手に負えないほどの噛みつき
柴犬の攻撃行動では、手に負えない本気噛みも少なくなりません。飼い主さんが流血するのはもちろん、骨折したり、神経が切れたり、後遺症が残るケースもあります。
手に負えないほどの噛みつきでも治る例は少なくありません。柴犬の攻撃行動では、「しつけの問題」ではなく、脳機能の問題により攻撃行動が発生している例が少なくありません。その場合、薬物療法により、劇的に改善する場合も見られます。
本記事のハイライト
- 柴犬の攻撃行動では、単純にしつけの問題ではなく、脳機能の異常が原因の場合がある
- セロトニン代謝の問題や、てんかんに絡む脳の異常発火等、脳機能の異常が関与していると、しつけでは治らない
- 薬物療法を含む適切な診断・治療により、手に負えない噛みつきが改善する場合が多い
脳機能の問題で本気噛みが起こる
柴犬では、先天的な脳機能の問題で、攻撃行動を起こしやすい子がいます。
柴犬は、犬の中でも最もオオカミに近い遺伝子を持っており、原種に近いといわれます。家畜化の程度が低く、洋犬とは違うコミュニケーション様式をとる個体が少なくありません。
人間でも発達障害のように、人と人とのコミュニケーションが苦手な方もいらっしゃします。もちろんそれは個性ではありますが、それが原因で生きづらさを抱える人もいらっしゃいます。
全ての柴犬が噛みやすいわけではありませんが、柴犬の1-2割くらいは、衝動性の高い遺伝子を持っており、残り8-9割に比べて、我慢や抑制が効かず、小さな刺激でもパニックになったり過剰な反応を示すことが多いです。
柴犬の異常な攻撃性でよく見られる症状
具体的には、以下のような症状がみられます
- 首付近を触られるのを極端に嫌がり、首輪をつけられない、つけようとすると狂ったように暴れ、泣き叫ぶ。抱っこしようとしたときも同様。
- 首輪にリードがつけられない/リードが張るとパニックして暴れる
- 突然の音や動きなどの刺激でパニックを起こしやすい
- フードに対する執着心が異常に高く、フードを食べているときや、食べ終わった後が危険で、目つきが変わる
- 急に自分の尻尾を追いかけて唸りながら回転する、回転しているときに声をかけても反応しない
これらの症状がみられる柴犬では、遺伝的素因により、衝動性が高い、あるいは、抑制が効かない性質の脳を持っており、それが原因で、攻撃行動が発生している可能性があります。
【リンク】柴犬の噛み癖は”しつけ”の問題ではなく”脳”の問題!?
セロトニン代謝の影響
このような攻撃性、衝動性の個体差が生まれる背景には、脳の神経伝達物質の代謝の違いがあります。衝動性や、攻撃性に関わる重要な神経伝達物質としてセロトニンが挙げられます。
セロトニンは、脳のブレーキとも呼ばれる神経伝達物質です。意図的にセロトニンを枯渇させた動物では、攻撃性や、不安行動が増加することが繰り返し確認されています。
人間のうつ病の発症にも関与していると考えられており、セロトニン代謝を調節する薬が、抗うつ薬として使われています。
柴犬の場合も、セロトニン代謝に影響を与える薬を使うことで、衝動性がコントロールされ、攻撃性が下がるということが良くあります。
てんかんが影響している場合も
また、人のてんかんにおいても、てんかんを発症することで、てんかんによる脳のショート(異常な電流の流れ)が脳神経(脳神経はコンデンサーと電線のようなものです)の働きに影響をあたえ、うつ病などの精神疾患が発症しやすくなることが知られています。
犬でも、てんかんを発症すると、発症前に比べて、不安や恐怖に関わる行動や、衝動的な行動が増えることが知られています。
柴犬の攻撃行動や、尻尾負いに対しては、抗てんかん薬が奏効することが良くあります。つまり、攻撃行動の中には、もともと、てんかんに近い脳機能の異常があり、それが攻撃行動の原因になっていることもあるということです。
十犬十色の性格
同じようなしつけをしても、噛んだり噛まなかったりするのは、こうした遺伝的素因による違いです。
