トイプードルの本気噛みの3つの特徴
トイプードルは、柴犬に次いで攻撃行動の相談の多い犬種です。トイプードルは、人気犬種で近年では飼育頭数が最も多い犬種となっており、飼育割合は20%を超えます。一方で同じく人気犬種であるチワワ(13%)やミックス犬(15%)の相談よりも、トイプードルの相談の方が2倍以上多いことから、トイプードルは本気噛みが起こりやすい犬種と言えます。
ぎふ動物行動クリニックによる問題行動診療
ぎふ動物行動クリニック(岐阜県岐阜市)は、獣医行動診療科認定医の奥田順之が院長を務め、行動診療専属の獣医師が2名、CPDT-KA資格を持つトレーナーが2名在籍する、行動治療専門の動物病院です。
岐阜・愛知を中心に診察・往診を行うとともに、全国からの相談に対応するために、オンライン行動カウンセリング、預かりによる行動治療を実施しています。
お気軽にお問い合わせください。058-214-3442受付時間 9:00-17:00 [ 不定休 ]
お問い合わせ①ブラッシングが本気噛みの原因に
その理由の一つには、ブラッシングがあります。トイプードルは、丁寧なブラッシングを必要とする犬種ですが、毛質がストレートの子は少なく、ほとんどが巻き毛です。巻き毛はストレートに比べて、ブラシが通りにくいという問題があります。
飼い主さんがまじめな方程、「トイプードルだからしっかりブラシしなきゃ」「毛玉を作らないようにしなきゃ」と一生懸命にブラシをかけることになります。犬にとってブラシは初めから心地よいものではなく、敏感なこの場合、ブラシをかけられることに強い嫌悪感を抱く子もいます。
一生懸命な飼い主さんの元に、ブラシが苦手なトイプードルが来てしまうと問題が起こります。飼い主さんは、「ブラシをかけなきゃ」という意識が強いため、子犬の頃から、抑えつけてでもブラシをかけてしまいます。犬は体が小さなうちは抵抗できずやられていますが、徐々に嫌がるようになり、体が大きくなるころには噛む力も抵抗する力も強くなり、飼い主さんを噛んで、ブラシから逃れるようになります。
抱っこして無理やりブラシをしていた場合、抱っこ=ブラシ=嫌なことと学習し、抱っこもできなくなります。さらに、抱っこは手でしますので、手が近づくだけで唸るということにも発展していきます。
②学習能力の高い犬種
トイプードルは、プードルから品種改良された犬種ですが、プードル系の犬は学習能力が高いことが知られています。学習能力が高いという側面は、良い面に出れば、飼い主との良いコミュニケーションをとることにつながりますが、悪い面に出ると、どうすれば飼い主から嫌なことをされないかという部分に使われるようになります。
攻撃行動は負の強化を受けやすい行動であるといわれます。本気噛みが形成される過程には、負の強化の学習が必ずと言っていいほど存在します。
負の強化とは簡単に言うと「噛めば嫌なことが終わる」という学習のことを指します。
ブラシや抱っこといった、犬が嫌だと思っていることを避けようとして、本気噛みをするということが起こります。
トイプードルは、持ち前の学習能力から、「飼い主が嫌なことをしてくるときに、どうしたら逃れられるか?」を考え、噛む・唸るという行動が、逃れることにつながるんだということを覚えやすいと言えます。
③比較的身体の大きいトイプードルで要注意
トイプードルの攻撃行動で相談が多いのは、4~5キロ以上のこの場合です。
当然と言えば当然なのですが、1キロ台のトイプードルが攻撃しても、飼い主さんは怯まずに強引にブラシができるかもしれません。噛む力もそこまで強くはありません。もちろん身体が小さくても攻撃行動が発生することはありますし、それを軽く見るべきではありませんが、飼い主さんへの危険度は、体の大きさが小さければ低くなることは事実です。
一方で、4~5キロを超えてくるトイプードルが攻撃してきた場合は、そうもいってられません。手に穴が開くことは必至です。唸られるだけで怖いと感じるという状態に陥ります。そうなれば、犬は攻撃によって飼い主をコントロールすることができるようになります。
嫌なことがあれば、唸って「嫌」の意思表示をすれば、飼い主は引き下がってくれます。飼い主としては、抱っこしたり、ブラシしたりということができないですし、近づいたら唸られるという状態になってしまいます。
トイプードルの本気噛みの治療-3つのポイント
本気噛みで流血を何回もしている、縫うほど咬まれている、毎日唸られており人間が日常生活を送れない…。そんな状態になってしまった場合には、本格的な治療を一刻も早く始めるべきです。
本格的な治療を始める際に重要になる3つのポイントを紹介します。
①本当にしつけの問題(だけか?)疑う
本気噛み=しつけの問題と思ってしまいがちですが、身体的な痛みや不快感、知覚過敏などががあると、触られることに対して敏感になってしまう場合があります。
