「犬が噛むのは飼い主を舐めているからだ」「人がリーダーになれていないから噛まれるんだ」そんな指摘が非常におおい昨今。
インターネットや書籍でも多くの本にそう書かれています。でも「それって本当?」って思ったコトありませんか?今回は「成犬の噛み癖の改善に、主従関係は必要か?」ということで検証していきたいと思います。
目次
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攻撃行動が強すぎて、触れない、近づけないといった相談もお受けしております。一時的な預かりも含めて、どうにかする方法をご提案いたします。
私共は、岐阜に拠点がありますが、通常の診察では、京都、滋賀、石川、三重、愛知、静岡からお越しいただき、ご相談いただいています。少し遠くても、ご相談いただければ、オンラインや預かりによるご支援も相談させていただきます。
(ぎふ動物行動クリニック 獣医行動診療科認定医 奥田順之)
そもそも、主従関係とは?
そのそも主従関係とか、リーダーシップとかって、言葉としては分かりますけど、実際どんな状態か分かりづらいですよね。
しゅう‐じゅう【▽主従】
1 主となるものと従となるもの。「事柄の主従を見分ける」
2 主人と従者。主君と家来。しゅうじゅう。「主従の関係を結ぶ」
なるほど、なるほどー。
この使い方を見ると、主従関係とは、もともと主君と家来といいことですね!
飼い主と犬の関係では、主人と従者ということですね。飼い主のことをご主人様と言ったりしますし。
犬のしつけにおける主従関係とは?
主人と従者の関係すなわち主従関係。主従関係にもいろいろ考えられるわけで、例えば、力や恐怖で言うことを聞かせるのも主従関係になりますし、リーダーの人徳によって人についていくことも主従関係になりますよね。
犬のしつけ分野でよく語られる『主従関係』は、『犬になめられないように』と言うのとセットで使われると思います。これは、犬との主従関係において、”力でねじ伏せて言うことを聞かせる”というイメージがあることを示しているのではないでしょうか。
人間のコミュニケーションにおいても、大きく分けると2つのコミュニケーション法があると思います。一つは力や権力で言うことを聞かせる”やりたくないけど仕方なくやる”方法で、もう一つは人の魅力や活動の魅力(遊び、仕事、勉強、社会活動など)によって”やりたくてやる”方法です。
犬との関係においてもは以下の2つが大きなくくりになるかとおもいます。
① ”飼い主の言うことは聞きたくないけど、痛みや恐怖を避けるために言うことを聞く”
② ”飼い主の言うことを聞いたほうが得だと知っていて、オヤツや楽しみを得るために言うことを聞く”
主人と従者の関係は、どちらもありうると思うのですが、どうも、犬のしつけ分野では、①のイメージが強いかもしれませんね。
成犬の噛み癖の改善には恐怖は必要ない
『主従関係』=『① ”飼い主の言うことは聞きたくないけど、痛みや恐怖を避けるために言うことを聞く”』
のイメージが強く、噛み癖の改善には①が必要だと思っている方も多いのではないかと思います。
結論を言えば、噛み癖の改善には①の方法は適していません。つまり、恐怖や体罰は必要ないどころか、逆効果になります。
噛み癖のある犬と飼い主では以下のような場面があるかもしれません。
- 体罰を使ったことにより、危険を感じることが増えた
- 体罰を使った後の方が抵抗が激しくなり、唸りや噛みつきの頻度が増した
- 今まで唸って警告していたものが警告なしに噛みつくようになった
「あるある~」という方も多いはず。
これらは、体罰の副作用として良くあることなのです。
もし、体罰的な方法を使ってうまく行っているのであれば、このブログも必要ないのです。そして、きっと、噛み癖に困っている飼い主さんが、この記事にたどり着くこともなかったのでしょう。
体罰的な方法がうまくいく場合もある
