日本犬は、認知症・痴呆になりやすい

高齢で認知症になったハッピーちゃん(日本犬系雑種)の画像
柴犬や日本犬では、犬の認知症・痴呆(高齢性認知機能不全:以下犬の認知症・痴呆と表記)の発生確率が高く、動物エムイーリサーチセンターの調べでは、高齢性認知機能不全発生頭数の48%が日本犬系雑種、34%が柴犬であったと報告されています。動物の医療が発達し、予防が徹底され、フードの質が改善されてきている昨今、高齢性認知機能不全の発生頭数は増加しています。高齢性認知機能不全を発症した犬は、様々な行動障害が発生するため、犬だけでなく、飼い主のQOLも下げる結果となってしまいます。病気が治るということはありませんが、様々な対処によって緩和することはできます。共に暮らし、介護していくために、どのような対処が出来るのか、飼い主も学び、支援者もしっかりと学び続けなくてはなりません。

犬の認知症・痴呆の概要と定義

犬の認知症・痴呆とは、夜中に起きてしまう、宙を見つめる、家や庭で迷う、トイレのしつけを忘れるなど、加齢によって生じる認知障害を指します。高齢性認知機能不全の症状は、見当識障害、人あるいは他の動物との関わり合いの変化、睡眠と覚醒の周期の変化、トイレのしつけや以前に覚えた学習を忘れる、活動性の変化あるいは不活化という5つの兆候(DISHAの5兆候)がよく表れます。

認知症の症状:DISHAの5兆候とは

Disorientation(見当識障害)

コーナーに入って出て来れなくなる(後ずさりできない)、家の中で迷う、庭で迷うなど。

Interaction(相互反応の変化)

飼い主さんや同居動物との関わり合いの変化。飼い主が帰ってきたときに喜んでいたのに喜ばなくなったなど。

Sleep 睡眠と覚醒の変化)

昼夜逆転、夜に起きて活動する(夜泣き・夜吠えるなど)、昼ずっと寝ているなど。

Housetraining(家庭でのしつけを忘れる)

トイレのしつけを忘れる、台所など入ってはいけない場所に入らなかったのに入るようになった、など家庭内のしつけを忘れてしまう。

Activity(活動性の変化)

臭いを嗅ぐ、毛づくろいをする、食べることにすら関心がなくなってしまう。目的もなく歩き回る常同障害を併発することもある。

犬の認知症・痴呆の症状(動画)

犬の認知症・痴呆による徘徊と吠え

徘徊を続け、角で立ち往生(軽度)する様子が見られます。立ち往生して動けなくなると吠えます。この症例では昼夜逆転があり、夜間に吠え続けるということでご相談いただきました。

犬の認知症・痴呆による回転

寝る時間が非常に長いものの、起きるとずっと回転している症例。ぎふ動物行動クリニックにて預かりを行いました。

犬の認知症・痴呆による、攻撃性について

DISHAの5兆候の中でも、Interaction(相互反応の変化)では、飼い主や同居動物との関わり合いの変化、例えば、飼い主が帰ってきたときに喜んでいたのに喜ばなくなるといったものもありますが、飼い主に対する攻撃性として表れる例もあります。

人間の認知症の症状は、大きく記憶障害や実行機能の障害といった中核症状と、認知症の行動・心理症状(BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia)に分けられます。BPSDには、身体的攻撃性、鋭く叫びたてる、不穏、焦燥、徘徊、文化的に不適切な行動、性的脱抑制、収集癖、罵る、付きまとうなどの行動症状と、不安、抑うつ気分、幻覚、妄想などの心理症状が含まれます 。犬の認知症・痴呆は、ヒトのアルツイマー型認知症と類似した病態生理を取っている可能性が指摘されており、Interaction(相互反応の変化)は、BPSDと類似の症状であると考えられます。

犬の認知症・痴呆で攻撃的になった症例

本症例は、13歳ごろから徐々に攻撃性が増し、目が合うだけで攻撃してくるような状況となったため、14歳の頃に来院。
主に投薬による治療を行い、治療後は穏やかな元の状態に戻り、触ったりケアすることもできるようになった。
【治療前】

【治療後】

犬の認知症・痴呆の診断

行動学的な変化が5兆候にあてはまるかどうか、他に行動異常を起こす疾患が存在しないかどうかによって診断します。対象は老齢の動物になるため、血液検査、尿検査、内分泌検査、神経学的検査など必要に応じて実施します。高齢動物に発生しやすい脳腫瘍や、肝障害によっても行動異常は現れます。まずは身体の異常がないかどうか精査することが大切です。

