できるだけ苦痛のない生活を送らせてあげたいと思うのは、どんな飼い主でも共通する気持ちだと思います。でも「苦しそう」か「苦しそうじゃない」かだけで判断するのは、主観的な評価になってしまいます。

 そこで知っておいてもらいたい概念が、動物福祉の5つの自由です。動物福祉の5つの自由とは、①飢えと渇きからの自由、②痛みと疾病からの自由、③不快な環境からの自由、④恐れと抑圧からの自由、⑤生得的な行動を表現する自由の5項目を指します。これら5つの自由が確保されている状態であれば、生活の質がある程度確保されている状態と言えます。

 ①飢えと渇きからの自由については、高齢犬で寝たきりにになってしまうと、自由に飲水出来なくなることがままあります。特に泌尿器系の疾患などがあり、脱水しやすい状態になっている犬では、頻回の飲水が必要となることもあるでしょう。寝たきりになり、自力で飲みたいのに飲めない、自由飲水できないという状態は、QOLのレベルとしてかなり低い状態と言えます。

 ②痛みと疾病からの自由については、わかりやすいと思います。痛みがある状態を放置したり、疾病があるのに治療しなかったりするのは、動物にとって大きな苦痛です。痛みの程度についても重要です。軽度の痛みであれば苦痛は小さいですが、激痛がある状態では苦痛は大きくなります。動物は話せないため、飼い主が痛みの程度を判断していく必要があります。どの程度の痛みを抱えているかという評価は簡単ではありませんが、特定の場所を触るのを嫌がる(足を引いたり、ビクッとしたりする)か、抱っこしたときに表情が変わったり嫌がったりするかどうか、寝たきりの場合だと特定の向きの体位を嫌がってバタつくかどうか、身体がこわばっているかどうかなどの行動を目安に判断していきます。落ち着いて穏やかな表情でリラックスしてねている状態なら、痛みは強くないでしょう。痛みが強く、痛みの緩和ができない状態はQOLが著しく低い状態と言えるでしょう。

 ③不快な環境からの自由は、暑い寒い、じめじめしている、床面がぬれている、寝ている床が硬い、悪臭がする、騒音がするなどの不快な環境の事を指しています。寝たきりの犬の場合、どのようなクッションで寝かせるのかによって、苦痛の程度は大きく異なります。認知症の犬では、家具の隙間に引っかかって立ち往生してしまうことがありますが、これも不快な環境の一つと言えます。また、徘徊で身体が擦れて傷になってしまうような環境も適切な環境とは言えません。

 ④恐れと抑圧からの自由については、犬に関しては、体罰を用いたしつけが問題となることが多いです。また雷や音恐怖症についても、強い恐怖を感じている状態であり、場合によっては下痢などの身体症状を呈することもあります。認知症でも不安が増大する事があります。これは、認知機能が衰えて、次に起こることが予測できなかったり、どうすればいいか分からなくなって不安が生じるためです。同時に目が見えにくくなったり、耳が聞こえにくくなったり、感覚機能も低下すると、撫でようとしただけでびっくりして咬んでしまうということも起こります。不安の程度が強ければ、震える、ウロウロするなど、落ち着かない様子がみられるようになります。そうした行動上の変化を確認して、苦痛の程度を判断していく必要があります。

 ⑤生得的な行動を表現する自由とは、犬なら犬らしく、猫なら猫らしく、その動物らしい行動をとり生活を送ることができる状態を指します。犬では、歩く、臭いを嗅ぐ、ゴハンを探す、おいかける、穴を掘る、飼い主と関わる、おもちゃで遊ぶ、寝床で休むなど、犬らしい行動を日常の中で表現できているかということを確認します。しかし、高齢犬では、身体的、認知機能的な問題で、生得的な行動を表現する自由が奪われてしまっていることも少なくありません。犬は生得的な行動が取れてこそ、心が動き、精神的充足を得られます。要介護状態になってしまうと、こうした楽しいことを経験させてあげることが難しくなります。だからこそ、できるだけ最期まで元気にいられるように、運動やケアを欠かさずに、予防に努めることが大切です。