猫も「八つ当たり」で攻撃することがあります。知らない猫が近くに来た時や、刺激のあるニオイ、音、見知らぬ人間や場所、身体のどこかに痛みがあるなど様々な理由で、猫が攻撃的な興奮状態となっている時に、たまたま近くにいた全く関係のない第三者が攻撃の標的となってしまうことがあるのです。これを、「転嫁性攻撃行動」といいます。
今回は、この「転嫁性攻撃行動」が関係していると考えられるスコティッシュフォールドの事例について、ご紹介します。
ご相談の主旨
- ご家族への攻撃行動について、ご相談いただきました。
基本の情報
- 猫種:スコティッシュフォールド
- 年齢:2歳7か月
- 性別:オス、去勢済み
- 飼い主さんは、ご夫婦お二人家族
- 生活環境
- 住居の形態:一軒家
- 普段は、ケージの中
- 以前は1階を自由にしていた
- 攻撃的になってからはケージ内のみ
- 生活習慣
- ごはん:1日2回ドライとウェット
- おやつ:ちゅーるが好き
- くつろいでいる時、爪切りやお風呂の後
- 今は1日2本、トイレ掃除などの際にあげている
- 遊び:現在は、遊びで気をひきながらケージ内を掃除する程度
- 少し前に、1時間くらいケージ外で遊ぶ時間を取ってその間にケージ内を掃除している時もあり、1か月程度はうまくいっていた
- その他の情報
- 2023年2月頃から、リビングの窓の外に他所の猫が来ているのが週1~2回目撃されていた。猫は外の猫に対して興奮して耳を寝かせていた。
- 外の猫に対する対策
- 猫の忌避剤、センサーカメラ、など
- シャッターを閉めた
【咬みつき】攻撃行動の経歴
- [2023年6月6日]
- 朝、お母さんがキッチンにいたときに猫がキッチンカウンターに乗ってきたが、すでに尻尾が膨らんでいた
- それ以前も遊んで興奮した後などに尾が膨らむことはあったが、すぐ元に戻っていた
- おしりぽんぽんしたら目が合って威嚇し(シャー)、唸りだした。
- おしりぽんぽんは好きでいつもしていたが、この時は体の緊張がいつもと違った
- お母さんがシャーを見たのはこの時が初めて
- お母さんが声をかけてなだめると、もっと大きい声で唸り、向かってきたため、脱衣室~お風呂場まで逃げ、扉を閉めた。
- 扉越しに唸りながら体当たりし、落ち着いたころに隙間から様子を伺って目が合うとまた興奮した。
- 20分ほど経って覗いてみるともとの状態に戻っていた(喉を鳴らしてすりすり)。その後は通常通りに過ごすことが出来た。
- 翌日は、一度目つきが変わることがあったが、目を合わせず動かないようにしたところ目つきが戻り、普通に過ごすことができた。
- 朝、お母さんがキッチンにいたときに猫がキッチンカウンターに乗ってきたが、すでに尻尾が膨らんでいた
- [2023年6月8日]
- 夜10時頃、お母さんがキッチンに行くと猫が様子を伺いに来たため、目を合わせず動かないように対応したが、唸りだした。
- そのまま動かないようにしていたが飛びついてきて太ももとおしりを咬まれた。
- お風呂場に逃げ、落ち着くのを待ったが、前回より長時間興奮状態が続いたため、掃除用のスポンジ棒を持ってお風呂場を出て、なんとかリビングに戻り、その後お母さんは2階で寝た。
- ペットカメラで何度か確認したところ、猫はあまり寝ていない様子だった。
- 翌朝もお母さんと目が合うと興奮状態になった。
- [2023年8月11日]
- お父さんが帰国し、猫をケージから出してリビングでくつろいでいた。
- お母さんが帰宅後、お父さんが猫を抱っこし、お母さんに近づけたところ、シャーと言い、唸りだした。
- それに対してお父さんがコラ!と叱り、ケージに戻した。
- 翌朝も、お父さんが猫をケージから出して遊んでいたところにお母さんが起きてきた時、同様のことがあった。
