手に負えないほどの噛みつき

柴犬の攻撃行動では、手に負えない本気噛みも少なくなりません。飼い主さんが流血するのはもちろん、骨折したり、神経が切れたり、後遺症が残るケースもあります。

手に負えないほどの噛みつきでも治る例は少なくありません。特に、「しつけの問題」ではない例では、適切な治療を行うことで、しっかり治ります。

腸の問題で本気噛みを起こした例

「しつけの問題」ではなかった例として、腸の疾患が、攻撃行動を引き起こしていた例がありました。

数か月前から食欲不振が続いていた6歳の柴犬ですが、飼い主さんがおやつを与えようとしたところ、1度目は食べ、2度目は食べす、3度目に差し出したところ噛まれて10針縫うけがをされました。この状況だけみると、食物関連性攻撃行動のように見えます。

しかし、食欲低下があったことから、消化器系の疾患を疑い、血液検査とエコー検査をしたところ、タンパク漏出性腸症の疑いがあることがわかりました。そこで、腸の炎症を抑えるためにステロイドと低たんぱく食による治療を開始したところ、食欲が回復し、同時に攻撃行動の発生もなくなり、機嫌がよくなり飼い主さんとの関係も回復しました。

脳機能の問題で本気噛みをする例

これは柴犬にはよくあることですが、先天的な脳機能の問題で、攻撃行動を起こしやすい柴犬がいることは事実です。

人間でも発達障害のように、人と人とのコミュニケーションが苦手な方もいらっしゃします。もちろんそれは個性ではありますが、それが原因で生きづらさを抱える人もいらっしゃいます。発達障害によるコミュニケーションの問題はその人個人の責任であるかと言えばそうではなく、互いに配慮が必要なことだと思います。

柴犬は、犬の中でも最もオオカミに近い遺伝子を持っており、原種に近いといわれます。家畜化の程度が低く、洋犬とは違うコミュニケーション様式をとる個体が少なくありません。つまり、個性の幅が広いんですね。

全ての柴犬が噛みやすいわけではありませんが、柴犬の1-2割くらいは、残り8-9割に比べて、比較的噛み付きを発生させやすい個性を持っているように感じます。その個性とは、接触に対する敏感、興奮しやすい、小さな刺激に反応しやすい、小さな刺激でパニックを起こしやすいといった性質を指します。このような性質を持っていると、普通に育てているつもりでも、攻撃が発生しやすくなります。

同じようなしつけをしても、噛んだり噛まなかったりするのは、こうした遺伝的素因によるわけです。本気噛みをする柴犬の多くが、こうした素因を持っていると思って差し支えないかと思います。

こうした素因に対して、ダイレクトに働きかける手法が薬物療法です。敏感性や衝動性をやわらげ、情動の高ぶりを抑えるお薬を使うことで、劇的に改善する例は枚挙に暇がありません。適切な治療は、柴犬の攻撃性をやわらげるだけでなく、飼い主さんの心身を守ることにつながります。