犬の認知症についてセカンドオピニオンを得たい、行動診療科での治療を受けたいと思っても、近くにないし、高齢の犬を長距離移動させるのも憚られるという悩みを持つ飼い主さんもいらっしゃるでしょう。そんな時に頼りになるのが、オンライン診療です。
オンライン診療に対応している行動診療科はまだ少ないのですが、私が院長を務めるぎふ動物行動クリニックでは、2020年より実施しています。
獣医療におけるオンライン診療は、2019年より始まったコロナ禍を契機に必要性について議論されるようになりました。元々、獣医師法により、初診のオンライン診療は認められていませんでした。しかし、コロナ禍により、人医の方でオンライン診療が解禁され、獣医療でもその必要性が検討されてきました。こうした流れを受けて、2022年、公益社団法人日本獣医師会より、「愛玩動物における遠隔診療の適切な実施に関する指針」が発行され、情報の整理が進み、2024年12月には、農水省から「愛玩動物におけるオンライン診療の適切な実施に関する指針」発行され、オンライン診療が解禁になりました。
私は、行動診療科とオンライン診療は相性が良いと考えています。元々行動診療科は直接的に動物の行動を観察することよりも、飼い主さんから今まで起った行動や動物の状況をヒアリングし、その情報を元に診断をしていくため、問診による情報収集の割合が非常に大きくなります。問診に1時間以上かけることも少なくありません。また、問題行動の発生は、家庭内の生活環境も大きく影響するため、画像や動画で現場の状況を確認することが多いわけですが、画像や動画の確認もオンライン診療と相性が良いです。その他、動物のテリトリー内での行動を獣医師の侵入なしに確認することができる、獣医師が攻撃を受けることがないといったメリットがありますが、これは、高齢動物ではあまり大きなメリットにはならないかなと思います。
聴診や触診ができない、直接動物を触れることができないという部分は大きなデメリットです。身体的な問題の精査はオンライン診療では限界があります。高齢動物の行動変化は、身体的問題から発生していることがよくあります。そのため、身体的問題の精査の部分に関してはかかりつけ医が行い、認知症の専門的な助言はオンライン診療で行動診療科から行うという形にすることで、デメリットを克服することができると考えられます。
もう一つの大きなデメリットとして、向精神薬の処方が制限されている点が挙げられます。犬の認知症の治療では、向精神薬(後に紹介するセレギリンや、抗うつ薬も向精神薬に含まれます)を使用しなければならない場面はあります。かかりつけの動物病院で処方してもらえる薬ならいいのですが、一般の動物病院に置いていない特殊な薬を使いたい場面では、対面での診療が必要となってしまいます。ただ、メインで使うような薬については、一般の動物病院にも大抵置いてありますし、行動診療科の立場から認知症の治療の場面で使用する薬についても、向精神薬に限らず、漢方薬やサプリメントを利用することも多いため、かかりつけ動物病院との連携を前提として、オンラインでも十分にサポートできると感じています。当院でのオンライン診療を希望する方がいれば、お気軽にお問い合わせください。