今回は、「夜通し続く鳴き声」と「寝床での排泄」のことでご相談を受けた猫ちゃんの症例をご紹介します。新しいおうちへの引っ越しと、先住猫たちとの多頭飼育のスタートが重なったケースです。同じようなお悩みをお持ちの飼い主さんの参考になれば幸いです。
猫のしつけ&問題行動相談
ぎふ動物行動クリニック(岐阜本院/浜松分院)では、猫同士のケンカ、不適切な排泄、飼い主に対する攻撃などの問題に対し、獣医師による猫のしつけ相談&問題行動の相談オンライン相談に取り組んでいます。埼玉を拠点とした関東近郊の往診も行っています。
岐阜・浜松・埼玉ともに、岐阜本院での一次受付を行っております。058-214-3442受付時間 9:00-17:00 [ 不定休 ]
お問い合わせはじめに
猫の「過剰発声」とは
猫が長時間・繰り返し鳴き続け、ご家族の生活に支障が出てしまう状態を「過剰発声」と呼びます。原因はひとつではなく、甲状腺の病気や高血圧、痛み、加齢による認知機能の変化といった体の問題が隠れていることもあれば、発情、不安、そして「鳴くと何かいいことがある」という学習が関わっていることもあります。
このうち「要求性」の過剰発声は、鳴いたときに飼い主さんが声をかけたり様子を見に来たりすることで、猫が「鳴けば構ってもらえる・安心できる」と学習し、鳴く行動が強化されていくものです。飼い主さんとしては心配だからこそ対応しているのですが、その優しい関わりが、結果的に鳴き声を長引かせてしまうことがあります。
猫の「不適切な場所での排泄」とは
トイレ以外の場所でおしっこやうんちをしてしまう「不適切な場所での排泄」は、猫の行動相談の中でも特に多いお悩みのひとつです。膀胱炎や尿路結石、関節の痛みなど体の不調が原因のこともあれば、トイレの数・大きさ・場所・猫砂の好み、さらには多頭飼育での猫同士の関係といった環境要因が関わっていることもあります。
今回ご紹介するのは、この2つのお悩みが「引っ越し」と「多頭飼育への合流」という大きな環境の変化をきっかけに目立つようになったケースです。
基本情報
- 猫種:雑種
- 性別:オス(去勢手術済み)
- 年齢:7歳
- 体重:約5kg(体型は標準)
- 既往歴:特になし(大きな検査を受けたことはなし)
以下、この猫ちゃんを「Aくん」とお呼びします。
これまでの暮らし
Aくんはもともと保護施設から迎えられ、別のご家族のもとで暮らしていました。ご事情により、実の妹猫と一緒に現在の飼い主さんのお宅へ引き取られ、新しい生活が始まりました。
実は以前のおうちにいた頃から、夜鳴きや過剰な鳴き声が強くなる時期と落ち着く時期を波のように繰り返しており、獣医師の処方による投薬を受けていた時期もありました。ただ、引っ越しのタイミングでその投薬は一時的に中断されていました。
同居している猫たち
新しいおうちには先住猫が3頭おり、Aくんと妹猫を合わせて計5頭の多頭飼育となりました(メスは全頭避妊済み)。
- 猫B:20歳のメス。最古参で、Aくんとはお互いに無関心な関係。
- 猫C・猫D:2歳のメス2頭。とても活発でよく一緒に遊ぶ「若手コンビ」。猫Dは物怖じしない性格。
- 猫E:7歳のメス。Aくんの実の妹で、Aくんと一緒に引き取られた。
生活環境
お住まいは吹き抜けのある2階建ての一軒家です。飼い主さんは、先住猫といきなり同居させるとうまくいかないだろうと考え、2階の一室を丸ごと「猫部屋」に改装し、ケージ・ごはん・お水・爪とぎ・トイレを揃えて、Aくんと妹猫の慣らし部屋として用意されていました。とても丁寧な受け入れ準備です。
トイレは1階に2台、2階の猫部屋に1台の計3台。食事は1日4回で、Aくんと妹猫は先住猫とは別に給餌していました。遊びについては、Aくんはもともとおもちゃへの反応が控えめなうえ、若手コンビが割り込んでおもちゃを横取りしてしまうため、Aくんが十分に遊べる機会はあまりありませんでした。
問題行動の概要
① 過剰な鳴き声
引っ越し当日の夜、Aくんは夜11時頃から翌朝の明け方まで、ほぼ一晩中鳴き続けました。この夜通しの鳴きは3日間続き、その後も一晩中ではないものの、短い時間の鳴きを何度も繰り返す状態が続きました。
