本気噛みは、犬歯が刺さり出血を伴う怪我になる場合も。安全対策を最優先しましょう。生活空間を隔て、犬と一定の距離をとった生活を。身体疾患の除外、状況に応じ、薬物療法の適用も検討すべきです。本記事では、今すぐ行える対処法を解説します。
本気噛みをやめさせるには
噛みつきに困られてる方に第一にお伝えしたいのが、噛まれた後に「どう叱るか」ではなく、噛みつきを、いかに「予防的に」「発生させないようにするか」ということです。
緊急相談の受付について
攻撃行動が強すぎて、触れない、近づけないといった相談もお受けしております。しつけの範疇でのな改善法に限らず、薬物療法や、預かりを含め、様々な解決策を一時的な預かりも含めて、どうにかする方法をご提案いたします。
飼育放棄/安楽殺を検討するまで追い詰められている飼い主様からも相談いただいております。
一人で悩まず、私共にご相談ください。
(ぎふ動物行動クリニック 獣医行動診療科認定医 奥田順之)
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お問い合わせ本気噛みは、「しつけ」ではなく、「治療」
犬が飼い主に噛む行動=攻撃行動は、家族や周囲への危険を伴う行動であると同時に、繰り返すことで行動が強化され定着しやすい行動です。
悪化すれば、飼い主さんや家族の身体の危険だけでなく、精神的にも追いつめてしまうことになります。また、繰り返せば、所有権放棄の原因ともなり得ます。
血が出る程の本気噛みは、しつけで直そうという考えは禁物です。特に、素人である家族だけで、ネットの情報を信じて対処すると、悪化する危険性が高いです。ネットでは一般論しか語れませんが、実際は個別個別のケースで原因が異なり、対応法も異なります。
血が出る・犬歯が刺さる・縫うような怪我になっている場合は、「治療」の領域に入っており、獣医師(行動診療科)による、診断・治療を行うべきであると心得てください。
獣医行動診療科のリスト
獣医行動診療科認定医紹介 | 日本獣医動物行動研究会
獣医行動診療科認定医とは 獣医動物行動学(動物行動学および臨床行動学)に精通し,行動診療を行うために必要な専門知識と技術,十分な診療経験を有しており,獣医行…
オンライン行動カウンセリングのご案内
当院では、社会情勢を踏まえ、オンラインでの行動カウンセリングを実施しております。適切な治療を行えば、多くの症例で症状が緩和されます。オンライン行動カウンセリングの詳細はこちら。
第一に安全確保、人の身体と心の安全を守る
初期対応では、「犬が噛まなくなること」を目指すというよりは、「犬に噛まれない生活を送ること」に焦点を置きます。家族や周囲が攻撃されない状況を作ることを最優先し、生活環境を変えるといった、犬に直接アプローチせずにできる安全確保に努める必要があります。
例えば犬の生活空間と家族の導線に障壁(パーテーション)を設けたり、リードを装着したままにすることで着脱の必要性をなくすなど、具体的に家族が噛まれないために、今すぐできることを実施していきます。
攻撃行動を繰り返させないこと
安全確保が大切な理由は、これ以上攻撃行動を繰り返させ、噛みつきを定着させないためです。犬は、噛めば噛むほど、噛みやすくなります。攻撃行動を繰り返せばそれだけ定着してしまいます。
犬も噛む行動をとっているということは、それだけ追いつめられているといえます。何度も追いつめられ、噛みついている状態というのは、非常にストレスの高い状態です。噛みつきをやめさせるには、犬をストレスから解放することも必要です。
長期間、噛みつきを発生させないようにすることは、犬のストレスを和らげ、結果として攻撃が発生しにくい状況を作ることにつながります。
犬が本気噛みをするの原因(犬が飼い主を噛む理由)を知る
犬が本気噛みをする理由・原因は、個別個別のケースで異なります。原因がわからない状態では、「当座の対応」をとることができても、「根本的な対応」はできません。
原因を見極めるにはこちらの記事をご参照ください。
犬が飼い主を噛む理由|「本気噛み」のしつけと治療・ぎふ動物行動クリニック
【獣医師解説】犬が飼い主を噛む理由は、防衛的な原因だけでなく、身体の疾患や、脳機能の異常で発生することがあります。適切な診断と治療を行うことが最善です。
本記事では、個別の対応というよりは、一般的に少なくともこれだけは行うべきという対処法について解説しています。
犬だけを変えるのではなく、飼い主も一緒に変わる!
