犬用ガムや、価値の高い食事・餌を守って唸る・噛むという相談症例について、ご紹介いたします。

ご相談の主旨

ガムを守る行動と、家の中で自由にすると家族に対して咬むことに問題を感じご相談いただきました。

行動の経歴

基本の情報

Hちゃんは、柴犬の未避妊の女の子で2か月の頃にブリーダーさんから迎えたとのことでした。

生活環境

 2月に家に迎えて7月頃までは、玄関にサークルを設置していて、そこで過ごしていたとのことでした。夏場になって暑くなったため、7月中旬から、クーラーのあるリビングにサークルを設置してそこで過ごしているとのことでした。

 基本はサークルの中で生活しているとのことでしたが、散歩のとき、ゴハンの時、トイレ、遊ぶときに出すときにサークルから出すというような生活リズムとなっていたとのことでした。廊下の奥にトイレを設置しているとのことで、何時間かおきにトイレに連れていくようにしており、ほとんどトイレで排泄できているとのことでした。

家に来てからの状況

 家に来てすぐから顔に向かって咬むことが多かったとのことでした。この頃は、家に家族がいるときは、リビングに出すような状況で、おしっこをしそうになったらケージに戻すというような形にしていたとのことでした。この頃は、マズルを掴んだり、ひっくり返したりしたものの効果がなく、獣医さんに相談したところ、大きな声を出して、その場から離れるようにと指導を受けたものの、大きな声を出すと余計に興奮するような感じだったとのことでした。

リビングの中で遊んでいる時に咬む行動

 リビングに出して遊ぶときに、手に咬みついてくるとのことでした。

 リビングに出した時は、はじめはリビングを散策し、その後に寝転がっている人の顔や手に対して咬みついてくるとのことでした。手ではねのけるものの、大抵は収まらないため、別の人がオヤツを用意して、おやつを与えているとのことでした。もしくはボールで遊ぶようにしているとのことでした。ガムを与えても怒らない時は、ガムを与えておくとおとなしくなったとのことでした。無視しきれないため、最終的にケージに入れるとのことでした。

ガムに関連した攻撃行動

 家に来てしばらくしてから、留守番の際に、長時間持つガムを与えるようにしており、問題なく与えることができていたとのことでした。しかし、生後6か月になった6月の後半から、同じように留守番時にガムを与え、その後に飼い主さんがケージに手を伸ばしたところ、唸ったとのことでした。その後、唸る行動が徐々に強くなってきているとのことでした。

 典型的な攻撃行動の状況としては、ガムを与えた時や、ガムに似た形状のものを与えた時に、それらの物を見た瞬間から、唸りだし、ガムを食べることなく放置して、家族に対して飛びつく、唸る、咬むという行動がみられるとのことでした。

 庭でガムを与えた時も、そのガムを食べる前に、家族に対してとびかかり咬みついてきたことがあったとのことでした。ガムを食べることはなく、ガムを置いて、家族の顔をめがけて飛びついてくるとのことでした。庭でガムを与えた時に忘れさせるために散歩に連れ出したものの、キュンキュン吠えており、ガムを気にしていたように感じたとのことでした。

 獣医師のアドバイスで唸ったらガムを取り上げるように言われたとのことで、それを実践したところ、ガムを取り上げた後も、ケージの中からずっと吠えながら唸る行動が続き、部屋にいる間ずっと吠えながら唸る状態になったとのことでした。そのため、部屋にいる人が1時間程度家の外に出て戻ってくると気分がリセットされるとのことでした。

その他のおやつに関連した攻撃行動

 ガム以外のオヤツを与えた時に興奮することがあり、飛びついてきたために、ケージに戻したところ、ケージの中にいる犬に対して手をだそうとすると唸るという行動が見られたとのことでした。

家族がリビングに入ってくると吠える行動

家族がリビングに入ってくる時にドアを開けると吠え唸ることがあるとのことでした。家族のだれが入ってきても同じように吠え唸るとのことでした。扉のすぐそばにケージがあることも影響しているかもしれないと考え、吠えた後に黒い幕などでケージを覆ってみたところ少し落ち着くことがあったとのことでした。扉からリビングに入ってきた時に吠え、出ていくときには吠えないとのことでした。吠える日と吠えない日があるとのことでした。一度吠え始め、興奮してくると、吠えやすくなるとのことで、近くを通るだけで吠えるようになることもあるとのことした。リビングに出ている時は起こらないとのことでした。

ガムに関連した攻撃行動に類似した行動

・ボール遊びをしている時に、飼い主さんがボールを拾おうとしたところ、ボールを奪われまいとするような行動が見られたとのことでした。

接触に関わる攻撃行動

・手を出すと、身を引き、逃げることが多い。
・叩いたり、叱ったりすると、唸る。
・ハーネスをつけようとすると嫌がり咬む。
・手足を拭こうとすると咬む。
・口の中を触ろうとすると咬む
・ハーネスや手足については、フードに集中している間にやれば、攻撃行動は起こらない。

これまでの対応

・お父さんが厳しいしつけを重んじており、叩くことがあり、叩く場面は、ガムに関連して唸った時や、リビングで遊んでいる時に手を咬んだ時
・その他の家族も、マズルを掴んでキャンと言うまでやったり、ひっくり返したりしていたが、あまり意味なかった
・現在はガムを与えるのは控えている
・ハーネスをつける、身体を触るときは、フードを使っている

(その他の行動)
・尻尾を追って回ることが多い
・手やお尻のあたりを舐める行動が多い。痒そうにしている。
・ケージの中で興奮している時に、ケージを掘ったり、尻尾を追ったりする
・リビングに出したときも、激しく走り回り、尻尾を追うこともある
・診察台に乗ると脱尿する