高齢動物に認められる行動変化が、犬の認知症・痴呆によるものか、生理的な老化か判断することを目的に、「内野式100点法」など質問票やチェックリストを用いた判定法が開発されています。内野式100点法では、合計点30点以下を生理的な老化、31点~49点を犬の認知症・痴呆 予備群、50点以上を犬の認知症・痴呆としています。このように、高齢動物に認められる行動変化は必ずしも犬の認知症・痴呆と診断できるものではなく、生理的な老化と地続きの関係にあります。

犬の認知症・痴呆の治療法

環境修正/行動修正

・簡単なトレーニングを実施する。飼い主との関わりによって、リラックスすることが出来る
・人との遊びや関わり合いによって活動性を維持することが出来る
・グルグル回ってしまったり、コーナーから出て来れなくなることがよくあるので、丸いサークルを用意し、その中で飼育するようにする
・排泄の失敗が増える様であれば、なるべく庭に出す回数を増やしたり、おむつの使用を考える
・失敗しても絶対に叱らないようにする

食餌療法

食餌療法によって、フリーラジカルによる酸化的損傷をある程度
・抗酸化作用のあるサプリメント
→ ビタミンE、ビタミンC、セレン、果物・野菜など
・ヒルズのb/dの使用
→ 抗酸化作用のある処方食

犬の認知症・痴呆に対する薬物療法

犬の認知症は、基本的には回復するものではなく、徐々に進行していきます。その中で、飼い主が過度の負担とならないように症状を緩和し、生活のサポートをしていく目的で、薬物療法が用いられます。薬物療法では、セレギリンが米国で認可されているものの、覚せい剤原料であるため、日本ではその利用については慎重な取り扱いが必要(※ぎふ動物行動クリニックでは、処方することはできます)とされます。

犬の認知症においても、特に飼い主が困る症状は、昼夜逆転、夜間の吠え、攻撃性です。これらの症状は、人間の認知症におけるBPSDに相当すると考えられます。

特に、攻撃性や吠えに関連する部分で、人間の認知症の治療においては、BPSDの中でも焦燥性興奮、攻撃性、暴力に対しては、非薬物療法として、介護者がパーソンドセンターケアを学習したり、認知症者と適切に会話するスキルを学習したりすることによって、改善がみられることが示されています。また、薬物療法としては、リスペリドンなどの非定型抗精神病薬、セルトラリン、トラゾドンなどの抗うつ薬の有効性が報告されています。また、近年、漢方薬の抑肝散がBPSDの改善に効果があることが報告され、その効果に注目が集まっています。

犬の認知症では、寝かせることを目的に、不動化させる薬(アセプロマジン等)や、不安を取り除いたり睡眠を誘導する薬(トラゾドン・ベンゾジアゼピン系薬)を使用することがしばしば見られますが、漢方薬も症例によっては奏功することがあり、検討の余地があります。抑肝散が注目を集めていますが、抑肝散加陳皮半夏、八味地黄丸、釣藤散なども人間の認知症に対して用いられており、応用の可能性があります。柴胡加竜骨牡蛎湯も不安を除き睡眠を誘導する作用が強いため選択肢の一つになります。これらの漢方薬の利用については、体質や症状などをよく検討して、中医学・漢方医学的な診断を行う必要がある上、まだ十分なエビデンスはなく、今後、研究を進めていきたい部分です。

代表的な薬物

塩酸セレギリン:
MAO-B阻害薬。モノアミンオキシターゼ(MAO)を阻害するっことによって、モノアミン=ノルアドレナリン・セロトニン・ドーパミンなどの神経伝達物質の量を増やして、神経伝達を活発にします。

塩酸ドネペジル:
コリンエステラーゼ阻害薬。神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を阻害することで神経伝達を活発にします。

フルオキセチン:
不安が強い場合に使用する。セロトニンの再取り込を阻害し、抗不安作用を示す。

抑肝散:
近年、人の領域で、認知症やアルツハイマー病に効果があることが報告されています。薬理作用としては、グルタミン酸トランスポーターやセロトニン1A受容体、2Aに作用します。抑肝散は『肝』を抑えるということで、肝に障る=怒りの感情が強い場合に効くとされています。実証向きの方剤であるため、吠えがあるなど活動性が高い症例に用いるべきと考えられます。虚証の場合は、抑肝散加陳皮半夏を用いることができます。

犬の認知症・痴呆相談例:2

本日お伺いした内容

【全体の流れ】
2017年10月に管理センター(保健所)に保護され、2018年1月に保護シェルターに移動。その後、2018年7月に飼い主さん宅へ保護されたとのことでした。

【元々の生活】
4月までの生活としては、朝5:00・昼14:00・夕方18:30(遅い場合は20:00ごろ)に散歩やトイレだしをしているような生活で、飼い主さんがご飯を食べ終わるなど、散歩に行けそうなタイミングで吠えて要求することがお決まりになっていたとのことでした。夕方~夜の散歩・トイレ出しが終わったら、ケージに入って落ち着いて寝ており、夜遅くまで起きていることはなかったとのことでした。