トイプードルの本気噛みのほとんどは、触ろうとすると噛むというものですが、触ろうとすると噛むという場合には特に身体の不調を調べておく必要があります。腰が痛いのに、抱っこの練習したって、治りようがありませんよね。まずは腰を治療しなければなりません。
もちろん、身体的な不調だけの原因で、本気噛みが起こっているわけではなく、学習の要素は多分に影響していると考えた方がよいでしょう。
いずれにしても、噛む=しつけの問題と決めつけてしまわないことが大切です。
しかしながら、そもそも触られると嫌がる、触ることができない、動物病院でも危ないというような犬に対して触診で身体的な痛みや不快感を調べることは容易ではありません。行動学を専門にしている獣医師が介在し、身体的な不調の有無を判断することが大切になってきます。
以下の記事も参考にしてください。
②専門家を頼る(ネットの記事では解決しない)
この記事を読んでいるということは、ネットの記事を漁っている最中かと思います。
この時期も然りですが、ネットの記事は必ずしも、あなたの愛犬にとって正しい答えを示してくれているわけではありません。本気噛みといっても、その程度も、発生状況も、一頭一頭、一人一人違う状況で起こっています。大切なことは、あなたと愛犬の状況をしっかりと分析し、何をどう変えたら、攻撃行動が起こらなくなるのか客観的に考えることです。
そのためには、経験値の高い専門家に相談することが大切です。専門家への相談の良い点は、あなたとあなたの愛犬の状況を分析して、その状況に合わせたアドバイスがもらえる点です。また、場合によっては、一時的な預かりによるトレーニングを行ってくれる施設もあります。
専門家と言っても千差万別で、トレーナーや、行動学を専門にする獣医師でも、本気噛みの相談を受けている症例数は、人によって大きく違います。当院では、年間約200例の新規相談があり、対応させていただいておりますが、これは日本でも有数の症例数であると自負しています。
専門家の中でも、可能な限り症例数の多い専門家に相談することが適切なアドバイスとサポートを受けるためには必要だとおいた方がいいでしょう。
③薬物療法の併用も検討
最後に、薬物療法について触れておきます。
本気噛みに薬物療法と聞くと、「薬で眠らせるのかな?」と思ってしまう方も多くいらっしゃいますが、そうではなく、情動のコントロールがしやすくなるようなサポートを行うという言い方の方が正確です。
様々な動物種で確かめられていることですが、脳内のセロトニンレベルの低い個体では、攻撃行動が発生しやすくなります。そして、脳内のセロトニン濃度を上げる薬や、セロトニンの前駆物質であるトリプトファンを投与することで、攻撃行動が減少します。
これは、犬にも当てはまることです。セロトニン代謝は個体によってまちまちで、セロトニン代謝が弱い個体も存在します。そうした個体に対してセロトニン代謝を調節する抗うつ薬を処方することで、攻撃行動が緩和され、安定した生活が送れるようになることは枚挙に暇がありません。
薬物療法には偏見もありますし、もちろん薬ですからできるだけ使わないに越したことはありません。しかし、生活が破綻し、日々恐怖の中で生活しているような飼い主さんが、薬物療法を行うことで安心して生活することができるようになるなら、それは使うべきでしょう。
もちろん、薬物療法以外の、預かりによる治療や、その他の可能性も含めてですが、様々な選択肢があることを知っていることはとても大切なことになります。
ぎふ動物行動クリニックによる緊急相談対応(全国対応)
ぎふ動物行動クリニック(岐阜県岐阜市)は、全国で唯一、獣医行動診療科認定医が2名、CPDT-KA資格を持つトレーナーが2名在籍する、行動治療専門の動物病院です。
全国から寄せられる相談に対応するために、通常の来院での診察だけでなく、往診対応(遠方でも応相談)、オンライン行動カウンセリング、預かりによる行動治療を実施し、飼い主と犬のサポートを行っています。
攻撃行動が強すぎて、触れない、近づけないといった相談もお受けしております。
私共は、岐阜に拠点がありますが、全国からご相談いただいています。
まずは、お電話でも構いませんので、ご相談ください。
(ぎふ動物行動クリニック 獣医行動診療科認定医 奥田順之)
お気軽にお問い合わせください。058-214-3442受付時間 9:00-17:00 [ 不定休 ]
お問い合わせトイプードルの本気噛み症例紹介
<ご相談の主旨>
- 家族に対する攻撃行動についてご相談いただきました。
<基本の情報>
- 犬種トイプードル、4歳0か月、去勢オス、体重約4㎏
健康状態について
- 元気:あり
- 食欲:あり
- 元々食は細かった。コングに入れると食べない。