攻撃行動は、犬だけでは発生しません。攻撃する対象がいて初めて攻撃行動は発生します。
そして、攻撃対象となっている人や動物との関わり合いの中で、犬が攻撃の必要性を感じ攻撃しているわけです。飼い主に対する攻撃では、飼い主の犬に対する何らかの行動や複数の行動の積み重ねが、攻撃行動を発生させる原因となっています。
そのため、犬の行動だけに注目していていては、効果的な治療を行うことはできません。飼い主の行動に目を向け、飼い主のどのような関わり合いが攻撃行動の原因を作り出しているのか推測していく必要があります。
犬だけを変えようとするのではなく、飼い主が変わることが重要です。
具体的な対処方法8選
具体的な治療方法は、攻撃行動の動機づけ、発生前後の状況、攻撃対象、攻撃の頻度と程度などによってケースバイケースです。また、ここでは、当座の対処方法のみを紹介しています。
根本的な解決のためには、専門家に相談し、細かな治療計画を練らなければなりません。ここでは大まかに共通する対処方法と、少し踏み込んだ治療方法の概略について紹介します。
1.安全確保の必要性の理解
攻撃行動の治療の場面では、さらなる攻撃行動を発生させないことが何より優先される。それは、人の安全を守るためであり、攻撃行動を定着させないためである。繰り返された攻撃行動ほど改善が難しい。安全確保は、人の安全のためだけでなく、学習を防ぐために第一に取り組まなければならない。
安全確保のために、ハウスに入れる、リードを着けっぱなしにするといった対策が必要となる場合、飼い主は「犬がかわいそうでできない」と感じるかもしれない。もちろんその気持ちも大切だが、人が噛まれない状況を作ることが、関係を改善していくスタートラインになる。まずは噛まれないということの優先順位が高いということを説明し、納得してもらう必要があるだろう。安全確保は、治療の成否を分けるポイントになるため、しっかりと納得し、対策を進める必要がある。
2.生活環境の設定
攻撃行動が発生している状況を分析し、どのような生活環境であれば攻撃が発生しにくいか検討する。
例えば、犬がリビングで寝そべっている時に、家族がリビングに入ってくると吠えかかり噛みつくというような状況の場合、犬がリビングで自由にしていることはリスクを高める。サークルを準備し、ハウストレーニングを行うことで、犬がその中で落ち着いていられるようにできれば、攻撃行動の発生リスクは減る。屋外で係留していて来客に攻撃的になる場合、係留場所を変える、あるいは、安全な室内に移す。このような、人と犬の生活環境・行動範囲のデザインを行うことで、噛まれる可能性はかなり下がる。
3.きっかけとなる刺激の排除
攻撃行動のきっかけとなっている刺激を与えないようにすることで、攻撃行動の発生を減らすことができる。
例えば、ケージの前を通ると唸るという場合には、ケージの位置を変える、ケージに目隠しをする、人の動線との間に障壁を設けるなどの方法で、きっかけを排除できる。リードの着脱をきっかけとして噛む場合は、リードを着けっぱなしにすることで、きっかけを排除できる。夜の時間帯にソファで寝ている犬を触ろうとすると噛むという場合には、夜の時間帯になる前に、ハウスに入れることでその状況を回避できる。
4.動物福祉の状態の向上
一般に、犬の欲求が十分に満たされていない状況だと、犬は興奮しやすくなったり、刺激に対する反応が過度になったり、異常行動を示しやすくなる。食餌の内容、散歩の状況、普段の生活場所や寝床の状況、身体的異常の状況、体罰的なしつけなど恐怖や抑圧を与えるような関りがないかなど、動物福祉の状況を確認し、適切な状況になるように指導する。
5.犬のボディランゲージの理解
飼い主が犬のボディランゲージを理解できないと、犬に余計なストレスをかけ、関係を悪化させてしまう。また、攻撃行動の前兆をとらえることができず、攻撃行動を発生させるリスクが高まる。飼い主がボディランゲージを理解できるようになれば、犬が噛むという行動をとる前に、それに気づき、回避したり原因を取り除くことができるだろう。
