ご相談の主旨
- ご家族への攻撃行動についてご相談いただきました。
基本の情報
- 猫種:サイベリアン
- 年齢:3歳5か月
- 性別:去勢オス
- 飼い主さんはご夫婦と娘さん(1歳)の3人家族
- ペルシャ(去勢オス、3歳)の同居猫あり
- 元気・食欲あり
- 膀胱炎の既往歴あり
- 今まで2~3回あり
- 現在も療法食を継続している
生活環境
- 一戸建て住宅に居住、攻撃行動がひどくなってからは、猫(サイベリアン)は2階の寝室で過ごしている
- 以前は、同居猫と交代でケージに入るようにして基本的には室内を自由にしていた(どちらかがケージに入っていればケンカしないため)
- トイレは1階に2個、2階に1個、香り付きの紙砂を使っているが、猫(サイベリアン)がトイレを使った後に、同居猫(ペルシャ)がトイレ以外のところで排泄してしまうことがある
生活習慣
- ごはんは1日2回ドライフード(現在は寝室にて、お母さんがあげる)
- おやつはちゅーるやドライのおやつをときどきあげる
- 寝るときは寝室でお父さんと一緒に寝る(お子さんが生まれてからは、お母さんがお子さんと寝るため別室)
- 段ボールタイプで床置きの爪とぎを何か所か設置していて、そこで爪とぎをしている
- 寝室にいるようになってから、ときどき鳴いて呼ぶので、お父さんが行っておもちゃで遊ばせるようにしている(15分程度)
攻撃行動(咬みつき・引っかき)の発生状況
- [2023年2月中旬]初めての攻撃が発生
- 妻が室内に洗濯物を干している時に、床に寝ていた猫の尾を踏んでしまい、大きな声を出した。
- その声に反応し、同居猫が威嚇するように鳴いたため、猫が怒った様子になった。
- いつもは寝室にしばらく隔離すると落ち着くため、妻が猫を寝室に誘導しようとしたら、飛びかかってきて手を攻撃した。
- 夫が猫を寝室に誘導し、しばらく隔離して落ち着かせた。
- 落ち着いた後は、いつもと同じ様子に戻り、甘えたりしてくる。
- [2023年2月末~3月初め]
- 夜、リビングのソファで妻がテレビを観ていたところ、猫が近寄ってきて手を舐めた。
- 妻は特に何もしていないが、急に猫の瞳孔が開いて唸り始め、怒った様子になった。
- 攻撃されると感じたため、手元にあったブランケットを猫に被せ、妻は洗面所に避難した。
- しばらくして落ち着くと、その後はいつもと同じ様子に戻った。
- [2023年4月5日]
- リビングで猫が自由にしていて、窓から外を眺めていた時、妻がダイニングテーブルに向かって椅子に座り、電話をしていた。
- 猫が急に飛びかかってきて足を攻撃された。
- リビングのケージに入っていた同居猫がそれに対して威嚇する声を出したため、更に興奮してもう一度飛びかかってきて攻撃された。
- 夫が猫を寝室に誘導し、しばらく隔離して落ち着かせた。
- 落ち着いた後は、いつもと同じ様子に戻り、甘えたりしてくる。
- [2023年5月15日]
- 猫と夫が寝室で一緒に寝ていた。
- 深夜、夫の足に甘噛みをしてきたのを夫が振り払った。特に強い力ではない。
- 猫が急に大声をあげて夫の手を攻撃してきた。
- 夫は血だらけになって1階へ降り、猫はそのまま寝室にいた。
- この時の傷はひどかったため、夫はその後病院に行った。
- しばらくして寝室に妻が様子を見に行き、床に落ちていた毛布をベッドに戻した時も、また威嚇する様子だったため、その後もしばらく寝室で落ち着かせた。
- 攻撃は、咬みつく、引っ掻く両方あるが、引っ掻く割合のほうが多い。
これまでの対応・相談
- 猫同士の仲が悪くなった時に、かかりつけ動物病院の獣医師に相談
- 猫同士の仲は修復できないことが多いため、交互にケージに入れて隔離する方法を続けるようアドバイスを受けた
- 初めて攻撃が発生した後に、かかりつけ動物病院の獣医師に相談
- ジルケーンを処方され、10日間程度内服
- 効果は不明
その他の情報(同居猫同士の関係など)
- 猫の性格について
- 幼少期から臆病な性格。来客などがあれば隠れて出てこない。
- 同居猫と猫の関係について
- 前の家に住んでいる時に、同居猫を迎え、数か月遅れて猫を迎えた。当初は2匹はどちらかというと仲が良く、問題は全くなかった。
- [2021年2月]新居へ引っ越した
- これを境に、同居猫と猫がケンカするようになった。
- 爪や牙で攻撃しあうわけではなく、声だけで威嚇しあう。
- [2021年5~6月]同居猫と猫を隔離
- どちらかをケージに入れて、どちらかを部屋にフリーにするという形で隔離を始めた
- フェリウェイスプレーも使用してみた。寝床などに吹きかけて使った。効果は不明。