- その他:特になし
既往歴について
- 特になし
- 2020年10月:去勢手術といっしょに犬歯を削る処置したが、歯髄が露出したままになっていた。
- 2021年7月:露出していた歯髄が黒くなったため、犬歯抜歯手術を実施。
生活環境
- 3か月前までは、リビングに犬用のスペースを作っていたが、3か月前からは、犬専用の部屋にサークルを設置するようににした
生活習慣
- 問診票参照
- 今年息子さんの受験があって、家の雰囲気が変わった?(夜、息子さんがリビングに降りてくることが多くなった。)
- 2月から犬専用の部屋を用意してからは、お母さんがほとんどの世話を行っている。
<問題となっている行動について>
相談のきっかけ
- 5か月前月(年末)くらいから、攻撃が増えてきた。そのころに夜鳴きが多くなった。子どもが受験ということもあり、生活が不規則になっていた面がある。
- 3か月前に夜泣き対策で、犬専用の部屋をつくったら夜鳴きはなくなった。
- 5か月前から月に1回程度攻撃が発生している。咬まないまでも、ピリピリしている雰囲気を感じることが多い、唸ることが多い。
これまでの経緯・問題行動の発生状況
- 最近の攻撃行動
- 歯が当たった行動/咬もうとした行動
- 4月 夜
- 連休に出先で咬まれた
- テーブルに向かっていこうとする犬を、飼い主さんがリードで止めて、手で誘導した。
- 飼い主さんの手を咬んだ。
- 咬んだ後は、顔は不機嫌そうだったが、繰り返し攻撃することはなく、その場を自分で離れて、犬用のベッドに行った。
- その時は、それほどイライラしている雰囲気は無かったが、眠いかもしれないと思ったので、クレートに誘導して寝かせるようにした。
- 4月 夜
- 家族がそろって興奮していた時
- 娘に対してマウンティングをしていたので、リードでとめて、手で誘導しようとした。
- 飼い主さんの手を咬もうとした。
- 2階の犬の部屋に移動して、気分を切り替え、散歩に行った。
- この時もご機嫌だった。不機嫌な様子はなかった。
- 2月 夜
- ボールを持っておいでという遊びを教えようとした
- ちょうだいと言ったら、攻撃してきた
- 以前から、「ちょうだい」は使っていたが、この時の前後では、「ちょうだい」という言葉に反応する様子がみられた。
- 攻撃後、自分でケージに入った。
- 2月 夜
- 前日も夜鳴きをしていた。
- この日も夜鳴きをした。
- リビングに出そうとしてが、リードがつけられなくなった。
- つけようとしたら攻撃が発生した。
- その後、自分でサークルの中に入っていった。
- サークルの扉を閉めようとすると吠えるような形になった。
- この攻撃を期に、1週間別の家で外泊し、戻ってきてからは犬の部屋を用意した。
- 4月 夜
- 唸る行動
- 唸る日数
- 1月:11日間
- 2月:7日間
- 3月:3日間
- 4月:13日間
- 唸る状況
- お母さんの膝の上で寝ている時に誰かが違づく
- 細い廊下で家族とすれ違う
- 歯磨きガムを与えようとしたら(今まではなかった)
- ゴハンを与えるとき
- 唸る日数
- ピリピリしている雰囲気があるとき
- これ以上介入したら唸るなという雰囲気のことがかなりの頻度があった。
- これまでに出来ていることも、急に、警戒した雰囲気を見せることがある
- ノーズワークをやるときに、急に警戒する時があった
- 歯磨きガム/ちょうだいに対しても急に反応することがあった。
- 歯が当たった行動/咬もうとした行動
- 家に来た時の攻撃の状況(昔の状況)
- ブラッシングをやるときに咬むということがあった。
- 甘噛みってどこまで甘噛みか分からない状況だった。
- 違うものを咬ませながらブラシをしていた。
- 寝ているときに、頭を触ったら、攻撃された。
- ケージの中にいるときに、ケージの中のものを取ろうとしたときに唸る。
- 手術着を着せようとしたら咬まれた。
- ブラッシングをやるときに咬むということがあった。
これまでの対応・相談
- トレーナーさん3人変わっている。
- 1番目、2番目のトレーナーさんの時は、体罰的な対応もあった。
- 3番目の犬の幼稚園のかたは、今も世話になっている。
- 飼い主さんと信頼関係のある方で、その方に当院をご紹介いただいた。
- 3番目のトレーナーさんになってから、機嫌がよく、いい子にしてくれる日は増えてきた。
- しかし、波がある状況は続いている。
<その他の情報>
- 散歩中も、ちょっと風が吹いた瞬間にブルブルする事もある。
- 最近敏感だなと思う時に、そうした反応が出ることが多い。
- 伸びを繰り返すことがある。(動画でも伸びが多い時が映っていた。)
<飼い主さんの希望>