鳴き声は低くこもった独特の「ナーオ、ナーオ」という声で、長時間続きます。時間帯を問わず起こりますが、特に夜間に多く見られました。夜中に鳴き出したときにご家族が電気をつけて様子を見に行くと一瞬静かになるものの、離れるとまた鳴き出す……というサイクルを一晩中繰り返すこともありました。また、声をかけると鳴き声のトーンが一瞬変わるという様子も見られていました。
Aくんは引っ越し後しばらく、1階のパントリーの上で一日のほとんどを過ごしていました。引っ越しから約4か月が経っても状態があまりにひどかったため、以前処方されていたお薬を再開したところ、鳴き声はほぼ落ち着きました。ただし、お薬が切れると「悪魔のような声」と表現されるほど激しい鳴き声がすぐに戻ってしまう状態でした。
② 不適切な場所での排泄
引っ越しから3か月半ほど経った頃から、週に1〜2回、自分の寝床(パントリーの上に敷いたシーツや、その後過ごすようになったテーブル上のタオル)で排泄してしまうようになりました。
Aくん専用のトイレは2階の猫部屋にありましたが、Aくんが日中過ごしている場所からそこへ行くには、先住猫たちがいるロフトを通らなければならない間取りでした。飼い主さんは「先住猫と鉢合わせしたくなくてトイレを我慢し、間に合わずに寝床でしてしまっているのでは」と推測されていました。
来院前に飼い主さんが取り組んでいたこと
- 猫部屋で隔離した状態から、段階的に生活圏を広げる慣らし
- フェロモン製剤(拡散器)の使用:多少効果を感じたものの、家が広く設置数に迷い、中断中
- かかりつけ医の勧めでフラワーエッセンスを飲み水に使用(多少の改善を実感)
- 以前処方されていたお薬の再開
初診の直前1週間〜10日ほどは、Aくんがパントリーの上から降りて1階のテーブルで過ごすようになり、先住猫への威嚇も減って、物怖じしない猫Dとは同じベッドで眠るまでになるなど、少しずつ新しい環境に馴染みはじめていました。
診断と、その理由
① 過剰発声(要求性)
Aくんの鳴き声は、新しい環境・多頭飼育環境に適応しようとする時期の不安を背景に、「鳴く」という行動がご家族の反応を引き出す手段として学習され、強化されてきたものと考えられました。
そう判断した理由は、ご家族が対応すると一時的に鳴き止む、声をかけると鳴き声のトーンが変わる、といった特徴が見られたためです。これは、鳴き声がご家族の関わりによって変化している、つまり学習の要素が大きく関わっていることを示しています。
主な要因としては、次のようなものが考えられました。
- 引っ越しと多頭飼育への合流という大きな環境変化による不安・緊張
- 長く続けていたお薬を、引っ越しのタイミングで一時中断していたことの影響
- 鳴くとご家族が反応してくれる、という経験の積み重ね(学習の強化)
- 狩りの本能を発散できる遊びが不足していることによる退屈・ストレス
なお、猫では稀に、脳の一部が過剰に興奮する「焦点性発作」が異常な鳴き声として現れることもあります。今回は環境の変化とともに悪化し、関わり方によって変化が見られるという経過から可能性は高くないと考えましたが、完全には否定できないため、気になる場合にはMRI検査や脳波検査などの精査も選択肢としてお伝えしました。
② 不適切な場所での排泄
猫は一般的に、自分の寝床では排泄したがらない動物です。それでも寝床での排泄が続く場合は、トイレそのものが嫌というより、トイレまでの道のりに何かストレスがある可能性が考えられます。
Aくんの場合、トイレに行くには先住猫のいるロフトを通る必要があり、「行こうとしても先住猫に会ってしまうかも」という不安からトイレへ向かうこと自体をためらい、結果としてその場で排泄してしまっていたと考えられました。さらに、5頭に対してトイレが3台というのは数として不足しており、これも排泄トラブルが起こりやすい要因のひとつでした。
また、排泄の問題は比較的最近始まったものだったため、膀胱炎や尿路結石、関節の痛みなど体の不調が関わっている可能性も念頭に置き、尿検査などの健康チェックをおすすめしました。
指導内容と治療方針
環境の整備
