「ごはんをねだる猫に夜中に起こされる」「猫が構って欲しくて鳴き続けるので仕事が全くできない」「猫がトイレにもお風呂にもついてくる」…こんなお悩みをときどき聞くことがあります。
猫が飼い主に対して要求をしたり、注意や関心をひくためにしてしまう、過剰に鳴くなどの行動は、行動学的には「関心を求める行動」という名前がついています。今回は、猫がこれらの困った行動をしてしまう場合の対処法や予防法を考えてみたいと思います。
猫の「しつこい要求」による行動の例
飼い主が困っている行動としてよく聞かれるのは、しつこく鳴いたり、うろうろ歩き回る行動が続くといったことです。他に、乗って欲しくない場所へ飛び乗る、身体をすりつける、爪を立てる、後追いする、ずっと見ている、物を盗む、物を破壊するなどの行動がみられることもあります。また、爪とぎや排泄などの行動が、飼い主の注意や関心をひくことと関連していることもあります。
猫が「しつこい要求」「注意・関心をひく行動」をするのはなぜ?
猫は言葉を使わないので、飼い主に何か伝えたいことがあれば、行動で伝えようとします。自分の周囲の環境で何か不安があったり、どのように行動すべきかわからないことがある時や、自分にとって何か足りないことがある時には、それが解消されるまでしつこく行動を続ける場合があり、それが飼い主にとっては困った行動となってしまうことがあるのです。
そのため、猫が不安になりやすかったり、欲求が満足されていなかったりする、以下のような状況の場合、これらの困った行動がよくみられます。
- 家庭内の日課の変更や引越し、家族構成の変化があった
- 飼い主が猫に対してきまぐれで一貫性のない関わり方をしている
- 困った行動に対して猫を罰している(叱る、追いかける、大きな音を出す など)
- 日常生活での活動が不足している(遊んでいない、遊ぶ時間が少ない など)
日常生活でどの程度の活動が必要かはそれぞれの猫により異なり、それぞれの猫の気質も関連しています。具体的に1日に何分間遊んであげれば良い、ということではなく、それぞれの猫に合った活動量が必要です。
元来、猫は夜明けと日没前にもっとも活動的で大運動会をすることがあり、飼い主が睡眠中に活動して飼い主を起こしてしまうという困った行動となることがあります。これについても単純に活動的になっている場合と、意図して飼い主を起こしている場合とがあり、後者の場合にはしつこい要求に関連した行動といえます。いずれの場合にも、日常生活における活動欲求が満足されているかを考える必要があります。
また、日常生活の中で猫が要求してくる行動を意図せずに強化してしまっていることがよくあります。例えば、ごはん皿の前で鳴いてみたらごはんを出してもらえた、という経験が一度でもあれば、次にお腹が空いた時にはその猫はごはん皿の前で鳴いてみるでしょう。そしてまたごはんが出してもらえた、となれば、お腹が空いたらごはん皿の前で鳴けば要求が通るとしっかりと学習され、経験が増えるごとに強化されていくのです。
これと同じように、例えば「睡眠中の飼い主の枕元で鳴けば起きてくれる」「棚の上の物を落とせば飼い主はこっちに来てくれる」なども、同じように学習・強化された行動といえます。
爪とぎやスプレーなどの排泄に関する行動も、猫が飼い主の注意・関心をひくための行動となっている場合があります。これらの行動は、もともと猫の正常な行動ではありますが、不適切な場所でやられた場合には飼い主は無視することが非常に難しいものです。そのため、猫にとってはほぼ必ず、すぐに、飼い主からの反応を引き出すことができる行動であり、強化されやすいのです。
猫の「しつこい要求」の陰に、他の病気や問題が隠れている可能性も…
猫が要求を通すためや、飼い主の注意・関心をひくためにする困った行動の陰に、実は身体的な疾患や他の行動学上の問題が隠れていることもあります。
困った行動がみられる場合には、かかりつけ動物病院で診察や検査を受けたり、行動診療を行う獣医師の診察を受けて行動学上の問題についても確認しておくとよいでしょう。
診断のためには、見守りカメラなどを使用して人間がいない場所での行動を確認することも有効です。
確認が必要な身体的・行動的問題
- 不安や疼痛が起きやすい身体疾患
- 甲状腺機能亢進症
- 関節炎
- 認知機能低下
- 脳や脊髄などの神経疾患
- 視覚・聴覚の機能障害
- 高血圧 など
- 行動学上の問題
- 分離不安
- 常同行動・常同障害
- 恐怖症、全般性不安障害
- 攻撃行動
- 不適切な場所での排泄行動
- マーキング行動 など
猫の攻撃行動や不適切な排泄行動については、以下の記事もご参照ください。
猫の粗相・トイレ問題(尿マーキング、スプレー行動、不適切な排泄行動)
