柴犬の噛みぐせは、身体の病気でも発生する!

柴犬では噛みつきの問題行動の相談がとても多くあります。ぎふ動物行動クリニックでは、症例の20~30%は柴犬の噛みつきでした。

(※本来は「咬み」が正しい場合もありますが、「噛み」で統一します。)

柴犬の噛みつき=攻撃行動は、単純に「しつけの問題」「しつけが悪いから」ということでは片付けられないものがほとんどです。というのも、そもそも犬の噛みぐせは、痛みや、ホルモンの代謝異常、てんかんなどの身体疾患が関連している例が少なくないからです。安易に「しつけの問題だから」「飼い主が犬に舐められているから」と判断することは問題がさらに悪化することにもつながりかねません。

例えば、てんかんの中でも複雑部分発作と呼ばれる発作では、意識障害が伴うことにより、攻撃行動が誘発されることはあります。甲状腺機能低下症や、肝門脈シャントなどによっても攻撃行動が発生する場合があります。

成犬の噛みつきや、子犬であっても正常な遊び噛みの範囲を超える噛みつきについては、獣医師の診察、とくに行動を専門にしている獣医師の診察を受けることをオススメ致します。

(※「地域名 犬 行動クリニック」などで検索するとヒットすると思われます。)

当サイトについて

当WEBサイトは、岐阜県岐阜市で行動診療を行っている、ぎふ動物行動クリニックが運営しています。当クリニックの院長奥田は、2017年に日本で8人目となる獣医行動診療科認定医を取得しています。
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こちらも是非ご一読ください。

適切な治療を行えば、多くの症例で症状が緩和されます。症状が悪化する前に、行動診療を行っている獣医師にご相談にお越しください。わからないこと、不安なことがあれば、当院にお気軽にお問合せください。
(ぎふ動物行動クリニック 獣医行動診療科認定医 奥田順之)
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人が犬の上に立ってないから噛まれるは間違い

よく、人が犬の上に立ってないから噛まれるという指摘がありますが、これは間違いです。上に立つために体罰を用いるなんて言うのは百害あって一利なしと言えるでしょう。

この指摘は動物園のオオカミを観察した結果から引用されたもので、αと呼ばれるオオカミが全ての行動に優先権を持っていると考えるものです。犬がαになってしまうと家族を支配するために噛むという指摘ですね。

動物園のオオカミと家庭の犬を比較するのはかなり無理があります。種としては同一かもしれませんが、犬は家畜化により様々な特性が変化してきています。犬と飼い主の関係・行動学はオオカミのそれとは異なるものと考える方が自然です。

噛むことで報酬が与えられている

犬が噛む行動をとる場合、その動機付けと噛むことによって得られる報酬を考えなくてはなりません。

子犬の噛みつきの場合では、
① 無視されているので、かまってほしくて噛む
② 遊んでいて、テンションが上がってきて遊びで手に噛む
③ 抱っこされるのが嫌、捕まえられるのが嫌、触られるのが嫌で噛む
などのケースが多く見られます。

①のケースでは、噛むことでかまってもらえるという報酬が与えられていることが考えられます。

②のケースでは、噛むことで『痛い!』『ヤメテ!』などさらにテンションのあがる掛け声を飼い主さんからもらうことが報酬になっているかもしれません。

③のケースでは、噛むことで、拘束から逃げることができた、触られることを防げたなど、嫌なことから逃げることができたことが報酬になっているでしょう。

このように、犬が噛む行動をする場合、何らかの動機づけと噛むことによる報酬が与えられていることにより、噛む行動を選択していると考えられます。犬が人の上に立っているでは何の説明にもならず、噛みつきの改善はさらに困難になってしますのです。

脳内ホルモンの代謝(異常)も関係する

噛む=攻撃行動の発現は、はじめに指摘したように病気によっても発生します。では身体の病気でなかった場合は全て動機づけと報酬だけが要因かというとそうでもありません。実は、脳内伝達物質の代謝も関係しています。

そもそも脳内では百億単位の神経細胞が、数十種類以上の多種多様な脳内伝達物質により情報伝達を行っています。その働きにより外的・内的な刺激に対して適切な行動を発現できるように制御しています。

セロトニンが攻撃行動発現に影響を与える

その中でも、セロトニンと呼ばれる脳内伝達物質は、動物の攻撃行動に影響を与えることが示唆されています。例えば、意図的にセロトニン代謝障害を引き起こさせたラットにおいては、ラット同士の攻撃行動が増加することが知られています。さらに、そうしたラットにセロトニン代謝を改善する薬物を投与することで攻撃行動は減弱します。

セロトニンは脳のブレーキとも呼ばれる神経伝達物質で、感情の高まりを抑える働きがあります。セロトニン代謝に影響を与える薬物としては、三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込阻害薬などが代表的ですが、人間では抗うつ薬として用いられることが多くあります。不安や恐怖の感情を緩和する効果があるため、動物では、不安や恐怖を動機づけに持つ攻撃行動に対して用いられています。

柴犬はセロトニン代謝が弱い犬が多い?

柴犬によく見られる、無目的に尻尾を追い続けてしまう行動の異常『常同障害』もセロトニン代謝異常が関連していると言われています。葛藤行動としても尻尾を追う行動が見られますので、尻尾を追う=常同障害というわけではありませんので、詳しくは獣医師の診察を受けてください。

尾追い行動にしても、攻撃行動にしても、他の犬種よりも発生しやすい傾向にあることは間違いありません。行動治療の相談で一番多い犬種でもあります。

柴犬の攻撃行動では、薬物療法によりセロトニンの代謝を調節することが必要になってくるケースも多いことを念頭に置いておくと良いでしょう。