恐怖や痛み、つまり体罰を使ったしつけが結果としてうまくいく場合もあります。副作用として非常に強い噛みつきが発生する可能性もありますし、動物福祉の面からも不適切な方法ですので決してお勧めはしません。
うまくいく場合、それは、犬の物分りが良かった場合です。
例えばですが、子犬の場合で、遊びで噛みついていることが多いわけです。遊びで噛んだらとてつもなく叱られ、体罰を受けたという状況があれば、犬は『人を噛んだら怒られて怖い目に合うから噛まないでおこう』と学習します。こうした学習は得てして一般の家庭でも起こっていることでしょう。ですから、体罰的な方法がうまくいくことももちろん存在します。
でも、同じようにやっても噛まないないようにしようと学習する犬と、余計に興奮して噛んでくる犬もいます。つまり犬によっても反応はまちまちで、体罰がうまくいく場合もあるけれど、かなりの割合でうまくいかないわけです。そして、後者の犬に対して、体罰を用いることで、さらに噛み癖を強化していってしまう例が後を絶ちません。
乱暴な言い方ですが、体罰的な方法でもこちらの伝えようとしている意図をくみ取って、うまく対応してくれるくらい物わかりのいい犬であれば、噛み癖が問題になることはないということなんです。
体罰で噛み癖は強化される
成犬の噛み癖の改善では、体罰はマイナスにしか働かないといっても過言ではありません。
成犬の噛み癖と言うことは、既に遊び噛みの範疇を越えて、なんらかの動機づけの元に咬みついていると考えられます。一番多いのは恐怖性/防衛性攻撃行動ですから、これで考えていきましょう。
恐怖性/防衛性攻撃行動では、犬は何らかの恐怖を感じたり防衛的な動機づけから噛むわけです。首輪を持とうとしたら咬まれたとか、ブラシをしようとしたら咬まれたとか、抱っこしようとしたら咬まれたとかそういうやつですね。
こういう例では、体罰的な方法を多少なり既に用いていることがほとんどです。
でも、それでうまくいっていないんですね。それは、体罰やリードによる懲戒の様な恐怖刺激そのものが攻撃行動の動機づけになっているので、防ごうとしているにもか関わらず、噛みつきの動機づけを増やしてしまっているからなんですね。
で、有るからして、大抵は体罰を用いたとしても余計に攻撃的になったということがほとんどです。
このあたりに関しては、こちらも要確認でございます。
https://tomo-iki.jp/shiba-problem/1761/
オペラント条件付けと罰
ここでさらに罰というものについて解説したいと思います。罰(正の罰)と言うのは、犬にとって嫌な事をすることによって、特定の行動を減少させようとするものです。
例えば、キッチンに入ってきてはいけないことを教えるために、キッチンに入ってきたら(行動)大きな音を立てる(罰)ことでキッチンに入ってくることを減らす(行動の減少)ことが出来ます。
特定の行動をしたら、必ず罰が与えられるようにすると、その行動を減らすことができます。
これをオペラント条件付けと言います。
人間社会の中での罰のイメージとちょっと違うと思いますが、動物の学習としてはこ様な条件付けが無数に重なって、今の行動が形成されていると考えてください。
体罰は十分な強度を保たなければならない
噛み癖で考えてみます。
人の手を噛む ⇒ 体罰を与える ⇒ 人の手を噛まなくなる
という学習、成立しそうですよね。
しかし、ここに重要な条件があるんです。
それは、「罰は十分な強度を保たねばならない」と言うものです。
人の手を噛む ⇒ 体罰を与える ⇒ 人の手を噛まなくなる
という学習を成立させるためには、その動物にとって十分に強い罰を与えなければならないということです。体罰については、服従的な犬もいれば、対抗心のある犬もいます。ですから、十分に強い罰はそれぞれの動物によって違うわけです。
もし、既に体罰を用いていて、それでも人の手を噛まなくなっていない犬の場合、その体罰は十分な強度とは言えず、行動を減らすための罰としては無意味と言うことです。
