ご相談の主旨
尻尾を追うことに問題を感じご相談いただきました。
本日お知らせいただいた内容(行動の経歴)
Bちゃんは10歳の柴犬の男の子で、ペットショップさんから2カ月の頃に迎えたとのことでした。
問題は、散歩中に尻尾を追う行動があるとのことで、少しでも尻尾を追ったらそのまま家に帰ってくるようにしているため、近距離の散歩しか行けなくなってしまったとのことでした。
きっかけは6~7歳のころ、散歩中に突然うしろから柴犬に咬みつかれたことで、それ以来、散歩中に尻尾を気にするようになり、一時期は尻尾を咬んで出血し、玄関が血だらけになる程だったとのことでした。その後訓練士さんに指導を受け、回りだしたときの対処法として首輪を吊り上げる方法を教えてもらい、ひどく回ることはなくなったとのことでした。
冬~春にかけて尻尾を気にすることが多かったものの、今回は8月上旬から気にする様子が見受けられたとのことでご相談いただきました。
診断とお話し
これまでの行動の状況、カウンセリングの様子から、今回の問題行動は、常同障害と考えられます。しかし、その程度としては、現在の症状は決して強くないと言えるでしょう。回りそうな時にしっかり止めていくことが出来ていれば、以前の様にひどく咬みつくことは防げると思われます。
常同行動とは、無目的かつ反復的な行動のことを指し、頻繁に発生する場合を常同障害と言います。常同障害では、脳のブレーキとも呼ばれるセロトニンというホルモンの脳内代謝に問題があることが知られています。常同障害では、脳の一部で神経の過活動があるのではないかと言う仮説が提唱されています。
柴犬の6割はもともと尾を追う傾向があり、3割は唸りながら回ると言われています。現在の状況が常同障害というほどのものではないかもしれませんが、何も対処しなければひどく咬むことも予測されることから、薬物療法も含む適切な対処を必要とする状況であろうと判断しています。
尾を追う行動は、葛藤が発生した時にも起こる行動で、葛藤行動と言われます。常同障害は葛藤がほとんど無くても(小さくても)常同行動が発生する状態です。散歩に行った時に帰りたがらないというお話がありましたが、本当は散歩に行きたいのにすぐに帰らなければならない状況で葛藤が生じ、それが尾追いのきっかけになっている可能性も考えられます。
散歩を中心に生活全般の改善をしていくことと、飼い主さんが犬に関してより理解を深めてもらうことで課題は解決に向かうと思われます。
今後の治療法・対処法
1.問題行動の記録
散歩中に、尾を追う回数と、どの地点まで散歩できたかを記録するようにしましょう。改善の状況を客観的に把握することが出来ます。
2.散歩を徐々に伸ばす
散歩の距離を徐々に伸ばしていってみましょう。帰りたくないそぶりを見せているので本人はもっと散歩に行きたいと思っているのではないかと思います。3~5Mずつぐらい伸ばしてみて大丈夫かどうか見ていきましょう。大丈夫と言うことが分かれば、飼い主さんも楽になると思います。
3.外に出す回数を増やす
留守番の前後でおしっこに出す機会を作ったり、飼い主さんとふれあう時間を作るようにしてみてください。ブラッシングもゆっくりやってあげれば大丈夫です。しつこくやらないようにだけ気をつけましょう。
4.尻尾を気にしたらたらリードで止める
尻尾を気にしたら、リードで止めるようにしましょう。
5.信頼関係再構築トレーニングの実施
飼い主さんとの関係を深めていくことは常同障害の治療において重要な意味があります。玄関でタッチの練習で遊んだり、オスワリ・フセなどを教えたり、手からフードを与えながらコミュニケーションを取るようにしましょう。
6.手からフードを与える
手からフードを与えるようにしましょう。飼い主さんとのコミュニケーションを十分に図り、関係を整える作用があります。
7.知的玩具の利用
玄関にいる時に、知的玩具を使うようにしましょう。犬にとってもいい頭の体操になります。脳を疲れさせることも犬の生活の質を上げることにつながります。
8.薬物療法
フルオキセチン~行動の治療で使用される薬剤~
問題行動の治療でよく使用されるフルオキセチンについての紹介です。 塩酸フルオキセチンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬と言われる抗うつ剤で、脳内のセロトニンの…
さいごに
どんな問題行動でも、問題はイヌだけで起こっているのではなく、飼い主さんとの関係の中で発生しています。飼い主さんが対応を変えることで問題行動は改善に向かいます。一朝一夕では変わりませんが、ゆっくりじっくりを大切に向き合っていただければと思います。
分からないことがあれば、ご相談ください。何かありましたらいつでもご連絡ください。
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ぎふ動物行動クリニック
獣医師 奥田順之