柴犬は、噛む・攻撃行動の最も発生しやすい犬種です。

咬みつく柴犬を飼われている飼い主さんは『育て方が悪かった』・『しつけられない飼い主のせい』などの指摘をされることもあるかと思います。

「柴犬のしつけ」でいろいろ調べてみても

  • 『飼い主がリーダーになる!』
  • 『毅然とした態度で』
  • 『上下関係を分からせる』

などの情報が出てきます。そして、

  • 『リーダーウォークをやってみたけどむしろ悪化した』
  • 『上下関係を分からせようと戦ったけど負けた』
  • 『すごく怯えるようになった』

などの副作用が出ることもあります。

  • 『抱っこできない』
  • 『食事に関連して攻撃的になる』
  • 『犬歯が刺さる程咬まれた』
  • 『これまでに10針以上縫っている』

切実な悩みを抱える柴犬の飼い主さんは多くいらっしゃると思います。

実は、柴犬の強度の攻撃行動は、しつけの問題だけで発生するわけではなく、身体の疾患が影響していたり、脳機能の問題で起こる場合もあります。そして、柴犬の強度の攻撃行動では、その可能性は他の犬種に比べて高いように感じます。

柴犬の脳の特殊性

柴犬はオオカミに最も近い犬種と言われています。

世界には400種とも700種とも言われる犬種が有りますが、それを遺伝的な距離で二つのグループに分けると、『柴犬をはじめとした日本犬グループ』と『その他すべての犬種のグループ』に分けられるくらいです。柴犬をはじめとした日本犬のグループは、オオカミに一番近いグループになります。

オオカミと犬の行動学的な違いは様々ありますが、一番の違いは、人との親和性です。人と犬は1.5万年とも3万年ともいわれる長い期間、共に暮らしてきました。その間、人は、人に馴れやすい犬を選抜して、品種改良をおこなってきました。これを家畜化と言います。

特に西洋ので品種改良された犬たちは、家畜化の程度が強く、人との共同作業が可能な行動特性を持つ犬が選抜されてきました。一方で柴犬をはじめとした日本犬は、家畜化の程度が低く、原種に近い遺伝子が残り続けました。これは日本人は自然を自然のまま尊ぶ文化・精神性を持ち、動物の品種改良に積極的でなかったことが影響しています。その結果、日本犬はオオカミに最も近い遺伝子を残し今に至ります。

オオカミと犬の行動特性の違いは、人への馴れやすさであると先に述べました。人との馴れやすさとは、異種の動物とのコミュニケーションに関して肝要であるか、ストレスに対して融通が利くかどうか、イレギュラーな状況に対してパニックにならずに対応できるかといった要素が必要になります。柴犬はオオカミに近いということは、これらの行動の要素が全体的に弱い、あるいは、一部に弱い個体が存在するという事実と一致します。

柴犬では、葛藤状態に置かれた場合に、尻尾を追ってぐるぐる回る行動がよく観察されます。中には、尻尾を咬みちぎってしまう犬もいます。こうした行動は、ストレスがかかった際に、その処理を仕切れずに、行動として表面化したものととらえることができます。尻尾を咬みちぎってしまうような状態は常同障害と呼ばれ、治療には、薬物療法が必須となります。
https://tomo-iki.jp/shiba-problem/1553/

この尾追いの原因の一つは、脳内ホルモンのセロトニンの代謝にあると考えられています。感情のブレーキとも言われるホルモンで、感情の高ぶりを調整する機能を持つと考えられています。柴犬の尾追い行動では、投薬によりセロトニンの代謝を調節することで、多くの場合コントロールが可能です。

セロトニン代謝が攻撃性に影響を与えるのは、犬だけでなく、マウスやラットなど複数の動物種で確認されています。尾追いの多い柴犬は、セロトニン代謝に異常を持つ個体も少なくないと考えられます。そして、そのセロトニン代謝の異常は、必ずしも尾追いに出るわけではなく、攻撃性として表面化することもあるわけです。

このように、特に柴犬では脳の機能が攻撃性の発現に大きな影響を与えています。

てんかんの可能性もある

また、別のある研究では、大学病院を受診した攻撃行動のある犬の脳波を計測したところ、棘波と呼ばれるてんかん症例に特徴的な脳波が約9割の個体で確認され増した。そして、それらてんかん体質のある個体に、抗てんかん薬を投与したところ、そのうち8割で効果が認められたとのことでした。

つまり、攻撃行動には、てんかんの様な脳の機能的な異常が関連していることが多くあるということです。

イングリッシュスプリンガースパニエルの激怒症候群(レイジシンドローム)と呼ばれる攻撃行動は、前兆が全く見られない状態で突然起こる特発性の攻撃行動とされますが、激怒症候群と診断された個体中に、てんかんの焦点性発作が含まれていたという報告もあります。

しつけの問題ではなく、てんかんだったとすれば、しつけではなく投薬が適切な対処になると言うことがかなりの数潜在しているのです。

しつけの前に、脳の機能の異常を疑う

いくら
『上下関係を教えたい』と思っても、
『リーダーになりたい』と思っても、

脳の機能のレベルで異常があればうまく行きません。

心身の異常がある場合は、どのような異常が、どのような原因で発生しているか調べ、適切な投薬を含む治療が必要となる事があります。

咬む柴犬の飼い主の皆様、諦めないで、行動学を専門にしている獣医師の診察を受けてみてください。もし近くにいなければ、お気軽にお問合せください。オンラインでの相談も対応や、近隣で行動学をやっている獣医師の紹介も行っております。

(ぎふ動物行動クリニック 獣医行動診療科認定医 奥田順之)