ご相談の主旨

夜を中心に吠え続けることなどの症状に問題を感じご相談いただきました。

本日お知らせいただいた内容(行動の経歴)

Aちゃんは14歳の柴の男の子で、2018年の3~4月ごろから夜間吠えるようになったとのことでした。

2年前(2016年春)に、ご飯も食べない、水も飲めない、歩けないという症状が発生し、動物病院に連れて行ったところ、脳梗塞疑いの診断を受けたとのことでした。投薬治療を続けて回復したとのことでした。

1年前(2017年春)にも同じような症状(2016年より軽い症状)が出て、掛かりつけ動物病院にて、同じように対応して回復したとのことでした。その後、秋ごろに夜間に突然吠えるようになり、近所の人が集まってくるくらい激しく吠えたとのことでした。その後、昼は屋外、夜は室内に入れるようになったとのことでした。夜室内に入れるようになったところいったん落ち着いたとのことでした。同じころから、庭の一角でぐるぐる回ってしまい、声掛けしても反応しないという行動をしばしば(毎日ではない)見かけるようになったとのことでした。

今年の春頃から、夜間入れているケージの中から吠えるようになったとのことで、毎日、2~3時間おきに吠えるようになったとのことでした。吠えた時は散歩に行くようにしていたとのことでした。これは人が持たないということで、かかりつけ動物病院に相談したところお薬(アセプロマジン)を与えるようにしたとのことでした。効きすぎてしまって体がうごかなくなったこともあって、薬を使ったり使わなかったりしているとのことでした。

ここ1週間は、そばにいれば、夜中起きてしまっても無駄吠えせずに寝るとのことで、ケージのそばで寝るようにしているとのことでした。

寝るとき、散歩に行こうとするとき、ご飯食べた後に、ぐるぐる回って、壁に向かって吠えるという行動がみられるとのことでした。

倒れた時点から、飼い主さんに対する反応が減り、今は音や声掛けに対してはほとんど反応しないとのことでした。おそらく耳が聞こえていないのではないかとのことで、診察時にも音に対する反応はありませんでした。

食欲は変わらず、完食しているとのことでした。
また、食欲や給与量は変わらないものの、痩せてきているとのことでした。

排泄の失敗などなく、排泄したいときは吠えて知らせるとのことでした。
昼間はほぼ寝ているとのことでした。
最近、口をくちゃくちゃさせる行動がみられるとのことでした。

診断とお話し

今回の問題行動は、犬の認知症(高齢性認知機能不全)と考えられます。薬物療法を実施していく上では、血液検査を行っていただきたいと思いますので、かかりつけ動物病院にて、肝臓・腎臓の数値を含む全身のスクリーニング検査を今後も継続的に行っていただくことをお勧めします。

今回の症状は、高齢性認知機能不全の症状(DISHAの5兆候)に該当しています。

Disorientation(見当識障害)
コーナーに入って出て来れなくなる(後ずさりできない)、家の中で迷う、庭で迷うなど。

Interaction(相互反応の変化)
飼い主さんや同居動物との関わり合いの変化。飼い主が帰ってきたときに喜んでいたのに喜ばなくなったなど。

Sleep (睡眠と覚醒の変化)
昼夜逆転、夜に起きて活動する(夜泣き・夜吠えるなど)、昼ずっと寝ているなど。

Housetraining(家庭でのしつけを忘れる)
トイレのしつけを忘れる、台所など入ってはいけない場所に入らなかったのに入るようになった、など家庭内のしつけを忘れてしまう。

Activity(活動性の変化)
臭いを嗅ぐ、毛づくろいをする、食べることにすら関心がなくなってしまう。目的もなく歩き回る常同障害を併発することもある。

犬の高齢性認知機能不全は、治療で回復することは現在の医学では難しく、症状を緩和したり、犬と飼い主さんのQOLを上げるために何が出来るかを考えていくという形になります。夜間に起きてしまったときに吠えるのは、不安も関連していることがあります。漢方薬や抗不安薬による薬物療法で緩和されることもありますので、そうした対応も含めて実施していくようにしましょう。以下に対処法を列挙いたします。

今後の治療法・対処法

1. 環境の改善
グルグル回っても大丈夫なように、今後必要になった場合は、円形のサークルを用いるようにしましょう。

2. 薬物療法
薬物療法では、以下の薬を使用します。効果を見て、投薬するお薬の種類や投与量を調節します。
・抑肝散(2分の1包を1日2回)
認知症に効果がある漢方薬です。
2週間程度様子を見て、他の薬物を検討していきます。