(既往歴)
・3か月の頃に、血尿が出て、尿のPHが高いと言われた
・7か月の頃に、両耳外耳炎になった。

(飼い主さんの希望)
・歯磨きができないため、できれば歯磨きガムを与えたい
・家の中でリビングに出したときも落ち着いて咬まないでほし

診察時の行動について

 診察時、奥田が近づくと興奮し、耳を下げて、口を舐めてきました。しばらくして興奮が落ち着いてきたところで、背中を撫でると、お腹を見せる行動が見られました。

 身体に触れてみましたが、首輪を持ったり、手を触ったりしてもかまれることはありませんでした。

診断とお話し

問題となっている状況の原因

 ガムに関連する攻撃行動については、ガムが非常に価値の高いものになっており、それを守らなければならないという衝動から攻撃が発生していると思われます。ガムを与えなくすることによって原因を取り除くことができます。

 家族がリビングに入ってくる時の攻撃行動については、ケージの中で寝ているところを邪魔されたことから、葛藤が生じ、興奮してそれが攻撃に転じていると考えられます。ケージの位置を考えたり、普段から段ボールで囲っておくなど、安心できる環境を提供しましょう。

 リビングに出した時に家族に咬む行動は、関心を引くために咬む行動を行っており、飼い主さんの対応によって咬むことで余計楽しいことが起こるとか、咬むことでオヤツをもらえる、咬むことで遊んでもらえると学習していると考えられます。咬まれる前に、咬まれないようにハウスリードを使ったり、フードを使って、咬まれないようにしましょう。

 手足を触る、ハーネスをつけると咬むという状況は、拘束を嫌がって発生している攻撃行動であると考えられます。現在もやっていただいていますが、何かするときは、必ずフードを使うようにすることや、ハーネスを使わずに、首輪にするなどの対応を行うことが考えられます。

 総合的には、7月中旬からリビングに居場所が移り、人の動線に近い場所にケージが設置されたことで落ち着かない状況になっていると思われます。生活環境を改善することを第一にしていただくことで原因を取り除くことができるでしょう。

対応の方針

 リビングで落ち着いて生活できるようにしていくことが何より重要でしょう。今は、激しく咬みつくと激しく対応してもらえるという状況で、リビングという空間がリラックスから遠いところにあります。

 そのためには、環境改善を行い、安心できる寝床を用意するというところと、ケージから出した時に、リラックスできるようにする関わり合いを取れるようにしていきましょう。

 今はむしろ興奮させる対応が多いと思いますので、どのような対応が興奮につながるのかを理解していただき、犬が落ち着く・リラックスるする対応を行えるようにしていきましょう。

 以下、具体的な対応を列挙いたします。

具体的な対応と対策

1.ガムの使用をやめる/価値の高いオヤツの使用をやめる
ガムがなければガムに関連した攻撃行動は起こりませんので、ガムの使用はやめましょう。また、価値の高いオヤツについても使用を控え、オヤツの代わりにフードを使うようにしましょう。

2.ケージの位置の移動/目隠し
現在、人の出入り口の付近にケージが設置してありますが、これを人の出入りや通行の少ない場所に移動させましょう。また段ボールなどで目隠しをして、ケージで休んでいるところを邪魔しないような環境設定をして、安心して休める場所を作りましょう。

3.体罰の禁止
体罰を行っても、余計に飼い主さんたちご家族への不信感を募らせるだけです。体罰は行わないようにしましょう。

4.ハウスのトレーニング
ハウスから出た時に、ハウスの指示で、ハウスに戻れるようにすることは重要です。現在もハウスで入れるようですので、繰り返して行きましょう。

5.ハウスの活用・ハウスリード
飼い主さんや家族が他ごとをしていて、かまってあげられない時は、ハウスに入れるようにしましょう。またハウスから出すときは、ハウスリードをつけて、リードを持っておくようにして、リビングに出た時に咬ませないようにましょう。誰がが寝転んでいる時は、ハウスから出さず、家族が咬まれない状況にしておいてから出すようにしましょう。

6.手からフードを与える
フードボウルからフードを与えるのではなく、手からフードを与えるようにしましょう。フードを投げる、一粒ずつ与える、トレーニングしながら与えるなど、色々試してみましょう。

7.触るとき、リードを着けるときにはフードを使う
現在も実施していただいていますが、触るとき、リードを着けるときはフードを使うようにしましょう。足を拭くときも足を拭いたらフードを毎回与えるようにして、リードの付け替えの際も、付け替えたら毎回フードを与えるようにしましょう。

8.ハーネスの使用をやめる
ハーネスをつけるときに咬まれることが多いとのことでしたので、ハーネスではなく首輪を使うようにして、首輪は家の中でもつけっぱなしにしておきましょう。ハウスから出すときに首輪にハウスリードをつなぐようにしましょう。

9.プライベートレッスン
プライベートレッスンで、関係づくりを学びましょう。リビングでリラックスしていられるように、飼い主さんの足元で伏せて落ち着けるようになる必要があります。また、人の接近や犬の接近に対して興奮しやすいところがありますし、そうした興奮しやすさは家の中でも多いにあると思います。興奮を抑えられるようになるためには、飼い主さんがいかに犬をリードできるかが重要です。飼い主さんが犬を導く能力を高めて、家の中でも落ち着けるようにしていきましょう。

さいごに

関係づくりは一朝一夕には進みません。飼い主さんご家族の毎日の働きかけが犬の行動を作っていきます。じっくりゆっくりを大切に、成果を焦らず、練習を重ねていきましょう。環境設置や生活習慣など、犬が生活する環境をどのように整えると、犬が安心するのか考え、実行していきましょう。

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