- 猫とお子さんの関係について
- [2021年11月]お子さんが生まれた
- お子さんが同じ部屋にいると、猫は近寄って来ない。
- お子さんに対して威嚇などは特にしない。
- [2021年11月]お子さんが生まれた
お話し
- 診断名:恐怖性/防御性攻撃行動、葛藤性攻撃行動
- 攻撃が発生し始めたきっかけは、お母さんがしっぽを踏んでしまったことで、その時の恐怖体験によって、お母さん自体が怖い対象になってしまっていると考えられます。
- 基本的には信頼しているお母さんに対して、怖いという気持ちも生まれてしまったことから、そばに行きたくて近づいたけれど、お母さんのちょっとした動きや声を怖いと感じて攻撃に転じてしまうと考えられます。そのため、お母さんから見ると「近づいて来たのに急に攻撃され、なぜかわからない」という状況になっているのだと思います。
- 攻撃することにより、怖い場面を回避できたという経験をした猫は、次に同じ状況になった時にまた攻撃することを選びます。こうして経験を積み重ねる度に、その攻撃行動が強化されていくため、まず今すぐに必要な対策は「攻撃させる状況を作らないこと」です。
- お父さんが攻撃された場面は、就寝中でありはっきりとしたきっかけはわかりづらいですが、恐怖を感じたというよりは、何か「そうされたくない」「嫌だ」と感じることがあり、葛藤を生じた結果かもしれません。今まで攻撃されたことのない場面で攻撃が発生していることから、攻撃行動により解決するということが強化された結果である可能性が高いです。
- 直接のきっかけは上記のとおりですが、問題行動の発生には、それ以前の日常生活や環境におけるストレスや生得的な要因も大きいと考えられます。日常生活や環境の中のストレスをできるだけ減らす対策も重要です。
- 考えられる要因
- 猫種とも関連した警戒心の強い生得的な気質
- 環境の変化が重なったこと
- 引越し
- 家族構成の変化(お子さんが生まれたこと)
- 同居猫との関係悪化
- お子さんの存在
- 同居猫とは以前は仲が良かったことから、長く時間をかければ、だんだん関係が改善してくる可能性もあります。今後、攻撃行動が落ち着いてきてから、関係改善策も考えていけたらと思います。
具体的な対応策
- 記録をつける
- 唸る、攻撃的な表情やボディランゲージが出る、咬む、引っ掻くなどがあった時
- 日時、内容、直前の状況、その後どうなったか、どう対応したかについて記録しておく
- 後日、記録を見返して検証することで、今まで気づかなかったきっかけとなる状況がわかることもある
- 攻撃させる状況を作らない
- お母さんとの不用意な接触を避けるため、当面は寝室にいてもらう
- 寝室にケージを設置し、当面は寝る時はケージに入ってもらう
- 電話をかける時は別室で
- その他、記録をつけてみて気づいたきっかけがあれば、それも避ける
- バックグラウンドストレスを減らす
- 寝室の環境エンリッチメント
- 当面、寝室だけの生活になってしまうので、より快適に暮らせるようにする
- 窓から外を眺めやすいよう、窓際にキャットタワーを追加
- 隠れたり、ゆっくり休める場所が多数あるとよい
- 上下運動もできるよう、設備を工夫するとよい
- 遊びの改善
- 内容を充実させる
- 猫の捕食行動を再現できる遊び内容にしてみる
- おもちゃを追う→捕まえるを何度かやった後、最後はフードを投げて遊ぶなど、少量何か食べて終了
- ごはん前に少し遊んでから、ごはんを食べる
- お皿を使わず、知育トイでごはんを食べる
- おもちゃは種類をたくさん用意して、試してみる
- 猫の捕食行動を再現できる遊び内容にしてみる
- 遊ぶ機会を増やす
- 1度に長時間遊ぶよりも、ちょこちょこ何回も、充実した遊びができる機会を作る
- 内容を充実させる
- 猫トイレの改善
- (当面は猫はリビングに来ない予定ではあるが)同居猫が猫トイレ以外で排泄することがあることから、トイレの数が足りていないので、増やす
- トイレ砂を香りのないものに変えてみる
- その他、トイレのサイズを大きくするなどの工夫もよい
- 爪とぎ板の交換頻度を上げる
- 寝室の環境エンリッチメント
- お母さんとの信頼関係を再構築する
- 当面は、攻撃されないよう、接触を控えるのが大切
- 確実に安全が確保できる接触から始める
- 知育トイで遊ばせるなど、大きな動きを必要としない接触
- 薬物療法
- 不安軽減のため、フルオキセチンを使用していきましょう。
- 食欲不振、下痢、眠くなるなどの副作用が出る可能性があります。
- 効果があらわれるまで3~4週間かかります。