2024年現在、犬の平均寿命は14‐15歳と言われています。日本ペットフード協会の令和3年度全国犬猫飼育実態調査では2010年で犬13.9歳だった平均寿命が、2021年で犬14.7歳に延びており、長寿命化が進展していることが伺えます。

 犬の長寿命化の背景には複数の要因が関係しています。まず第一に挙げられるのは、獣医療の進歩です。1990年代頃から、ワクチンやフィラリア予防といった予防医療が一般に普及したことで、感染症による死亡率が大きく低下しました。近年では、獣医療の高度化が進み、がんや心臓病、腎臓病などの慢性疾患に対する治療技術が向上するとともに、そうした高度な治療を求める飼い主も増えてきました。また、定期的な健康診断が普及し、病気の早期発見や継続的な管理が可能になったことも、寿命の延伸に大きく寄与しています。

 避妊去勢手術の一般化も寿命の延伸に影響しています。避妊去勢手術は生殖器・生殖腺に関連した疾患を予防することができます。犬種や実施時期によっては、骨・関節疾患を増加させるリスクが指摘されていますが、長寿命化に対しては、プラスの作用があります。

 また、フードの品質向上による栄養状態の改善も大きく影響しています。犬の年齢や犬種、健康状態に合わせた多様なドッグフードが開発されており、適切な栄養素を与えることができています。高齢犬向けのサプリメントが生活の質の向上に役立っている部分もあるでしょう。

 外飼いが減り、室内飼いが増えたことも影響している可能性があります。フィラリアの感染リスクが減ったことは長寿命化に影響していますが、それだけでなく、室内飼いで家族との距離が近くなり、接する時間が長くなったことで、精神的つながりが強くなると同時に、家族が小さな変化に気づきやすくなり、疾患の早期発見早期治療につながっているという側面もあるでしょう。

 このように、医療、栄養、生活環境、飼育意識のすべてにおいて変化してきたことが、犬の長寿命化という結果をもたらしています。

 身体的な寿命の延伸は、相対的に脳機能の衰えを経験する犬の割合が増えていくことにつながります。これまでは、認知症になるより早く、身体的な問題で亡くなっていた犬が大多数でしたが、寿命が長くなればそれだけ、身体は健康だけれども、脳機能が衰えていくということが起こりやすくなります。犬も人と同様に、高齢期を見据えて、身体のケアだけでなく、脳機能のケアや精神面の充実を図るアプローチが必要とされてくる時代となってきています。