猫の「しつこい要求」「注意・関心をひく行動」への対処法
①「しつこい要求」には注目しない、反応しない(行動消去法)
問題行動は、その行動を取ると猫の望むことが得られる、ということで続いていきます。逆に、その行動を取っても、猫の望むことは得られないようにすれば、その後同じ状況になってもその行動を取りにくくなります。
そこで、まず、猫がその行動を取った結果、何が起きているかを挙げてみましょう。挙げられたことは、猫が望んでいること、猫が得をしていることであるはずです。次に、猫がその行動を取っても、常に、先程挙げられたことは起こらないようにしましょう。
(例)
猫の行動
- 扉の前で鳴く
その結果起きること
- 飼い主が扉を開けることがある
- 飼い主が返事をすることがある
- 飼い主が小窓越しにこちらを見ることがある
- 飼い主が「静かにして!」と大声を出すことがある
- 飼い主が猫を追い払いに来ることがある
今後猫がその行動を取った時の対応
- 無視し、何もしない
- 扉を開けない
- 返事をしない
- 見ない
- 大声を出さない
- 追い払わない
この例からもわかる通り、目を合わせたりする些細なことや、叱るため大声を出す、猫を追い払うなど、人間からみれば嫌なことととらえることであっても、猫は自分の取った行動に飼い主が答えてくれたと認識するものなので、要求による困った行動がしつこいと感じるのであれば、それに対しては徹底的に無視し、反応しないことが大切です。
なお、問題行動を減らすために、無視・反応しないことによる対応をし始めると、急に反応がなくなったことでしばらくは猫が欲求不満を通常より強く感じてしまいます。そのため、問題行動が一時的に増えてしまう時期が必ずあるということを知っておいてください。
ただ、無視する対応をしたくても、ほとんどの飼い主にとっては難しいことです。そのため、最初は10~15分などの短時間限定で無視する時間を作るという方法もあります。この時、「今は反応しない時間」ということが物理的にはっきりわかるよう工夫するのがおすすめです。そうすることで、猫にも「今は反応してくれない時間」というルールがわかりやすくなります。
(例1)
猫の行動
- 扉の前で鳴く
ルールを示す工夫
- 扉の前に衝立を置く など
(例2)
猫の行動
- 飼い主が座っていると周囲をうろうろ歩き回る
ルールを示す工夫
- タオルやブランケットを膝の上に置く など
②猫が落ち着いている時に、関わる時間を持つ
猫が困った行動を取らず、静かに落ち着いている時に関心を向けるようにしましょう。要求の強い時にそれに応じるのではなく、遊びやごはんなど、猫と関わる時は常に、飼い主が主導で始め、飼い主が終わらせるようにしましょう。
例えば、遊びについて、猫が鳴いて要求する時ではなく、猫が落ち着いている時に呼び寄せてから遊び始め、猫が飽きてやめてしまうより先に終了します。
例えば、爪とぎでも、使って欲しい特定の爪とぎパッドで行った時にだけ優しく声をかけるようにしましょう。
③猫の欲求を満足できる環境や機会を提供する
猫にとって信頼でき、予測可能な環境を提供することが大切です。食事、遊びなどの猫との関わり合いは習慣として毎日規則正しく同じ時間帯に行うよう心がけましょう。猫が毎日の食事や遊びの時間を理解すると、それを待つようになり、その日課が完了すると満足感を得られるようになります。
「しつこい要求」「注意・関心をひく行動」が多い猫は、日常生活での活動量が不足していることが多いため、できるだけ欲求を満足させられるような遊びを提供しましょう。遊び方については、以下の記事も参考になさってください。
④薬物療法や食事などの工夫
不安に関連する他の問題行動を併発している場合には、薬物療法が必要になる場合がありますが、「しつこい要求」「注意・関心をひく行動」だけでは薬物を使用する必要はありません。
薬物に代わるものとして、気持ちを落ち着かせるフェロモンが有効である場合があります。拡散器を使用し、部屋全体に拡散させる方法がよいでしょう。
また、猫は空腹になるとこれらの困った行動を示しがちです。高品質なフードを、規則正しい間隔で、適切な量だけ与えるようにしましょう。猫は本来は、少量頻回に食事をする動物ですので、1日量をできる限り小分けにして与えるのがよいでしょう。
犬と猫の問題行動診療(犬の攻撃行動、猫の不適切排尿、咬みつきなど)
ぎふ動物行動クリニックでは、犬の攻撃行動や吠えの問題、猫の不適切排尿や咬みつき、過剰グルーミングなど、多岐にわたる問題行動について、ご相談を承っています。
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