食物関連性攻撃行動(フードアグレッシブ、フードアグレッション)は、犬で頻繁に起こる攻撃行動です。
フードに関わって攻撃が生じることから、フードの与え方の変更によって攻撃が生じにくくなることがあります。お皿から与える、知育トイに入れて与えるなど、守れる状態にすると攻撃が生じやすく、また骨ガムハミガキガム等、食べきれないおやつを与えた場合にも守る物があるため、攻撃が生じやすくなります。
食べ物が目の前にあり、守らなければならないという気持ちと、早く食べたいという気持ち、目の前のフードが好みに合わず本当に食べたいものとは違うという気持ち、家族が近くにいることで警戒しなければならない気持など、様々な情動が交錯し、葛藤を生じて攻撃が生じます。自分の尻尾に攻撃する子もいます。
こうした強い葛藤状態は、フードが目の前になくなっても持続することがあり、フードを食べてから30分~120分、長い時には一晩明けるまで機嫌が悪いという状態になります。こうした持続的な情動の変化を伴う場合には、薬物療法により葛藤状態を生じにくくすることも有効な策になります。本院の相談でも、フードに関連して、持続的な情動の変化が生じる場合には、薬物療法を使用し、症状の緩和をみています。
本記事では、フードアグレッシブについて解説すると共に、その解決法について紹介します。
問題行動診療について
ぎふ動物行動クリニック(岐阜本院・浜松分院)では、攻撃行動の治療に取り組んでします。
岐阜本院・浜松分院にて、岐阜・愛知・三重・静岡の東海地域を中心に診察しています。全国からの相談に対応するために、オンライン行動カウンセリング、預かりによる行動治療を実施しています。埼玉を拠点とした関東近郊の往診も行っています。
岐阜・浜松・埼玉ともに、岐阜本院での一次受付を行っております。058-214-3442受付時間 9:00-17:00 [ 不定休 ]
お問い合わせ食物関連性攻撃行動(フードアグレッシブ)とは
食物関連性攻撃行動とは、その名の通り食べ物に関与する攻撃行動です。
食事中に近づくと唸る・攻撃する、食後に空になった器を守る、といった行動が見られます。
そもそも、生き物にとって食料は生きていくために不可欠な資源ですから、それを守る、奪われそうになったら攻撃する、といった行動は正常な反応ではあります。しかし、その攻撃の程度が激しすぎたり、あまりにも敏感だったりする場合には問題行動として扱われます。
特徴
食べ物を取られたくない、という気持ちから食べ物を守る攻撃行動が生じます。
唸ったり歯を剝きだしたりするだけのこともあれば、実際に歯を当ててきたり咬みついて来たり、突進してきたりすることもあります。
基本的には、人も犬も近づいて来た者がすべて攻撃の対象となりますが、関係性によっては攻撃をする相手としない相手とがいる場合もあります。
守る対象は様々で、食べ物が関わればすべて、という場合もあれば、特にお気に入りのおやつの時のみに限定されていたり、逆に空の器や人が食べていたもの、食べ物が付着したティッシュや拾い食いしたものまで対象が広がることもあります。歯磨きガムなどの長持ちするおやつは、犬が守る状況を作りやすくする傾向があります。
発生の頻度に性差や犬種差は認められませんが、柴犬では多く見られるようです。
どんな年齢でも起こりうるものの、早いと2~3ヶ月の子犬でも行動が見られることがあるようです。
診断・鑑別
まずは、食欲が亢進する可能性のある身体的な疾患の除外が必要です。
具体的には、以下のような疾患が挙げられます。
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、またはステロイドの使用
- 甲状腺機能亢進症
- 糖尿病
- 消化管寄生虫
- 膵外分泌不全
- 脳腫瘍の一部
- 認知機能低下症候群 etc...