- トイレを増やす:目安は「頭数+1」で、今回は6台以上。特に、Aくんが先住猫と出会わずに行ける場所に追加することをご提案しました。サイズは体長の1.5倍以上、逃げ場を確保できるカバーなしのタイプがおすすめです。数を増やすのが難しい場合は、1台を大きくする(衣装ケースの活用など)方法もあります。
- 休息場所・隠れ家を増やす:段ボールや猫用のベッドなどを複数用意し、猫同士で取り合いにならないよう選択肢を増やします。
- 爪とぎを複数設置:特に縄張りの境目になりやすい場所に置きます。
- 猫部屋は残す:使う頻度が減っても、安心できる避難場所として当面そのまま維持します。
鳴いたときの関わり方の見直し
鳴いたときにすぐ、過剰に反応しないことで、鳴く行動が強化されるのを避けます。ただし完全に無視・放置するのではなく、必要な見守りは続けていただくようお伝えしました。「鳴いたら来てくれる」から「鳴かなくても大丈夫」へと、少しずつ経験を塗り替えていくイメージです。
遊びの量と質を高める
1日に複数回、短時間でもよいので、猫の狩りの欲求を満たす遊びを取り入れていただきます。おもちゃで獲物を追わせ、最後はしっかり「捕まえさせて」、おやつやごはんで締めくくる——という、狩りの一連の流れを再現する遊び方がポイントです。転がすとフードが出てくる知育トイや、トイレットペーパーの芯を使った手作りパズルフィーダーもご紹介しました。
食事
無理に5頭一緒に食べさせることはせず、Aくんと妹猫が安心して食べられる現在の分離給餌を当面続けていただくことにしました。
フェロモン製剤
家全体をカバーしようとしなくても大丈夫です。Aくんの寝床付近など、効果を発揮してほしい場所に絞って設置していただくようお伝えしました。
薬物療法
再開したお薬は継続し、落ち着いた状態がしばらく続いたら、時間をかけて少しずつ減らしていく方針としました。急にやめると症状がぶり返すことがあるため、自己判断での中止は避けていただきます。
健康チェック
排泄の問題について、念のため尿検査などで体に問題がないかを確認していただくようおすすめしました。
経過
初診から約2週間後に、飼い主さんからその後の様子を伺いました。
トイレを増設したところ、寝床での排泄はおさまりました。先住猫と出会わずに行けるトイレができたことで、Aくんが安心して排泄できるようになったと考えられます。
鳴き声についても、ご家族があまり気にならない程度まで落ち着き、お薬の減量を検討できる段階になりました。減薬は少しずつ慎重に進める必要があるため、その際の注意点を改めてお伝えしました。
現在の状況
Aくん自身のお悩みは大きく改善し、今では飼い主さんの関心は、妹猫Eと若手コンビの猫Dとの関係(猫Dがいた場所に猫Eが排尿してしまうなど)のほうに移ってきています。
また、複数の猫でごはんの食べ方にムラがあるというご相談もいただき、次のようなアドバイスをしました。
- ごはんを出しっぱなしにしない(いつでも食べられると、ごはんの価値が下がってしまうため)
- 食べなかったときに、おいしいものを追加しない
- 知育トイなどを使って、遊びながら食べる方法も取り入れてみる
多頭飼育では、1頭のお悩みが落ち着くと、別の猫同士の関係が見えてくることもよくあります。猫たちの関係は時間とともに変化していくものなので、引き続き様子を見ながらサポートしていく予定です。
おわりに
今回の症例では、飼い主さんが受け入れ当初から専用の部屋を用意するなど、とても丁寧に環境を整えてくださっていました。そのうえで、トイレの数と配置の見直し、鳴いたときの関わり方の工夫、遊びの充実、そしてお薬のサポートを組み合わせたことで、短期間で大きな改善につながりました。
猫の鳴き声や排泄のお悩みは、「どうしてこうなるの?」と飼い主さんを悩ませるものですが、猫の目線で環境や関わり方を見直すことで改善できることも多くあります。また、体の病気が隠れていることもあるため、まずはかかりつけの動物病院での健康チェックもあわせてご検討ください。お困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。


