猫を多頭飼育しているおうちでは、唸る、シャーと威嚇する、追いかける、咬むなどのような猫同士での攻撃が発生することがあります。

猫同士で仲が悪くなるのはなぜ?

猫は自然の中では、単独生活をする動物なので、他者と協調し社会生活を送ることよりも、自分で自分の身を守って生き延びることが最優先となります。そのため、猫同士のトラブルの多くは社会的なグループにおける葛藤が原因となり、その行動自体は猫にとっては正常な行動パターンの一つであるといえます。

オス猫は元来、縄張りや交尾をめぐって他の猫と争うことが多いため、去勢手術をしていない猫が関係する場合、よりトラブルが発生しやすくなります。一方、メス猫はオス猫と比べて社会的グループを作る傾向にあると言われているものの、互いに独立し個々の縄張りをもつようになると、互いにグルーミングし合うなどの親和性を示す行動が見られなくなることがあります。こういったトラブルは社会的成熟期である2~4歳齢くらいに顕著となります。

同居猫同士のケンカのきっかけとなりやすいこと

  • 新しい猫の参入
  • 引越し
  • 家族構成など家庭内環境の変化
  • 猫の動物病院への通院や入退院
  • 多頭飼育で個々のスペースが狭い
  • 食器、猫用トイレ、休息場所などが不足している
  • 社会化期に他の猫と適切にふれあった経験がない
  • 性格の異なる猫同士の同居

猫同士の理想の関係

飼い主は、同居猫同士、一緒に食事を分け合ったり、いわゆる「猫団子」と呼ばれるように一緒にかたまって寝たり、互いに甘え合うような、密度の濃い仲の良い様子を見たいと思いがちですが、猫としての猫同士の理想の関係は、もっと軽いものです。出会った時にチラリと相手を見る、一瞬鼻や体を近づけて挨拶するなどの様子がみられれば、その2匹は十分仲が良いと考えるべきでしょう。

猫は単独行動をする動物であり、猫の社会は人間の考え方とは大きく異なる点が多いため、それを考慮しない環境、飼育方法、過度に飼い主が介入することなどは、猫にとって大きなストレスとなってしまいます。

不仲な猫同士への対応:ステップ①まずは安全対策

家庭内の猫と人間のけがを防ぐことを最優先に考えましょう。攻撃が激しかったり、頻繁に起きる場合には、すぐにそれぞれの猫を別の部屋などに隔離し、それぞれに食器、水、猫用トイレを設置しましょう。

このとき、猫が興奮していたら、直接抱き上げることは危険です。猫を厚手のブランケットで覆うか、追い込むようにして隔離部屋に移しましょう。

激しいけんかの直後は、数時間から数日間、猫を暗く静かな部屋にで落ち着かせるとよいでしょう。

不仲な猫同士への対応:ステップ②猫同士を再び慣れさせる準備

最終的な目標は、両方の猫が攻撃行動(唸る、シャーと威嚇する、追いかける、凝視するなど)をとることなく同じ場所にいられることですが、最初の段階では、休んだり、食べたり、排泄したりすることについて、相手の猫に会わずにできるような場所を準備しましょう。そして、それぞれにしっかりと遊びの時間を取ることで、捕食行動の欲求を満たすことが大切です。一緒にしていく段階で、相手の猫にそうした行動が向けられにくくするためです。

不仲な猫同士への対応:ステップ③猫同士を再び慣れさせる手順

②の段階を経て、両方の猫が十分に冷静になったら、両方の猫が落ち着いて不安を持たずにいられるよう、下記のように十分な距離や障壁を使った上で、同じ空間でおやつやごはんを食べられるよう、徐々に慣らしていきましょう。猫同士は、このトレーニングをする時以外は隔離しておきましょう。

