噛みつきをやめさせるには

噛みつきに困られてる方に第一にお伝えしたいのが、噛まれた後にどう叱るか、どうやめさせるかということを考えているのだとしたら、既に後手に回っているということです。噛みつきは、いかに予防的に発生させないようにするかということが何より大切です。

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当WEBサイトは、岐阜県岐阜市で行動診療を行っている、ぎふ動物行動クリニックが運営しています。当クリニックの院長奥田は、2017年に日本で8人目となる獣医行動診療科認定医を取得しています。

犬の咬みグセ解決塾も是非ご一読ください。

適切な治療を行えば、多くの症例で症状が緩和されます。症状が悪化する前に、行動診療を行っている獣医師にご相談にお越しください。わからないこと、不安なことがあれば、当院にお気軽にお問合せください。

(ぎふ動物行動クリニック 獣医行動診療科認定医 奥田順之)

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対応を取る前に-知っておきたいこと-

犬が飼い主に噛む行動=攻撃行動は、家族や周囲への危険を伴う行動であると同時に、繰り返すことで行動が強化され定着しやすい行動である。悪化すれば、所有権放棄の原因ともなりうるため、犬自身の生命にも危険が及ぶ。

初期対応では、まずは家族や周囲が攻撃されない状況を作ることを最優先し、生活環境を変えるといった、犬に直接アプローチせずにできる安全確保に努める必要がある。例えば家、犬の生活空間と家族の導線に障壁を設けたり、リードを装着したままにすることで着脱の必要性をなくすなど、具体的に家族が噛まれないために、今すぐできることを実施する。

安全確保が大切な理由は、これ以上攻撃行動を繰り返させ、噛みつきを定着させないためである。犬は、噛めば噛むほど、噛みやすくなる。攻撃行動を繰り返せばそれだけ定着してしまうのである。

犬が噛むという行動は、人にとっては困った行動であり神経を使う行動であるが、噛むこと自体は、異常行動ではなく、まったくの正常行動である。自分の身を守るため、あるいは、大切にしている資源や空間を守るための防衛的な攻撃の発生頻度が高いが、捕食行動としての攻撃も発生することがある。また子犬では、遊びに関連した攻撃行動の発生も多い。しかし、中には、身体的な異常を主たる原因として攻撃行動が発生したり、攻撃行動の増悪因子になっていたりする場合もあるため、留意が必要である。

犬が攻撃するにあたっては、物を奪われたくない、心地よい寝床を奪われたくない、触られたくないといった、攻撃の動機づけが存在する。この動機づけに目を向けずに、一方的に犬の攻撃を抑え込もうとしても、治療効果を上げることはできない。犬が攻撃する必要性を感じない生活環境や家族との関わりを提供するという方向性で治療にあたらなければならない。

攻撃行動は、犬だけでは発生しない。攻撃する対象がいて初めて成立する行動である。そして、攻撃対象となっている人や動物との関わり合いの中で、犬が攻撃の必要性を感じ攻撃している。飼い主に対する攻撃では、飼い主の犬に対する何らかの行動や複数の行動の積み重ねが、攻撃行動を発生させる原因となっている。そのため、犬の行動だけに注目していていては、効果的な治療を行うことはできない。飼い主の行動に目を向け、飼い主のどのような関わり合いが攻撃行動の原因を作り出しているのか推測していく必要がある。

具体的な対処方法

具体的な治療方法は、攻撃行動の動機づけ、発生前後の状況、攻撃対象、攻撃の頻度と程度などによってケースバイケースである。また、ここでは、当座の対処方法のみを紹介している。根本的な解決のためには、専門家に相談し、細かな治療計画を練らなければならない。ここでは大まかに共通する対処方法と、少し踏み込んだ治療方法の概略について紹介する。

1.安全確保の必要性の理解

攻撃行動の治療の場面では、さらなる攻撃行動を発生させないことが何より優先される。それは、人の安全を守るためであり、攻撃行動を定着させないためである。繰り返された攻撃行動ほど改善が難しい。安全確保は、人の安全のためだけでなく、学習を防ぐために第一に取り組まなければならない。
安全確保のために、ハウスに入れる、リードを着けっぱなしにするといった対策が必要となる場合、飼い主は「犬がかわいそうでできない」と感じるかもしれない。もちろんその気持ちも大切だが、人が噛まれない状況を作ることが、関係を改善していくスタートラインになる。まずは噛まれないということの優先順位が高いということを説明し、納得してもらう必要があるだろう。安全確保は、治療の成否を分けるポイントになるため、しっかりと納得し、対策を進める必要がある。

2.生活環境の設定

攻撃行動が発生している状況を分析し、どのような生活環境であれば攻撃が発生しにくいか検討する。
例えば、犬がリビングで寝そべっている時に、家族がリビングに入ってくると吠えかかり噛みつくというような状況の場合、犬がリビングで自由にしていることはリスクを高める。サークルを準備し、ハウストレーニングを行うことで、犬がその中で落ち着いていられるようにできれば、攻撃行動の発生リスクは減る。屋外で係留していて来客に攻撃的になる場合、係留場所を変える、あるいは、安全な室内に移す。このような、人と犬の生活環境・行動範囲のデザインを行うことで、噛まれる可能性はかなり下がる。

