今回は、とても仲の良かった2頭の猫ちゃん同士がケンカをするようになってしまって悩まれている飼い主さんからのご相談についてご紹介します。
同居の猫同士が不仲な場合の対応方法については、こちらの記事にもまとめていますので、参考になさってください。
Contents
ご相談の主旨
- 同居猫間の攻撃行動及び飼い主さんへの攻撃行動について、ご相談いただきました。
基本の情報
- 子猫の頃に保護活動者より同時に譲り受けた姉妹猫2頭を飼育
- 猫種:いずれも雑種
- 年齢:いずれも8歳10か月
- 性別:いずれもメス(不妊手術済み)
- 飼い主さんは、お一人暮らし
問題行動の経歴【猫同士のケンカ、飼い主さんへの咬みつきなどの攻撃】
- [5月5日]大きな地震が発生
- 猫Aが特に怖がり、揺れると走って隠れようとしたり、不穏な状態が続いた
- [5月6日~]猫Aが猫Bに威嚇、ケンカに発展
- 最初、猫Aが猫Bに「シャー」「ウー」と威嚇し、その後、猫Aを猫Bが追い、ケンカになった。これ以降、この状況が連日、または数日に1回起きることが継続していた。
- ケンカがあると猫Aが恐怖から排泄物を漏らしたり、猫の顔に切り傷のようなものができていたこともあった。
- ケンカが起きると猫Aが逃げ、寝室や書斎に逃げ込むため、その部屋を閉めて、落ち着くまで一時的に隔離するようにしていた。その後しばらくすると落ち着き、一緒に寝たり舐め合ったりしていた。
- 飼い主さんの留守中にケンカをした痕跡があった日もあった。
- [6月4日]飼い主さんも攻撃を受けた ※この日が一番ひどいケンカだった
- この日は夕方、夜の2回ケンカが発生し、猫Bの手足の爪が取れ、血が出たり、首輪の布がちぎれたりするなど、激しかった。
- 飼い主さんが猫Aを逃がすよう介入したところ、猫Bに右手と両足を引っかかれ、太ももを3か所咬まれた。
- この夜から完全に2頭を隔離して生活することにした。
- [6月10日]意図せず対面してしまいケンカ発生
- 猫Aが引き戸の突っ張り棒を外してしまい、猫Bと対面してしまったため、ケンカが発生した。
- [7月8日]再びケンカ
- 6月30日に再び対面させ、7月8日までは、飼い主さんの在宅中は一緒に過ごさせることができており、同じマットの上など近距離で休む様子もあった。
- 午後2時頃、寝室で猫Aが威嚇し、ケンカに発展した。猫Bをリビングに誘導して猫Aを寝室に隔離したものの、飼い主さんも襲われそうになったため、玄関側に避難した。猫Bの興奮が長期間収まらず、飼い主さんは翌朝までリビングに入れなかった。
- 現在は寝室に猫A、書斎に猫Bを隔離している。
現在までの対応
- かかりつけ動物病院に相談
- 興奮を落ち着かせるための薬を処方してもらった
- 2頭ともやや落ち着き、夜鳴きの声も控えめになった
- 自宅での対応
- 隔離
- 初期はケンカの後落ち着かせる間の隔離
- その後、書斎と寝室にそれぞれを隔離
- 飼い主さんが別の部屋にいると、一緒にいない猫が大声で鳴いた
- 双方の部屋を行ったり来たりしながら世話、スキンシップ、遊びの時間をそれぞれに取るようにした
- 慣らす練習
- リビングに交替で出す時間を取った
- 相手のにおいのついたマットを毎日交換した
- 引き戸の隙間から顔が少し見える状態で双方におやつを与えた
- 猫Bをケージに入れ、猫Aに見せる時間をとった
- 双方にカラーを付けて対面させた
- 隔離
お話し
