ、休息/寝床)を複数用意し、環境内に複数箇所、それぞれ離して設置すること
- 遊びや捕食行動の機会を与えること※1
- 好意的かつ一貫性のある、予測可能な人と猫の社会的関係を構築すること
- 猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意すること※2
※1 猫の遊びや捕食行動については、こちらの記事もご参照ください。
※2 嗅覚を含めた猫とのコミュニケーションについては、こちらの記事もご参照ください。
②布など食べてしまうものを猫から遠ざけておく
安全対策として、猫のまわりには食べてしまいそうな物を置かないほうがよいでしょう。
③適切な噛むおもちゃを与える
噛みちぎって食べることのできない安全な素材の噛むおもちゃを準備し、問題となる行動の代わりに噛む欲求を満たす機会を与えてあげるとよいでしょう。
④食事内容を変更してみる
食事のかさを増やすことで、空腹が満たされ、食べ物でないものを食べてしまう行動が減ることがあります。栄養的にバランスのとれた、かさのあるドライフードを選ぶとよいでしょう。
⑤薬物療法
布を食べる行動が常同行動であると考えられる場合には、三環系抗うつ剤(クロミプラミンなど)やSSRI(フルオキセチンなど)が効果を示す場合があるといわれています。
犬と猫の問題行動診療(犬の攻撃行動、猫の不適切排尿、咬みつきなど)
ぎふ動物行動クリニックでは、犬の攻撃行動や吠えの問題、猫の不適切排尿や咬みつき、過剰グルーミングなど、多岐にわたる問題行動について、ご相談を承っています。
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