はじめに
「トイレはちゃんと設置してあるのに、猫がクッションや絨毯の上で排泄してしまう」というご相談は、当院でも非常に多くいただきます。飼い主さんの中には「うちの子は反抗しているのでは」「わざと嫌がらせをしているのでは」と感じてしまう方も少なくありません。しかし実際には、猫なりの理由があって「トイレ以外の場所」を選んでいることがほとんどです。
今回は、生後8か月齢の去勢済みオス猫(ロシアンブルー)の事例をもとに、不適切な排泄行動がどのように起こり、どのように改善していったのかをご紹介します。
猫のしつけ&問題行動相談
ぎふ動物行動クリニック(岐阜本院/浜松分院)では、猫同士のケンカ、不適切な排泄、飼い主に対する攻撃などの問題に対し、獣医師による猫のしつけ相談&問題行動の相談オンライン相談に取り組んでいます。埼玉を拠点とした関東近郊の往診も行っています。
岐阜・浜松・埼玉ともに、岐阜本院での一次受付を行っております。058-214-3442受付時間 9:00-17:00 [ 不定休 ]
お問い合わせ初回のご相談内容
この猫は、生後3か月でお迎えされ、迎えて間もない頃からトイレ以外での排尿がみられていました。
詳しくお話を伺うと、次のようなきっかけがあったことがわかりました。
- ある時、排便後にお尻に便がついたまま慌てて走り回ってしまい、その際に偶然その場で排尿してしまった
- 以降、その「たまたま排泄してしまった場所」に繰り返し排尿するようになった
- 夜間、ケージから出して自由にさせてみたところ、失敗が続くようになった
排尿の量は通常量で、狙って壁などに吹きかけるような様子もなかったため、いわゆる「マーキング(スプレー行動)」の可能性は低いと判断しました。むしろ、クッションやふかふかの寝床など、特定の触感を持つ布製品への嗜好性が高まってしまい、トイレよりもそちらを選んでしまっている状態と考えられました。
また、排泄を失敗した際やしそうになった際に、飼い主さんが声をかけたり慌てて対応したりすることで、猫にとってその状況自体が「注目してもらえる出来事」として学習されてしまっている可能性も考えられました。
改善プログラムのポイント
このケースでは、大きく分けて3つの柱で改善を進めていきました。
① トイレ環境の見直し
- トイレの形は屋根なしのオープンタイプに変更
- サイズは体格に対して余裕のある大きめのものを使用
- 数を増やし、いつでも使いやすい状態を用意
- 猫砂は急に変えず、慣れているものを継続して使用
猫にとってトイレは「安心して用を足せる場所」である必要があります。狭い、砂が合わない、囲まれていて逃げ場がないといった要素があると、それだけでトイレを避けてしまう原因になります。
② 失敗させない環境づくり
- クッションや絨毯など、失敗しやすい布製品は生活スペースから一旦撤去
- ケージ内でトイレの成功体験を積んでから、少しずつ行動範囲を広げる
- 「排泄しそうになったら捕まえてトイレに入れる」といった事後対応ではなく、そもそも失敗できない環境をあらかじめ整えておく
③ 飼い主さんの対応の見直し
- 失敗しても叱らない・大きな反応をしない
- 排泄しそう・してしまった場面であえて注目しない(見て見ぬふりをする)
- 失敗した場所は消臭効果のある洗剤でしっかり掃除する
叱ることは一見「教育」のように感じられますが、猫にとっては強いストレスとなり、防衛的な攻撃行動や、人の目を盗んで排泄する行動につながることもあります。反応をなくすことは「無視する」ということではなく、問題行動を悪化させないための大切なステップです。
経過
改善プログラム開始から数日間、ケージ内でのトイレ練習を集中的に行ったところ、新しいトイレをしっかり使ってくれるようになりました。
その後、生活スペースを少しずつ広げていったところ、約1か月後の時点ではほとんど失敗がみられなくなりました。ただしその間にも、ケージ内に新しく置いた寝具の上で数日間排尿が続く時期があったり、布製品を出しっぱなしにするとまたそこで排泄しようとする様子がみられたりと、一進一退の期間もありました。その都度、原因となっている物を撤去し、代わりのトイレ環境を整えることで、少しずつ改善が進んでいきました。
約2か月半後の2回目のご相談時には、トイレの数を増やし配置も安定したことで、日常的にはほぼ問題なく過ごせる状態になっていました。
ただし「ふかふかとした布製品の上ではまた排泄してしまう可能性がある」という嗜好性そのものは残っているため、油断せず布製品の管理には引き続き注意が必要、という点をお伝えして経過観察としています。
オンラインカウンセリングでの改善事例です
今回ご紹介した事例は、実は初回のご相談から経過観察まで、一度も対面でお会いすることなく、すべてオンラインカウンセリングで対応しています。
行動に関するご相談というと「実際に猫を見てもらわないと分からないのでは」と思われる飼い主さんも多いのですが、今回のように投薬を必要とせず、生活環境の調整や飼い主さんの対応の見直しが中心となるケースでは、オンラインでも十分にサポートが可能です。トイレの設置場所や布製品の配置、ケージの使い方など、実際のご自宅の環境をお伺いしながら一緒に対策を考えていくスタイルは、むしろ「普段の生活そのままの環境」を確認できるという点で、オンラインならではのメリットもあります。
来院の負担なく、ご自宅にいながら継続的にサポートを受けていただくことができ、有効なサポートであると感じています。
なお、オンラインでは処方が難しいお薬を使用する必要がある場合には、対面でのご相談が必要になります。また、身体的な検査が必要な場合や内科的な問題が強く疑われる場合には、かかりつけの動物病院を受診していただくことをおすすめすることもあります。
まとめ
トイレ以外での排泄は、飼い主さんにとって精神的な負担も大きい問題です。しかし多くの場合、「わざと」ではなく、環境や経験の積み重ねによって偶然できあがってしまった習慣であることがほとんどです。
- マーキングなのか、トイレ環境への不満なのか、他の場所への嗜好なのかを見極める
- トイレの形・サイズ・数・設置場所を見直す
- 失敗しても叱らず、あらかじめ失敗しない環境を整える
この3点を意識するだけでも、改善の糸口が見えてくることが多くあります。もし「うちの子もトイレ以外で排泄してしまう」とお悩みでしたら、自己判断で対応を続ける前に、一度当院にご相談ください。原因を一緒に探りながら、その子に合った改善プランをご提案いたします。


