犬の認知機能の評価としては、質問票による評価が行われています。犬の認知機能を評価する質問票はいくつか開発されており、犬の認知症の診断に活用されています。

 代表的なものとしては、Salvinらの犬の認知機能不全評価票(CCDR:canine cognitive dysfunction rating scale)が挙げられます。これは13項目の質問に対し、5段階評価を行い、各項目1~5点、合計16~80点で、認知機能の状態を点数で評価する事が出来ます。合計点数が0~39点で正常、40~49点で危険、50点以上で認知症の疑いとなります。表を掲載しましたので、試してみてください。

 Salvinらの犬の認知機能不全評価票は、大規模な調査結果を元に作られており、診断精度が高いのが特徴です。ただし、DISHAAの6徴候に則っているわけではなく、睡眠や不安に関連する質問項目は含まれていません。

【Salvinらの犬の認知機能不全評価票(CCDR:canine cognitive dysfunction rating scale)著者訳】

1点2点3点4点5点スコア
円を描いたり、行ったり来たりするなど、無目的に歩き回ることがありますか?1度もない月に1度週に1度1日1回1日1回以上
壁や床をぼんやり見つめていることがありますか?1度もない月に1度週に1度1日1回1日1回以上
ドアの番側や家具の隙間に入り込んで動けなくなっていることがありますか?1度もない月に1度週に1度1日1回1日1回以上
家族や親しい人、同居動物を認識できないことはありますか?1度もない月に1度週に1度1日1回1日1回以上
壁やドアにぶつかってしまうことはありますか?1度もない月に1度週に1度1日1回1日1回以上
撫でられている時にその場を離れたり、撫でられるのを避けたりすることがありますか?ほとんどない1-30%31-60%61-99%常に
6か月前に比べ、円を描いたり、行ったり来たりするなど、無目的に歩き回ることが増えましたか?明らかに減ったわずかに減った変わらないわずかに増えた明らかに増えた
6か月前に比べ、壁や床をぼんやり見つめていることが増えましたか?明らかに減ったわずかに減った変わらないわずかに増えた明らかに増えた
6か月前に比べ、トイレの失敗が増えましたか?明らかに減ったわずかに減った変わらないわずかに増えた明らかに増えた
6か月前に比べて、床に落ちた食べ物を見つけることが難しくなりましたか?明らかに容易になったわずかに容易になった変わらないわずかに難しくなった明らかに難しくなった※点数2倍
6か月前に比べて、家族や親しい人、同居動物を認識できないことが増えましたか?明らかに減ったわずかに減った変わらないわずかに増えた明らかに増えた※点数3倍
6か月前に比べて、寝ている時間、活動していない時間は増えましたか?明らかに減ったわずかに減った変わらないわずかに増えた明らかに増えた

【参考文献】https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1090023310001644

 

 フードメーカーのピュリナも独自の認知機能評価シートを作成しており、セルフチェックできるサイトを公開しています。ピュリナの認知機能評価シートは、DISHAAの各6徴候それぞれについて2~5項目、合計18項目の行動について、4段階の評価を行い、点数化します。合計0~48点で、4-15点が軽度、16‐33点が中等度、34点以上が重度と評価されます。

【参考URL】

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 これらの評価ツールは診断時にも有用ですが、治療によって症状がどの程度改善しているかについても数値化できるため、治療の評価にも有用です。治療開始の時点で、どの程度のスコアかを客観的に把握しておくことで、現在の治療が、症状の緩和に有効であるかどうか、冷静に判断できます。経時的な記録を作成することで、愛犬の現在地を把握することにも役立ちます。

 評価ツールは、犬に一切の負担をかけることなく、簡単に実施できる検査の一つです。手軽に始められますので、ちょっとでも認知症が気になるなという方は、試しに実施してもらうとよいでしょう。