この他、歯周病などによる疼痛が攻撃のきっかけになることもあります。これらの疾患は、一部はMRIなどの特別な検査も必要となりますが、ほとんどの病気は一般的な身体検査や血液検査などで診断が可能です。中高齢以上の年齢で突然食べ物を守る行動が始まった場合や、他にも身体的な症状が見られる場合、一度かかりつけの動物病院を受診すると安心でしょう。
また、行動学的には、恐怖・不安性攻撃行動や、葛藤性攻撃行動との鑑別が重要です。
そもそも、食べ物を守る行動は根底に「食べ物を奪われるかもしれない」という不安があることがほとんどです。こうした不安傾向の強い子の場合、食べ物が絡まない場面でも攻撃行動が生じることもあります。攻撃の頻度が多い場合や程度が深刻でお困りの方は、ぜひ一度行動診療科の受診をご検討ください。
治療
安全対策
まず基本的な治療方針として、攻撃が生じるようなシチュエーションをこれ以上作らないこと、これ以上攻撃が生じないように、適切に「管理」することが重要です。
(対応の例)
- 食べている時や守っているときにむやみに近づかない
- 食事場所を変更する(サークル内や、人の行き来が少ない落ち着ける場所で給餌する)
- ガムや硬いジャーキーなど、長持ちする物を与えない
- 小さいお子さんなど、人間の食べこぼしを狙う →食事中は犬を別室やサークル内に移動させる
- 食後に空の食器を守る →散歩に行かせるなどして、犬が部屋から出て安全を確保できたタイミングで片付ける
ご家族の怪我を防ぐことはもちろんですが、これ以上わんちゃんに「攻撃したら食べ物を守れた」という経験を積ませないことが目的です。攻撃が生じるたびに、食べ物を守るためには攻撃をすればいいんだ、攻撃は有効なんだ、という学習をさせてしまうことに繋がります。
食事の与え方の変更
食事の与え方により、攻撃行動が緩和する場合があります。
食べる場所の位置が悪く、家族が近くにいるなど、警戒しやすい状況で食べさせている場合、攻撃行動が生じやすくなります。家族の導線とは違う場所で食べさせるという工夫が奏効することがあります。
また、屋内で食べることで緊張が高くなるならば、屋外で食べさせる、散歩から帰ってきたときに玄関の前で食べさせるといった工夫で良くなる場合があります。
お皿で与えると守りやすいため、手から与えるようにするという方法もあります。これは危険性もあるので、慎重な対応が必要です。おやつを手から食べられる子なら、フードも同じように少量ずつ手から与えると良いでしょう。専門家の指導の元行うようにしてください。
行動修正法(トレーニング)
食物関連性攻撃行動の場合、適切な管理と安全対策が前提になります。
しかし、例えばサークルやクレートに入る、任意の場所に移動するといった、管理する上で役立つ行動に関しては、日頃からトレーニングして強化しておくことで、いざというときに対応しやすくなります。また、口に入った物を放す・交換するといったコマンドもやらないよりはやっておいた方が放す確率は上がります。散歩中に拾い食いをしてしまったときはかなり守る体制に入ると思うので、無理に取り出すことは難しいでしょうが、練習しておくことにより交換に応じる可能性を高めることができます。
その他、人が食べ物の近くに近づいても悪いことは起こらない、ということを条件づけて教えて行ってあげるトレーニング方法などもありますが、そもそも近づくという行為に危険を伴いますから、必要性をよく判断した上で、プロのトレーナーさんや獣医師の指導の下で行うようにしましょう。
薬物療法
食物関連性攻撃行動に対する薬物療法では、強い葛藤が生じないようにするために、抗うつ薬や抗不安薬が使用されます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬であるジアゼパムは、食欲を高める効果があります。フードを出されてもすぐに食べす、食べないからこそ、近くを通ると攻撃するような犬の場合、ジアゼパムで食欲を刺激しつつ不安を下げることで、すぐにフードを食べきり、攻撃が生じにくくなるということが良くあります。
おわりに
食物関連性攻撃行動への対応は安全管理が中心となりますが、それぞれのご家族の環境や生活習慣・わんちゃんの性格によって、適した方法は異なります。
当院では、それぞれのご家族とわんちゃんに合わせて、具体的かつ実現可能な対処法について提案させていただきながら、飼い主様と一緒に治療プランを組み立てていきます。
お困りの方は、是非一度受診をご検討ください。