犬が自分の手足を舐めている姿をよく見る、という飼い主さんは多いと思います。
自分の手足を舐める理由としては、痒みや皮膚炎などの身体的な理由の他、退屈・不安・葛藤や、転位行動、飼い主さんの気を引くためなど多岐にわたります。
今回の症例のように、声をかけても止められない、行動が過剰で自分の身体を傷つけてしまう、といった場合には、「常同障害」という病気の可能性が考えられます。

ご相談の趣旨

後肢を噛む

基本の情報

  • 犬種:ミニチュア・ダックスフンド
  • 年齢:1歳9ヶ月
  • 性別去勢雄、体重約8㎏
  • 健康状態は特に問題なし

既往歴

  • 2024年夏、誤食で開腹手術(絨毯の角をかじっていたものが閉塞)

生活環境

  • 週6日間、7-8時間くらいの留守番
  • 散歩は朝に1回15分程度、夜は大好きなボール遊びを10-20分くらい実施
  • 夜はリビングのソファの上で寝ている

問題となっている行動について

  • 主な症状
    • 後肢を噛む
  • 経緯
    • 腸閉塞の手術後1ヶ月くらいで舐める行動が見られ始めた
    • 最初は舐める行動から始まり、徐々にかじるようになっていく
    • 脇腹辺りも舐めていたが後肢のほうが気にしていた
    • さらに1ヶ月後、爪・肉球・指がちぎれるほどかじってしまい、大出血になった
    • 帰ってきたら血まみれになっていたので、留守番中に舐めていたと思われる
  • 現在の対応
    • 就寝時も含め、常にカラーをつけている
    • 食事中や散歩中は噛まないので外して見張っている
    • 食事などが終わったらすぐにカラーを付けている
    • ここまで治療歴はなし

その他の情報

  • 何でもかじってしまう(木・プラスチック・ゴムはかじって飲み込む)
  • ビニールのボールが大好きで、唯一飲み込まず遊べる
  • 留守番中の様子
    • 吠える・破壊行動などなない
    • 排泄の失敗はたまにある程度
    • 留守番中はソファで寝ていることが多いと思う
  • ゲージに入れると、柵をかじる・よじ登る
  • おやつは何でも好き、硬い蹄を与えると30-40分噛んでいる
  • オスワリなどのコマンドはできない

診断とお話し

  • 診断名:常同障害
  • 後肢を過剰に舐める・噛む行動は、常同障害と診断しました。
  • 常同障害は脳の機能障害の一つで、尻尾を追う、手足を舐めるなどの特定の行動を止められなくなったり、特定のもの・ことに執着したりしてしまう病気です。舐めて皮膚炎が起きるなどに留まらず、指を噛みちぎってしまっていますから、程度としては重度と言えるでしょう。
  • 常同障害の詳しい病態についてはまだ解明されていない部分も多くありますが、脳内の神経の働きにブレーキをかける「セロトニン」という神経伝達物質の不足・枯渇が関与していると言われています。常同障害の患者さんでは、特定の行動が始まると、セロトニンが足りないためにその行動にブレーキをかける神経回路が働かず、結果的に行動をなかなか止められなくなってしまいます。
  • 行動が始まるきっかけは個人差がありますが、一般的には不安や葛藤、退屈や興奮といった情動が引き金となることが多いです。
  • 足りないセロトニンの働きを補い、行動にブレーキを掛けられるようにするため、長期間にわたる投薬治療が必要になることが一般的です。

具体的な対応策

  • 薬物療法
    • フルオキセチン10mg/kg 1カプセル 1日1回(=1.25mg/kg)
    • 「セロトニン再取り込み阻害薬」の一種であり、少ないセロトニンを効率よく使えるように脳内を整えてくれるお薬です。
    • 効果が出るまでに1-2ヶ月かかります。
    • 主な副作用は、眠気、食欲不振、下痢です。軽い副作用であれば2週間くらいで体が慣れてきます。
    • 稀に、かえって落ち着きが無くなったり不安傾向が強くなったりする場合があります。その場合にはお薬の変更を検討しましょう。
  • カラーの継続
    • お薬が効き始めるまでには時間がかかりますから、それまでの間は当分カラー生活を続けましょう。
    • 将来的には少しずつカラーを外す時間を伸ばしていけるようにトレーニングしていきましょう。

その後の経過

1ヶ月後

(経過)

  • 内服を開始して、寝る時間が長くなった。
  • 食欲がやや落ちた。それまでの8割くらいしか食べず、がっつかなくなった。
  • がっつかなくなったため、食事中も足を気にするときがある。足を押さえて止めている。
  • それ以外は特に変化なし。

(評価・方針)

  • 薬の作用で食欲が落ちたことにより、食事中も足を気にする行動が見られ始めたと考えられる。
  • 初診時・1か月後ともに肥満気味なので、食事量は少し減らしてダイエットをする。かつ、きちんと空腹状態を作ることで食欲が湧くようにする。
  • 薬は増量も検討だが、まだ内服開始後1ヶ月なので、同量を継続して次回判断する。

2ケ月後

(経過)

  • まだ、外せるのは食事中と散歩中だけ。
  • 食事量を減らした。また、食事に時間をかけることでカラーを外している時間を延ばせるよう、早食い防止用食器を購入した。
  • 食事中に飽きてボール遊びを始める。
  • 散歩の時は行く直前に外して、帰宅したらすぐ付けている。
    散歩はあまり好きではないのか、散歩前は逃げる・すぐ自宅に帰りたがってしまう。

(評価・方針)

  • 未だに足に対する執着が認められるため、薬を増量する。
  • 頭を使って食器から食べるよりも、ボールのように転がる物を追いかけるほうが好みである可能性を考え、ブラックコングを使用して食事を与えてみる・ボール遊びのようにドライフードを投げて与えてみる。
  • 散歩の後に大好きなボール遊びの時間を設けることで、カラーを外している時間を長くする。
  • 行動のレパートリーを増やすため、そして舐め始めた時にコマンドでも止められるように、オスワリ・ハンドターゲットをトレーニングして身につける。
    院内でのトレーニング中は、短時間であればカラーを外しても足を気にしなかった。

今後は、まずは増量した薬がさらにしっかり効果を発揮するのを待ちながら、カラーを外せている食事中・散歩中を中心として、カラーを外す時間を増やしていくのが理想です。基本的には他のことに集中している間にカラーを外していくことが多いため、トレーニングや知育トイなどもうまく活用しながら取り組んでいきましょう。

ぎふ動物行動クリニック(岐阜本院・浜松分院)の問題行動診療

犬のしつけ教室ONELife/ぎふ動物行動クリニック(岐阜本院・浜松分院)では、獣医行動診療科認定医の奥田順之が院長を務め、行動診療専属の獣医師が2名、CPDT-KA資格を持つトレーナーが2名在籍し、犬の噛み癖、自傷行動(尻尾を追って噛む、身体を舐めすぎて傷ができるなど)、過剰な吠えなどの問題行動の相談・治療に取り組んでいます。
岐阜本院では岐阜・愛知など東海地方を中心に、浜松分院では静岡県西部周辺地域(浜松、磐田、掛川、豊橋、新城など)を中心に診察・往診を行うとともに、全国からの相談に対応するために、オンライン行動カウンセリング預かりによる行動治療を実施しています。埼玉を起点とした関東近郊の往診も行っています。

また、岐阜教室・浜松教室にて対面でのパピークラス(子犬教室(初回無料))を実施しております。

岐阜・浜松・埼玉ともに、岐阜本院での一次受付を行っております。058-214-3442受付時間 9:00-17:00 [ 不定休 ]

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