【夜中の吠え・徘徊について】
5月に入ってから、ケージに入れるとクゥーンクゥーンとなくようになり、ケージの扉を開けておくようにしたとのことでした。

5月10日になったころには、昼寝る時間が長くなり、昼のトイレ出しで起こそうとしても起きなくなったとのことでした。玄関で誰が通っても寝ている状態となり、14:00ごろにトイレ出した時もその後すぐ寝てしまう状態だったとのことでした。17:00ごろに散歩に連れていくと覚醒し、その後、夜10時頃まで起きて動き回るようになったとのことでした。それ以降は、20:00ごろにもう一度トイレ出しするようにしているとのことでした。

5月20日ごろからは、起きている時間が伸びて、0:00ごろまで起きているようになったとのことでした。この頃はまだ吠えが少なく、ウロウロしたりぼーっとして立ち尽くしていることが多かったとのことでした。

5月25日ごろからは、夜中中起きているようになり、夜中の間、人がそばにいないとクゥーンと吠えることが増えてきたとのことでした。定期的に1時間おきくらいに吠え、飼い主さんがそばに行くと止まるというという状態で、これ以上鳴くと困るので、フードを与えたり、ミルクを与えたりしていたとのことでした。外に連れ出してみたりもしたとのことでした。朝散歩に行くと、その後寝るような状態になったとのことでした。

5月28日は、22:00~23:00にかけて吠えていたものの、対応しなかったところ、収まったとのことでした。その次の日の朝は、おじいちゃんがリードを着けて散歩に行くことができたとのことでした。

【攻撃的な行動について】
攻撃的な行動については、2月頃から始まり、特におじいちゃん、おばあちゃんに対して、吠えるようになったとのことでした。状況としては、おじいちゃん、おばあちゃんが近づいて撫でようとしたり、リードを着けようとすると唸り、牙を見せるようになったとのことでした。2月以前は、おじいちゃんがリードを着けようとしても嫌がらなかったとのことでした。

2月頃までは飼い主さんが散歩後の足ふきをするときも嫌がらずにやらせていたものの、2月からは嫌がって唸って歯をむき出すようになり、それ以来拭くことはしていないとのことでした。

2月~4月の間は、こうした攻撃の頻度は多くなく、週に1回程度だったのが、5月入ってから、週に2~3回見るようになり、特におじいちゃんに対して強くなり、立っているだけ(目を合わせるだけ)で吠えるようになったとのことでした。

【その他の行動の変化】
・5月から極端に歩くスピードが遅くなった。4月までは走ることもあったが今はない。
・抱っこしようとすると唸る、トリミングサロンでもドライヤーをかけていると唸ることがある。

【その他の情報】
・5月28日血液検査の結果、BUN(103)、CRE(3.98)、IP(9.5)高値
・5月27日ごろから嘔吐が2日に1回程度
・お皿の水は好きではなく、ホースの水や、公園の水道の水、水たまりの水、植木鉢の水を飲みたがる。
・週に1回程度、ゴハンを全く食べない日がある。その他の日は食欲があり、ほとんど食べている。
・便の状態は固くコロコロ。下痢はしたことはない。
・体重9.4㎏

診察室での様子

サークルの中にいさせたところ、立位で立続けていました。背中を触ると軽く唸る行動が見られました。回転運動をすることはほとんどありませんでした。顔は下を向いており、意識がはっきりしているような状態ではなく、目をつむって立位のまま寝そうになっていました。

診断とお話し

今までの行動の経歴とカウンセリング時の様子から考えると、犬の認知症(高齢性認知機能不全)による症状であると考えられます。内野式100点法では35点であり、100点法では認知症予備群に分類されます。身体疾患として血液検査の結果より腎不全が疑われます。かかりつけ動物病院にも相談の上、そちらの対応をどうするかについては、ご検討いただければと存じます。

犬の認知症・痴呆は、治療で回復することは現在の医学では難しく、症状を緩和したり、犬と飼い主さんのQOLを上げるために何が出来るかを考えていくという形になります。薬物療法で緩和されることもありますので、そうした対応も含めて実施していくようにしましょう。

ただし、今回、腎機能の低下がありますので、薬物療法については慎重な対応が必要です。排泄の機能が落ちており、嘔吐も見られるということで、副作用が出やすくなることも考えられます。副作用の少ない薬物療法から実施していき、反応を見ながら、また、症状の進行を見ながら、対応を考えていく必要があるでしょう。