- 3番目のトレーナーさんに習うようになってから、攻撃行動は落ち着いてきたものの、波があり、最近は突然ピリピリしだすことも多い。
- なんとか生活はできていても、今後犬が年をとって介護が必要になったときなどには、何もしてあげられなくなる可能性もあるのではないかと不安に感じられている。
<お話し>
- 診断名:恐怖性/防御性攻撃行動、葛藤性攻撃行動
- 繊細で警戒心の強い気質は、生得的なものが大きく、触られたり拘束されるような、何かされることに対して葛藤やストレスが生じやすいと考えられます。
- 体罰を使用した訓練、歯の痛み、主張的な行動(ご主人に対する吠え)について強化してしまったこと等、攻撃行動に至りやすくする多数の要因が絡み合い、問題行動が強化されて複雑化しているものと考えられます。
- 紆余曲折あってご苦労なさってきたと思いますが、現在のトレーナーさんに教わって、犬に対してとても丁寧な対応を取られていると思われます。それでも「波が大きい」と感じられているとおり、犬自身の心理的な余裕がないときには衝動的に攻撃が頻発してしまうようですので、補助的に薬物療法を始めてみることで、衝動のコントロールをしやすくなると考えられます。
- お母さんが攻撃の発生について「攻撃に転じるかどうか判断がつかない」と感じられる状況については、今現在は避けたほうがよいでしょう。
- 最近、「マテ」などに対してピリッとする件については、現在攻撃に至る衝動が大きく振れやすい状況であるため、今まで自分自身でコントロールできていた状況でもコントロールできなくなっているということだと考えられます。当面は無理せずその状況を避けたほうがよいでしょう。
- これから薬物療法を始めて、その効果をみてみた上で、今後の方針を考えていきましょう。
<具体的な対応策>
- 攻撃を発生させない(基本的には今までと同様に対応)
- アンガーログは今まで同様に記録して、きっかけとなる状況を作らないよう対応しましょう。
- 「唸るのを0にする」を目標にしましょう。
- 今は積極的に何かするというよりも、攻撃を発生させないための対応を徹底して行いましょう。
- かかりつけ動物病院での健康チェックの実施
- 身体的疾患が要因となっている攻撃行動の可能性は低いものの、完全に否定はできません。かかりつけ動物病院を受診し、一般的な診察、血液検査などによる健康チェックを受けられることをおすすめします。
- 薬物療法
- フルオキセチンを使用していきましょう。
- 副作用としては、食欲不振、下痢、便秘、眠たくなるなどが考えられます。
- 効果が出るまで2~4週間かかります。
その後の治療経過
1か月後ー再診
(経過)
- ノーズワークができるようになった。前よりも楽しそうにやれるようになった。
- ピリピリしている雰囲気は減った
- ちょっとしたときに離れていくという時はある。
- ぴりついた感じはほぼない
- 夜息子さんと鉢合わせになっても大丈夫だった。
- 唸ることはほぼなく生活できている。
(体調)
- 肉球を舐めるしぐさが見られた。赤くなっていた。
- 動物病院に行ったが、かゆみ止めをもらった。
- 気分転換すると止まる。
- 食欲は一時的に減ったが、今は元の量食べている。
(今後の目標)
- 唸ることは問題なくなった
- 抱っこはできないので、抱っこできるようになりたい。
(どれだけ触れるか)
- 犬の方から近寄ってくる時は、どこ触っても大丈夫。
- ブラシはジャーキーを与えれば大丈夫。
- 左前脚はあまり持たせてくれない。
- 今は2~3日に1回、もしくは、2日に1回。
(評価)
- これまでの対応+薬物療法で良い成果
- 日常生活でやらなければならないことで不便はない状態
- 今の状態をしばらく継続していく。
- 抱っこの前に、ブラシの練習をする。
- 抱っこの前に、トレーニングをしっかり行う。
(処方)
- フルオキセチン 継続
再診ー2か月後
(経過)
- 唸ったのは、月に1回くらい
- 落ち着いて過ごしている。
- ここ2か月は、トレーニングも楽しそうにやっている。
(トレーニング)
- 最終的にブラッシングがしたい
- トリミングサロンではできている。
- 向こうから近づいてくる時は触るのは問題ない。
- 犬から近づいてこない時は触るのは避けている。
(評価)
- 引き続き順調
- この状態をまずは1年維持して、徐々に距離を詰めていけるように。無理に距離を近づけるようなことはしないようにする。
- 今は、犬が楽しめるトレーニングだけやった方がいい。対立的・強要的な対応を飼い主さんがやることは勧められない。やるなら、当方で預かって馴らした方がいい。そのあたりは今後も相談を継続していく。
- 少なくとも、日常的な攻撃や唸りはなく、平穏に生活できているので、まずは現状を維持する
(処方)
- フルオキセチン 継続