犬の攻撃行動に対しては、正確な診断を行った後、治療として、身体疾患の治療、攻撃行動の発現の回避、犬の欲求を満たす、行動修正法、薬物療法を体系的に行っていく必要があります。
「しつけの問題」「犬が人の上に立っている」などの思い込みで接すると、より問題が悪化する可能性があります。
詳しくは、柴犬の攻撃行動の本当の原因とは!?をごらんください。
診断
柴犬の攻撃行動がある場合は、まずは正確な診断が必要です。
特に強度の攻撃行動では、てんかんが関連していることがしばしばあります。そういう症例に対してトレーニング(行動修正法)だけでは不十分な対処になり、改善しないということが考えられます。
獣医師と連携した行動の専門家や、行動学を専門とする獣医師を調べて、相談に行くのがよいでしょう。一般的な身体検査を実施するとともに、攻撃行動の発現状況などを詳細に検討するカウンセリングを行い、攻撃行動がなぜ発生しているのか(身体疾患が関わることもあります)仮説を立て、診断をすることになります。
必要に応じて、血液検査、神経学的検査、脳派検査、MRIなども必要になる場合もあります。
治療
治療① 身体疾患の治療
身体疾患のある場合は、そちらの治療を優先させます。
身体疾患は診断に対応した治療を行います。
治療② 攻撃行動の発現の回避
治療と言うよりも対処法に近いですが、まずは攻撃行動の発生を回避するために、攻撃行動が発生する状況や刺激を避けるようにします。よくありがちなのは「うちの子は撫でてあげているのに噛む」というものです。撫でるから噛まれているのにもかかわらず、撫でることをやめないために噛まれてしまうというパターンです。柴犬はそもそも触られるのが苦手な犬種ですので、触って噛む場合は触らないようにします。
お皿(フードボウル)を守る柴犬も多くいますが、その場合はお皿を置かないようにし、手からフードを与えるようにすることで、お皿を守る事を防ぐことが出来ます。
このように、攻撃行動の発生状況に合わせて、攻撃行動が発生しないように、発生する様な状況を避けていくことが大切です。
治療③ 犬の欲求を満たす
身体疾患がない場合、どんな場合でもやるべきことが、犬の欲求を満たすことです。場合によっては散歩の時間を長くしただけで、攻撃行動が問題のないレベルまで減少することもあります。よく指導するのが以下の項目です。
・散歩の増加(1日2回 1回40~60分 ※時間は場合による)
・十分な遊び(遊びが好きで安全に実施できる場合)
・安心でき落ち着ける心地よい生活環境の提供(犬や人の気配を遮る、居場所を囲うなど)
・触りすぎない、無理に触らない
・報酬を用いたトレーニングの実施
・美味しいフードの提供
・十分な水分の提供
治療④ 行動修正法
攻撃行動が特定の状況や刺激によって発生している場合は、そうした状況や刺激に対して馴らす練習をしたり、状況や刺激を回避できるようなトレーニング=行動修正法を実施します。
【行動修正法の実施例】
・手の接近への脱感作・拮抗条件付け
・ブラッシングに対する脱感作・拮抗条件付け
・首輪を持つことに対する脱感作・拮抗条件付け
・足を拭くことに対する脱感作・拮抗条件付け
・人生ただのものなどない法
・愛情遮断法
・信頼関係構築トレーニング(リラクゼーショントレーニング)
治療⑤ 薬物療法
必要に応じて薬物療法を実施します。特に激しい攻撃行動の場合、尾追いなどの常同障害が併発している場合や、全般的に小さな刺激にも過剰に反応してしまうなどの不安障害、日によって態度が変わる症例などで、身体疾患のないものについては、薬物療法を適応する場合が多いです。
・選択的セロトニン再取り込阻害薬:SSRIs(フルオキセチン等)
脳内のセロトニンの代謝を調整し、気分を安定させる作用があります
獣医動物行動診療科では、攻撃行動の治療でフルオキセチンが第一選択薬として使用されることが多いです。
作用発現は遅く数週間を要するので継続投与が必要です。
副作用として、食欲減退、鎮静、嘔吐、下痢などが報告されています。
・三環系抗うつ薬:TCAs(クロミプラミン等)
脳内のセロトニンの代謝を調整し、気分を安定させる作用があります。
作用機序としては、SSRIsと同様です。
クロミプラミンは、犬の分離不安の治療薬として認可されています。
SSRIsより安価ですが、SSRIsの副作用に加え、尿貯留・尿結石・血圧上昇などの副作用があります。
・ベンゾジアゼピン系抗不安薬:BZDs(ジアゼパム等)