以下に対処法を列挙いたします。

対応と対策

1. 家で吠えた場合
吠えた時に、オヤツを与えたり、ミルクを与えたりすると余計に吠えが強くなる場合があります。無視してもやまなくなることも考えられますので、状況を見ながら判断をしていく必要があります。

2. 薬物療法
薬物療法では、以下の薬物を使用してみましょう。

・ ジルケーン
ミルクに含まれるタンパク質のカゼインをトリプシン加水分解したα-カソゼビンを主成分としています。脳のGABAA受容体に作用して、脳全体の活動のトーンを下げ、鎮静や睡眠を誘導する作用があります。ミルク由来のサプリメントですので副作用を心配せず使用することができます。

・ 八味地黄丸
老化に伴う諸症状、認知機能の低下にも使用される漢方薬です。漢方医学的には「腎」(西洋医学の腎臓の意味ではありません)は生命力の源であり、腎の機能が下がることで、老化に伴う諸症状(足腰のふらつき、排尿の異常・失禁、元気の消失、認知機能の低下など)が現れます。八味地黄丸は腎の機能を補うことで、これらの諸症状を緩和します。

・ 抑肝散加陳皮半夏
認知症に伴う、不安・不眠・易怒性の亢進など、感情の問題に利用される漢方薬である、抑肝散に陳皮と半夏を加えた漢方薬です。

今回は感情の問題よりも、昼夜逆転や徘徊の問題が強いという印象があります。嘔吐があるため、抑肝散加陳皮半夏を処方しました。先に八味地黄丸を試して様子を見て、その後、抑肝散加陳皮半夏を試しましょう。

漢方薬とジルケーンでよい結果が得られない場合は、副作用のリスクは上がりますが、西洋薬で脳内伝達物質の代謝を調整して認知機能を回復させることを目指す、もしくは夜間の睡眠を誘導する、あるいは不動化させるということも、今後検討が必要になるかもしれません。

さいごに

副作用など、何かあれば、すぐにご連絡ください。その他、心配なことがあれば対応いたしますので、いつでもご連絡ください。

犬の認知症・痴呆相談例:3

実際のご相談

今年の初めごろから、ぐるぐる回る、行き止まりで立ち往生してしまう、食欲がないなどの症状に問題を感じご相談いただきました。

本日お知らせいただいた内容(行動の経歴)

Mちゃんは15歳の柴犬の女の子で、高齢からか、最近徐々に認知機能が衰えてきており、特に今年の春以降、ぐるぐる回り続ける、行き止まり(テレビ台の裏など)で立ち往生してしまう、などの症状がみられるようになったとのことでした。

生活はリビングが中心で、家具などはほとんど置いていないものの、テレビ台があり、しばしばその裏に迷い込んでしまい出れなくなってしまうということでした。出れなくなった場合はその場で寝ていることがほとんどであるとのことでした。

夜に急に起き出すこともあり、しばらくぐるぐる回っているとのことでした。しかし、吠えることはないため、飼い主さんが寝不足になったり、近所迷惑になるということはまだ起こっていないとのことでした。

外でしか排泄をしないため、1日4回さんぽに行っており、腰を支えてあげることで排泄ができているとのことでした。

食欲が弱く、ドッグフードをふやかしたり、カステラやチーズを与えているとのことでした。

診断とお話し

今回の問題行動は、犬の認知症(高齢性認知機能不全)と考えられます。かかりつけ動物病院にて血液検査を実施しており、腎臓が悪いとのことでしたので、そちらのケアも継続的に実施していく必要があるでしょう。

今回の症状は、いずれも高齢性認知機能不全の症状(DISHAの5兆候)に該当します。犬の認知症は、治療で回復することは現在の医学では難しく、症状を緩和したり、犬と飼い主さんのQOLを上げるために何が出来るかを考えていくという形になります。以下に対処法を列挙いたします。

今後の治療法・対処法

1.環境の改善
グルグル回っても大丈夫なように、円形のサークルを用いるようにしましょう。あるいはリビングの角にドッグガードを置くなどして、角を作らないようにしましょう。

2.散歩に行く
足腰が立つうちは、散歩に行くようにしましょう。刺激を与えることで、脳機能の活性化につながります。

3.手からゴハンを与える
手からでなければ食べないと思いますが、手から与えて飼い主さんとのコミュニケーションをはかるようにしましょう。声掛けしながら与えると良いでしょう。

4.食べられるものを与える
食欲がないようなら、ドッグフードにこだわらず、食べられるものを与えるようにしましょう。臭いの強いものを与えることで脳が刺激されます。

5。補助器具の使用
足が立たなくなってくると思いますので、徐々に腰を浮かせる補助器具を使用するようにしましょう。

6.薬物療法
症状を緩和する目的で、抑肝散加陳皮半夏を使用してみましょう。朝晩のご飯に混ぜて与えるようにしましょう。