こうした素因に対して、ダイレクトに働きかける手法が薬物療法です。敏感性や衝動性をやわらげ、情動の高ぶりを抑えるお薬を使うことで、劇的に改善する例は枚挙に暇がありません。適切な治療は、柴犬の攻撃性をやわらげるだけでなく、飼い主さんの心身を守ることにつながります。
柴犬の攻撃行動に対する薬物療法
衝動性をコントロールし、攻撃性を下げるために、薬物療法は非常に有効な手段です。
もちろん、薬物療法だけに頼ればいいということではなく、人の接し方の改善、関係性の改善こそが本丸ではありますが、犬歯が刺さるほど噛まれている場合、薬物療法にて衝動性をコントロールしてからでないと、接し方の改善や関係性の改善に取り組めないということもあります。
先に述べたように、薬物療法では、セロトニン代謝や、てんかんに近い脳機能の異常活動を抑えることで、衝動性をコントロールすることができます。
薬物療法による変化
薬物療法を実施することで、様々な変化が起こりますが、飼い主さまから頂く声としては以下のようなものが代表的です。
- 今までは目が座っていることが多かったが、笑顔の時間が増えた気がする
- 興奮の程度が抑えられて、話を聴いてくれるようになった
- 落ち着いているように感じる
- ケージに近づくと唸っていたが、唸らなくなった
- 今までは、ほとんど触れず、2回くらい撫でるのが限界だったが、今は、もちろん気を付けながら触っているが、犬の方から寄ってきて撫でられる時間が伸びた
- 咬まれる頻度が減った
- 先日、診察いただいてから、久しぶりに咬まれたものの、以前であれば確実に犬歯が刺さっていたが、今回は蚯蚓腫れになる程度で済んだ
これらの変化は、必ず起こる物ではありませんが、犬歯が刺さる本気噛みを複数回経験しているような状態では、利用してみる価値は十分にあるでしょう。
薬物療法による副作用
薬物療法では、副作用が生じることがあります。
薬の種類によりますが、行動治療に使われる薬の中で、セロトニン代謝に関わる抗うつ薬(塩酸フルオキセチン等)の主な副作用としては、傾眠傾向、下痢、便秘などです。多くは一過性の症状ですが、副作用の程度が強い場合は薬用量を調節するなどの対応を行います。一部、不安行動が悪化する症例があり、そうした場合には、使用を中止することが多いです。
抗てんかん薬については、脳全体の機能にたいして抑制的に働くため、ふらつきが起こることが多いです。逆説興奮と言って、投薬することで興奮が強くなることもありますが、この場合も、投薬を中止することが多いです。
主作用があれば副作用もあるのは仕方ないことではあります。また、副作用は必ずしも出るものではありません。薬を使うメリットと、使ったときのデメリット、使わない場合のメリットデメリットを比較して、総合的に判断していくべきです。
当院では、「1か月使ってみていい効果が出て、副作用が少ないなら使っていきましょう。」とお話しすることが多いです。絶対使わなければならないものではないですし、使ってメリットがあるなら使えばいいのではないかと思います。
【リンク】犬の本気噛みの治療‐薬物療法の利点としつけとの関係|獣医行動診療科認定医が解説
柴犬の攻撃行動の改善事例
柴犬の飼い主さま(噛みつきの相談)の声
当院での治療を受けていただいた柴犬の飼い主様の声です。
この様な日が来ること予想できませんでした(柴犬の飼い主様より)
本当に感謝の気持ちでいっぱいです!(柴犬の飼い主様より)
柴犬の噛みつきの相談事例
当院へ相談をいただいた事例の一部をご紹介します。
獣医師による柴犬の問題行動診療
このように、柴犬の噛みつきについては、身体的な問題や、脳機能の問題が関与している可能性がそれなりにあるわけです。一般的なしつけでうまくいくようならそれでOKです。しかし、うまくいかないということであれば、獣医師への相談をご検討ください。
ぎふ動物行動クリニック(院長:奥田順之/獣医行動診療科認定医)では、柴犬の噛みつきの相談をお受けしております。オンライン相談/往診も可能です。
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