- この時はお父さんが叱った後興奮がエスカレートし、便や尿を漏らした。
- 最近の攻撃について
- ケージの中での威嚇について
- 少し前までは、ケージの中ではいつも落ち着いており、威嚇することもなかった
- 今はケージの中でも威嚇したり怒ったりする
- ゴロゴロすりすりして一周回ってシャーしてまたゴロゴロすりすりしたりする
- ケージ内でちゅーるを絞りだしながらあげようとしたら攻撃された
- お母さんに対してとお父さんに対しては顔つきが違う
- お母さんに対してはスイッチが入って攻撃し、言葉をかけられてもエスカレートする感じ、向かってくる、5分他の部屋に行って戻ってくると落ち着いている
- お父さんに対しては怖がっている感じ、優しく声をかけると落ち着くことがある
- 先週ケージから出してみたらお父さんが咬まれた
- 以前は、シャー→咬むの順番だったが、今は咬む→シャー→唸るの順番
- 攻撃のきっかけになりやすいもの
- お母さん
- キッチン
- 最近はお父さん
- ケージの中での威嚇について
診断とお話し
- 診断:転嫁性攻撃行動、恐怖性/防御性攻撃行動
- 当初、猫がお母さんを攻撃したきっかけは、はっきりと確定はできないものの、ご自宅周辺の環境や目撃情報から考えて、外に猫などの動物を発見して興奮していた時にちょうどお母さんと接触したことによる転嫁性の攻撃行動(八つ当たり)と考えられます。その時の経験から、当初の攻撃対象(外の猫など)からお母さんへ対象がすり替わってしまい、攻撃が繰り返されたものと考えられます。
- お父さんに対する攻撃については、信頼しているお父さんに叱られてしまったことで、怖いという気持ちも生まれてしまったことから、そばに行きたい気持ちもあるけれど、お父さんのちょっとした動きなどを怖いと感じて攻撃に転じてしまうと考えられます。そのため、お父さんから見ると「なぜ今攻撃するのかわからない」という状況になっているのだと思います。
- 攻撃することにより、怖い場面を回避できたという経験をした猫は、次に同じ状況になった時にまた攻撃することを選びます。こうして経験を積み重ねる度に、その攻撃行動が強化されていくため、まず今すぐに必要な対策は「攻撃させる状況を作らないこと」です。
- 直接のきっかけは上記のとおりですが、問題行動の発生や悪化には、日常生活や環境におけるストレスや生得的な要因も大きいと考えられます。攻撃させない対策とともに、ストレスをできるだけ減らす対策も重要です。
具体的な対応策
- 攻撃させる状況を作らない
- ご家族との不用意な接触を避けるため、当面はケージでの生活とし、最低限のお世話のみの接触とする
- ちゅーるはお皿であげる
- 当面はみつめることはしない
- 外の猫に対して脅威を感じないよう対策しておく
- はきだし窓の下の方に目隠しシートを貼る
- ケージかキャットタワーを窓際に置く
- バックグラウンドストレスを減らす
- 遊ぶ機会を増やす
- 短時間で良いので1日複数回できるとよい
- 今は、ケージの中で遊ばせる
- 後々、ケージから出て遊ぶ時間を設ける
- ケージの中でのシャーがなくなってきてから検討
- 遊ぶ機会を増やす
薬物療法について
- 不安軽減のため、フルオキセチンを使用していく
- 食欲不振、下痢、眠くなるなどの副作用が出る可能性あり
- 効果が安定するまで3~4週間かかる
犬と猫の問題行動診療(犬の攻撃行動、猫の不適切排尿、咬みつきなど)
ぎふ動物行動クリニックでは、犬の攻撃行動や吠えの問題、猫の不適切排尿や咬みつき、過剰グルーミングなど、多岐にわたる問題行動について、ご相談を承っています。
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