- 当初、猫Aちゃんが猫Bちゃんに対して威嚇をしたのは、地震による不安・恐怖による威嚇が関係のない猫Bちゃんにたまたま向けられてしまったものと考えられます。次いで、猫Bちゃんが猫Aちゃんに攻撃するようになったのは、優しく甘えさせてくれるはずの猫Aちゃんが威嚇をしてくることで葛藤が生じ、攻撃に転じたものと考えられます。さらに、猫Bちゃんの激しい攻撃が、猫Aちゃんにとって度重なる恐怖体験となってしまい、恐怖から防衛的な威嚇をするようになったと考えられます。
- 今回の問題は、直接のきっかけは地震という天災であり、2頭の間に仲違いの大きな原因があったわけではないようです。しかしながら、もともとの2頭の性格の違い(遠慮しがちで繊細な猫Aちゃんと甘えん坊で強い猫Bちゃん)も潜在的な要因になっていると考えられます。
- 飼い主さんがこれまでに実施された2頭を再び慣らす練習の手順は、妥当なものであったと思います。ひとつひとつの過程にさらに長い期間を見込んで、再び行ってみるとよいでしょう。また、猫Aちゃんの威嚇が出なくなってから、柵などで猫Aちゃんの安全を確保した上で同じ空間にいる期間は、かなり長期間とる必要がありそうです。
- 現在かかりつけ動物病院より処方されている薬物については、良い効果が出ていることから、今のところ薬剤を変更せず、慣らす練習をする期間中継続したほうがよいと考えられます。慣らす過程で2頭の状態が極端に不穏になるなど、芳しくなければ、他の薬剤を試すことを検討も考慮する必要があるかもしれません。
- 直接対面させた後、1週間後に再びケンカが起きてしまったとはいえ、2頭は同じマットの上で近距離で休むなど親和性のある行動がみられていますので、長期間かけて関係の再構築を行うことで、同じ空間で生活できるようになる可能性があります。現在は、猫Aちゃんの猫Bちゃんに対する恐怖心が継続している状態であり、猫Aちゃんがどこまで受け入れられるかがポイントとなるでしょう。排泄物を漏らすほどの恐怖体験を重ねていることを考えると、恐怖が消えることは容易ではなく、かなり長期間要すると考えられます。そのため、いったん目標を「ケージなどを活用しながら2頭が平和に、飼い主さんも快適に生活できる」という所に設定して、隔離しながらも持続可能な生活ができるような環境整備や対応の方法を探っていきましょう。
具体的な対応策
- 環境整備
- 寝室や書斎との間仕切りを柵などに変更
- 隔離している各部屋とリビングとを分けながらも有機的な繋がりを持たせられるように工夫する
- ケージを置く、脱走防止扉(木製の柵)を設置する などの方法
- 飼い主さんが世話しやすいよう整備する
- 慣らす手順を経て、猫Aちゃんの威嚇がなくなってから、この間仕切り越しに2頭が同じ空間で生活できることを目指す
- 寝室や書斎との間仕切りを柵などに変更
- 2頭を慣らす練習
- 基本的には、以前実施したのと同じ手順で良い
- ひとつひとつの過程に長期間かけながら実施してみる
- 当面は隔離したままで過ごす
- 鳴くことへの対応
- 隔離していると飼い主さんの帰宅後それぞれに鳴き声をあげる
- 知育トイを活用してみる
- 中にごはんを入れて時間をかけて食べてもらう
- 帰宅後、ドライフードを食べる時に使い、もう1頭の世話をする間の時間稼ぎにする
- 薬物療法
- 当面、かかりつけ動物病院で処方されている薬剤を継続
犬と猫の問題行動診療(犬の攻撃行動、猫の不適切排尿、咬みつきなど)
ぎふ動物行動クリニックでは、犬の攻撃行動や吠えの問題、猫の不適切排尿や咬みつき、過剰グルーミングなど、多岐にわたる問題行動について、ご相談を承っています。
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