ご相談の主旨
夜を中心に吠え続けることなどの症状に問題を感じご相談いただきました。
本日お知らせいただいた内容(行動の経歴)
Rちゃんは15歳のミックスの女の子で、1年半くらい前からウロウロと動き回るようになり、それに合わせて、徐々に夜寝ない状態となり、ウロウロして立ち往生してしまうと吠えるという行動がみられるようになってきたとのことでした。
特にここ2ヶ月はひどくなってきたとのことでした。近所迷惑になるという面もあって吠えさせないように気を付けているとのことで、なだめれば収まるため、ウロウロし始めたら吠えないようになだめているとのことでした。そのため、飼い主さんが夜寝られなくなっており、夜落ち着いて寝てほしいと思っているとのことでした。
現在は、室内で8面サークルを用意して管理しており、サークルの中にいるときは吠えないとのことでした。
昼寝ていることが多く、夜起きていることが多いとのことでした。起きているときはウロウロしていることが多く、部屋の角など隅で立ち往生して壁に向かって吠えることが多いとのことでした。食欲は落ちており、フードは食べず、ジャーキーやほねっこを中心に食べているとのことでした。飼い主の顔は認識しているようで、飼い主の顔を見ると寄ってきて喜んでいるように見えるとのことでした。排泄も定期的に外に出すと外でできるとのことでした。
2週間前からかかりつけ動物病院にて、不安を抑える薬を処方されており、そのおかげで多少吠えのトーンが収まったように感じるとのことでした。
診断とお話し
今回の問題行動は、犬の認知症(高齢性認知機能不全)と考えられます。非常に痩せていますし、食欲も低いとのことですから、身体機能の低下もあろうかと思います。薬物療法を実施していく上では、血液検査を行っていただきたいと思いますので、かかりつけ動物病院にて、肝臓・腎臓の数値を含む全身のスクリーニング検査を行っていただくことをお勧めします。
今回の症状は、高齢性認知機能不全の症状(DISHAの5兆候)に該当しています。
Disorientation(見当識障害)
コーナーに入って出て来れなくなる(後ずさりできない)、家の中で迷う、庭で迷うなど。
Interaction(相互反応の変化)
飼い主さんや同居動物との関わり合いの変化。飼い主が帰ってきたときに喜んでいたのに喜ばなくなったなど。
Sleep (睡眠と覚醒の変化)
昼夜逆転、夜に起きて活動する(夜泣き・夜吠えるなど)、昼ずっと寝ているなど。
Housetraining(家庭でのしつけを忘れる)
トイレのしつけを忘れる、台所など入ってはいけない場所に入らなかったのに入るようになった、など家庭内のしつけを忘れてしまう。
Activity(活動性の変化)
臭いを嗅ぐ、毛づくろいをする、食べることにすら関心がなくなってしまう。目的もなく歩き回る常同障害を併発することもある。
犬の認知症は、治療で回復することは現在の医学では難しく、症状を緩和したり、犬と飼い主さんのQOLを上げるために何が出来るかを考えていくという形になります。薬物療法で緩和されることもありますので、そうした対応も含めて実施していくようにしましょう。以下に対処法を列挙いたします。
今後の治療法・対処法
1. 環境の改善
グルグル回っても大丈夫なように、円形のサークルを用いるようにしましょう。あるいはリビングの角にドッグガードを置くなどして、角を作らないようにしましょう。
2. 手からゴハンを与える
手からでなければ食べないと思いますが、手から与えて飼い主さんとのコミュニケーションをはかるようにしましょう。声掛けしながら与えると良いでしょう。食べる意欲も増すかもしれません。
3. 食べられるものを与える
食欲がないようなら、ドッグフードにこだわらず、食べられるものを与えるようにしましょう。臭いの強いものを与えることで脳が刺激されます。
4. 薬物療法
薬物療法では、以下の薬を使用します。効果を見て、投薬するお薬の種類や投与量を調節します。
・アルプラゾラム
不安を抑え、睡眠を改善するお薬です。時に逆説興奮といって、むしろ興奮することがあります。ふらつきがみられることがあります。
・抑肝散加陳皮半夏
認知症に効果がある漢方薬です。
2週間程度様子を見て、他の薬物を検討していきます。様子をお聞かせください。