6.飼い主との信頼関係再構築トレーニング
飼い主との信頼関係を再構築していくために、報酬を用いた、簡単なトレーニングに取り組んでいく。オスワリ・フセ・マテといった、初歩的な項目を中心に実施する。嗜好性の高いオヤツを用意する(適切な報酬を用意する)、犬がやる気を見せない時は練習に取り組まない、犬が容易に成功できて報酬をもらえる項目に取り組む、といった犬のモチベーションを高める工夫も必要である。
信頼関係再構築トレーニングは、一朝一夕にできることではない。行動学を学んだトレーナーやなど適切な専門家のサポートを受けるようにしたい。
7.その他の行動修正法(脱感作・拮抗条件づけ等)
飼い主とのトレーニングが進んだ上で、攻撃行動のきっかけになる刺激に対する脱感作・拮抗条件づけや、オペラント条件付けを用いた行動修正法(代替行動置換法等)を行う。こうした細かい行動修正(トレーニング)のプログラムは、一般の飼い主では、対応として行うことは難しいだろう。臨床行動学を学んだ獣医師や、しっかりと研鑽を積んでいるトレーナーなど、各地域の適切な専門家のサポートを受けるようにしたい。
8.薬物療法
薬物療法は、あくまでも環境修正・行動修正の補助であり、薬物療法だけで攻撃行動を制御できると考えてはならない。恐怖・不安・衝動性の高さが要因となって、攻撃行動が発生している場合は、薬物療法を実施することで、攻撃行動の発生のリスクを下げたり、行動修正が進みやすい状況にしたりすることができる。
薬物療法は、攻撃行動の発生要因に加え、飼い主の意向、攻撃行動の発生頻度や攻撃の程度が高いかどうか、家族に高齢者や乳幼児がいるかどうかといった要素を勘案して、実施の有無を検討すべきである。
日本国内で主に使用されている、選択的セロトニン再取り込み阻害薬と三環系抗うつ薬は、神経細胞内へのセロトニン再取り込みを阻害することで、セロトニン代謝を調節する。効果発現には数週間を要する。
本質的な治療方法
犬が噛む行動が起きないようにするための根本的な治療方法は、どのような原因によって噛みつきが起こっているかによります。しかし、飼い主に噛む多くのケースでは、飼い主との関係に対して、不安や苛立ちを感じていることが多くあります。
例えば、飼い主が常に犬のことを撫でている場合、飼い主が犬に対してはっきりとした態度を示せない場合、犬は飼い主の態度に対して安心感を得ることができず、飼い主との接触の中に、苛立ちや葛藤を生むようになります。それによって、撫でられることを嫌がるようになったり、飼い主の動きに対して(次にどんな変なことが起こるかわからず)不安を感じるようになることがあります。
あるいは、自分の主張を曲げたくないという性格の犬では、自分が大切にしている資源が奪われそうな場面で攻撃的になる事があります。ソファの上に寝ている時に近くに行くと唸る・咬むといった事例はこれにあたります。ケージを守る、フードを守るという行動も同じです。
その上で、攻撃することで飼い主を思い通りに動かせたという経験をすると、自分の思い通りにしようとして攻撃するということもあります。そもそも思い通りにしようとするのは、犬自身が守りたい資源があるということ(リラックスできる寝床やフードや)もあるし、特定の家族との距離を奪われたくないという場合もあるし、逆に特定の家族が歩く事に対して不快感を感じて、それを制御しようとして攻撃するということもあります。特定の家族が立ち上がって部屋から出ていこうとすると吠える・噛むという場合、その家族に対して何らかの不快感・不安感があり、動くことを制限しようとして攻撃しているかもしれません。
いずれにしても、根本的な原因はそうした部分にあるため、犬だけを直そうとしてもうまく行きません。原因の仮説を立て、原因となっている家族側の行動をどう変化させていくか、生活環境をどう変化させていくかということが大切になってきます。
本当に攻撃行動に悩んでいる方は、できるだけ早く、獣医行動診療科をはじめとした、適切な専門家に相談してください。