3.きっかけとなる刺激の排除

攻撃行動のきっかけとなっている刺激を与えないようにすることで、攻撃行動の発生を減らすことができる。
例えば、ケージの前を通ると唸るという場合には、ケージの位置を変える、ケージに目隠しをする、人の動線との間に障壁を設けるなどの方法で、きっかけを排除できる。リードの着脱をきっかけとして噛む場合は、リードを着けっぱなしにすることで、きっかけを排除できる。夜の時間帯にソファで寝ている犬を触ろうとすると噛むという場合には、夜の時間帯になる前に、ハウスに入れることでその状況を回避できる。

4.動物福祉の状態の向上

一般に、犬の欲求が十分に満たされていない状況だと、犬は興奮しやすくなったり、刺激に対する反応が過度になったり、異常行動を示しやすくなる。食餌の内容、散歩の状況、普段の生活場所や寝床の状況、身体的異常の状況、体罰的なしつけなど恐怖や抑圧を与えるような関りがないかなど、動物福祉の状況を確認し、適切な状況になるように指導する。

5.犬のボディランゲージの理解

飼い主が犬のボディランゲージを理解できないと、犬に余計なストレスをかけ、関係を悪化させてしまう。また、攻撃行動の前兆をとらえることができず、攻撃行動を発生させるリスクが高まる。飼い主がボディランゲージを理解できるようになれば、犬が噛むという行動をとる前に、それに気づき、回避したり原因を取り除くことができるだろう。

6.飼い主との信頼関係再構築トレーニング

飼い主との信頼関係を再構築していくために、報酬を用いた、簡単なトレーニングに取り組んでいく。オスワリ・フセ・マテといった、初歩的な項目を中心に実施する。嗜好性の高いオヤツを用意する(適切な報酬を用意する)、犬がやる気を見せない時は練習に取り組まない、犬が容易に成功できて報酬をもらえる項目に取り組む、といった犬のモチベーションを高める工夫も必要である。
信頼関係再構築トレーニングは、一朝一夕にできることではない。行動学を学んだトレーナーやなど適切な専門家のサポートを受けるようにしたい。

7.その他の行動修正法(脱感作・拮抗条件づけ等)

飼い主とのトレーニングが進んだ上で、攻撃行動のきっかけになる刺激に対する脱感作・拮抗条件づけや、オペラント条件付けを用いた行動修正法(代替行動置換法等)を行う。こうした細かい行動修正(トレーニング)のプログラムは、一般の飼い主では、対応として行うことは難しいだろう。臨床行動学を学んだ獣医師や、しっかりと研鑽を積んでいるトレーナーなど、各地域の適切な専門家のサポートを受けるようにしたい。

8.薬物療法

薬物療法は、あくまでも環境修正・行動修正の補助であり、薬物療法だけで攻撃行動を制御できると考えてはならない。恐怖・不安・衝動性の高さが要因となって、攻撃行動が発生している場合は、薬物療法を実施することで、攻撃行動の発生のリスクを下げたり、行動修正が進みやすい状況にしたりすることができる。
薬物療法は、攻撃行動の発生要因に加え、飼い主の意向、攻撃行動の発生頻度や攻撃の程度が高いかどうか、家族に高齢者や乳幼児がいるかどうかといった要素を勘案して、実施の有無を検討すべきである。
日本国内で主に使用されている、選択的セロトニン再取り込み阻害薬と三環系抗うつ薬は、神経細胞内へのセロトニン再取り込みを阻害することで、セロトニン代謝を調節する。効果発現には数週間を要する。

本質的な治療方法

犬が噛む行動が起きないようにするための根本的な治療方法は、どのような原因によって噛みつきが起こっているかによります。しかし、飼い主に噛む多くのケースでは、飼い主との関係に対して、不安や苛立ちを感じていることが多くあります。

例えば、飼い主が常に犬のことを撫でている場合、飼い主が犬に対してはっきりとした態度を示せない場合、犬は飼い主の態度に対して安心感を得ることができず、飼い主との接触の中に、苛立ちや葛藤を生むようになります。それによって、撫でられることを嫌がるようになったり、飼い主の動きに対して(次にどんな変なことが起こるかわからず)不安を感じるようになることがあります。

あるいは、自分の主張を曲げたくないという性格の犬では、自分が大切にしている資源が奪われそうな場面で攻撃的になる事があります。ソファの上に寝ている時に近くに行くと唸る・咬むといった事例はこれにあたります。ケージを守る、フードを守るという行動も同じです。

その上で、攻撃することで飼い主を思い通りに動かせたという経験をすると、自分の思い通りにしようとして攻撃するということもあります。そもそも思い通りにしようとするのは、犬自身が守りたい資源があるということ(リラックスできる寝床やフードや)もあるし、特定の家族との距離を奪われたくないという場合もあるし、逆に特定の家族が歩く事に対して不快感を感じて、それを制御しようとして攻撃するということもあります。特定の家族が立ち上がって部屋から出ていこうとすると吠える・噛むという場合、その家族に対して何らかの不快感・不安感があり、動くことを制限しようとして攻撃しているかもしれません。

いずれにしても、根本的な原因はそうした部分にあるため、犬だけを直そうとしてもうまく行きません。原因の仮説を立て、原因となっている家族側の行動をどう変化させていくか、生活環境をどう変化させていくかということが大切になってきます。
本当に攻撃行動に悩んでいる方は、できるだけ早く、獣医行動診療科をはじめとした、適切な専門家に相談してください。

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