  • 相手が見えないよう、閉めたドアで両方の猫を隔てる
  • 部屋の端と端など、猫同士を、リラックスできる距離まで十分離しておく
    • 可能なら、猫にハーネスとリードを装着するとよい
    • ケージなどを使用することもできる
      • 一方の猫をケージに入れて、他方を部屋に放す(攻撃を仕掛ける方の猫をクレートに入れ、被害を受ける猫を放すのがよい)
      • 両方をそれぞれケージに入れる

おやつやごはんを食べない場合は、お互いの距離が近すぎ、猫が強い不安を持っている可能性があります。この場合は、さらに距離を離して練習しましょう。

両方の猫がおやつやごはんを食べることができ、次の回も同じ距離で食べられるようであれば、その次の回はもう少し食器の距離を15~20cm程度近づけてみます。攻撃行動や不安な様子がみられないことが2回以上続けば、食器の距離を近づけるようにし、徐々に近づけていきましょう。この過程の途中で猫同士の攻撃が発生してしまうと、また逆戻りし、マイナスからのスタートとなってしまうだけでなく、より解決が困難となってしまうため、ゆっくりと急がず行いましょう。

不仲な猫同士への対応:ステップ④猫同士の対面

③のトレーニング中にも猫同士の関係が安定しているなら、できるだけ刺激が少なく、万が一攻撃が起きた際にも飼い主さんがすぐ対応できる形で対面させてみます。もし猫がお互いに攻撃をし合うようなら、お互いの姿が見えないよう、またお互いが近寄らないよう、2頭の間に板や衝立などの障害物を置きましょう。

対面方法の例

  • 飼い主さんがよく見ていられる時にそれぞれの猫にハーネスとリードを装着して、部屋の両側にそれぞれを繋いでおく
  • それぞれの猫を部屋の両端において、おもちゃや猫の好きな食べ物に注意を向けさせ、気をそらしておく
  • ペット用サークルを2重にして使用したり、網戸、ガラス戸などを使うことで、お互いの姿は見えるが近づきすぎない状態で同じ部屋に居させる

不仲な猫同士への対応:その他のコツ

  • 隔離中にお互いの匂いに慣れさせるには ※1
    • 猫用トイレを交換
    • タオルでそれぞれの猫を拭いて匂いをつけ双方の匂いを混合
  • 攻撃性が軽度の場合、猫によっては一緒に遊ばせることで再び慣れることもあります。 ※2
  • 仲が悪くなるきっかけが屋外の猫である場合もあります。その場合、窓を閉めるなど外が見えないようにする工夫が必要となる場合もあります。
  • 不仲な猫同士の中に未去勢のオス猫がいる場合は、去勢手術を受けた方が良いでしょう。

※1 嗅覚を含めた猫とのコミュニケーションについては、こちらの記事もご参照ください。

猫と上手にコミュニケーションを取るには?

※2 猫の遊びや捕食行動については、こちらの記事もご参照ください。

問題行動解決のためにも大切な猫の「遊び」

それぞれの猫が快適に暮らせる環境を整えましょう

猫同士がケンカをしたり、仲が悪くなってしまうことには、猫同士の相性以外に、生活環境で改善できる点がある場合がほとんどです。それぞれの猫たちがストレスや不安を持たずに、健康で快適に暮らせるよう、飼育環境の見直しと改善を行いましょう。

多頭飼育の環境で確認すべきポイント

  • 猫の生活に必要な物について
    • トイレ、フード、水、おもちゃ、休息場所、寝床 など
    • 十分な数があるか(最低でも頭数+1個)
    • 適切な場所に配置されているか
  • それぞれの猫の安心・安全について
    • 安心できる休息場所や寝床、ストレスとなることを回避できる隠れ場所などが十分な数あるか
    • 安心できる場所を邪魔したり横取りしたりする猫がいないか

犬と猫の問題行動診療(犬の攻撃行動、猫の不適切排尿、咬みつきなど)

ぎふ動物行動クリニックでは、犬の攻撃行動や吠えの問題、猫の不適切排尿や咬みつき、過剰グルーミングなど、多岐にわたる問題行動について、ご相談を承っています。

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