今回は、Silvanらが2021年に発表した下記の論文をご紹介します。
Canine Cognitive Dysfunction (CCD) scores correlate with amyloid beta 42 levels in dog brain tissue
(犬の認知機能不全(CCD)スコアと犬の脳組織中のアミロイドβ42レベルとの相関性)

<Abstract>

アルツハイマー病は、高齢化とともにその罹患率が上昇し、人々の健康に大きな負担を与えている。
現在のアルツハイマー病の実験モデルは、この疾患を再現するには不十分であるという認識が広まってきている。

アルツハイマー病の実験モデルには、加齢に伴いアルツハイマー病に類似した病態を自然発症しないマウスや、人間の環境にいない実験用ビーグル犬などがある。
一方、家庭犬は人間と同じ環境におり、遺伝的に異質な動物集団であるため、加齢に伴うアルツハイマー病様の病態や認知機能障害を自然発症する可能性がある。

本論文では、家庭犬の脳の3つの領域(前頭前野、側頭葉、海馬/耳介皮質)および脳脊髄液(CSF)中のアミロイドβ(Aβ42またはAβ-42)レベルを、新たに開発したLuminexアッセイを用いて定量的に測定した。

その結果、3つの脳領域すべてにおいて、Aβ42と年齢との間に有意な正の相関があることがわかった。
また、3つの脳領域すべてにおける脳内Aβ42量は、多変量解析においてCanine Cognitive Dysfunction Scale(犬の認知機能不全評価票)のスコアと相関していた。
この後者の効果は、側頭葉を除いて、年齢で補正しても有意に維持された。
CSF中のAβ42と認知機能スコアとの間に相関は認められなかったが、CSF中のAβ42と体重との間に有意な正の相関、およびCSF中のAβ42と年齢との間に有意な負の相関を認めた。

この結果は、家庭犬がアルツハイマー病のモデルとして適していることを支持するとともに、生物試料を研究者が解析できるようにするための獣医学的バイオバンキングの有用性を示している。

※www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳し、読みやすいように微修正しました。

この文献からわかること

臨床上、重要なポイントは下記になります。

■脳組織へのアミロイドβの蓄積が高いことは、犬の認知機能不全の進行度と相関がある
■脳組織へのアミロイドβの蓄積は3つの脳領域全てで生じる
■脳脊髄液のアミロイドβと認知機能スコアとの間に相関はなかった

もし今後、アミロイドβの蓄積が犬の認知機能不全の病態の1つとして証明されれば、アミロイドβの蓄積を抑えるような対策(例えば薬剤や栄養管理など)が重要になってくるかと思われました。

脳組織については、死後のみ採取することができるので、本文献の脳組織における結果は生前検査には役立ちません。
ただ、脳脊髄液(CSF)は全身麻酔をかければ採取することは可能なため、本文献でも何かしらの関連性がないか探索されたのかと思われます。

今回の結果からは、残念ながらCSFと認知機能の低下を関連付けられる結果にはならなかったようです。
今後期待されることとしては、CSF中の物質と認知機能に相関が生じるような物質の発見が待たれること、末梢血(通常の採血にて採取することができる血液)にて認知機能の低下に相関するような指標が発見されること、かと思われます。

末梢血の検査にて、犬の認知機能の低下が予測出来たり、現状の進行度を知ることができる指標が示されれば、今まで目に見えなかった認知機能の低下が「数値で測定できるようになる時代」もくるかもしれませんね。
そうすると、通常の健康診断時に「認知機能不全の検査をしましょう」と言われるようになるかもしれませんね。