では、十分な強度にすればいいかと言えば単純な話では有りません。噛みつく、唸ると言った行動は、恐怖心や防衛心から生まれてきますから、強い体罰を用いれば用いる程、その動機付けは強くなっていきます。体罰を行った人が近づくと嫌な事をされると学習し、より早く、より強く、唸ったり噛みついたりするようになっているかもしれないわけです。
それでも仮に十分な強度の体罰を与えれば、唸る行動は減るかもしれません。しかし恐怖の根本は増幅されていますから、いざ恐怖が耐えられる限界を超えて噛みつきが発生すれば、それまで以上の被害になること請け合いです。
犬に舐められないようにする=『一貫した態度』のこと
話を戻します。
犬になめられているから噛まれるんだという指摘に対しては、こんな解釈をしています。
つまり、『犬になめられているから噛まれる』=『何をしても怒られないと思っているから犬が噛む』という指摘だと思います。これについいては噛んだ後に何が起こるか犬自身が理解して噛んでいる場合を想定していますが、大抵はその後に何が起こるかなんて考えられないくらい必死に防衛しているというのが本当のところでしょう。仮に体罰を受けるかもしれないと思っていることも考えられますが、「噛んだら体罰を受ける」という学習をしているか「人が近づいてきたら嫌な事が起こる」と学習しているかで言えば、圧倒的に後者が多いと思われます。
自分も舐められない様にと言うのは、ある意味同意しています。それは、毅然とした態度(一貫した態度)を取ることで、堂々と犬と対応するという意味です。
犬は、この人を噛んだらどうなるかを観察しています。噛んだら(唸ったら)嫌な事(首輪を持たれる、ブラッシングをされる、自分の近くに立たれる、手が出てくるなど)が終わると思えば噛むという選択をします。家族それぞれに、この人はどうやって対応するだろうと考えています。
家族の中で、自分が唸ったら過剰に反応して、逃げていく人が居たとします。他の家族はそうでもないとします。近づかれるのが嫌な犬は、唸ったら逃げていく人に対して唸り、自分の居場所を確保するようになるでしょう。しかし他の家族は唸っても意味ないので、自分が居場所を変えるかもしれません。
仮に、家のルールの中で、ソファーに座ってはいけないのだとしたら、それを教えられるように毅然とした態度で臨む事、それが舐められないことであり、リーダーシップと言えるでしょう。唸られたらそれができないという状況であれば、リードを着けたり、居場所の制限を行うことでルールを教えることが出来るかもしれません。
犬の威嚇に対して、過剰反応せず、落ち着いた一貫した対応をしていくという意味で、舐められたらいけない=リーダーシップを発揮することが必要でしょう。
噛み癖を治すには、恐怖を与えるのではなく、動機をなくしていく
そろそろ結論に移りましょう。
噛み癖の改善では、体罰による恐怖で言うことを聞かせようとするのはほとんど無理です。それが出来ている犬の場合は問題にならずこのページにもたどり着いていないことでしょう。
噛み癖の改善では、噛もうとする動機を減らしていくことが何より重要です。噛む動機はどこにあるのか?触られたくない、リードで引っ張られたくない、自分の安心できる居場所を守りたい、フードを守りたい、飼い主さんからの体罰を避けたいなど様々な動機があります。さらに基礎的な気分(気質)として、不安傾向があればそうした防衛的な動機づけを高めるかもしれません。
良くあるパターンは、噛む犬なのにいっぱい触っているということです。これは単純に触らないようにすることで噛まれなくなることが多いです。また物を守るパターンでは、守らせるものをなくすことで噛まなくなります。
その上で、徐々に脱感作や拮抗条件付けを行い、噛む状況や刺激に対して馴らしていくことで、噛み癖の改善は進んでいきます。
もちろんその過程で、身体疾患の関与や、脳の機能的な疾患の有無を判断していかなければならないことも付け加えておきます。詳しくはこちら。
[blogcard url="https://tomo-iki.jp/shiba-problem/671/"]
噛み癖の治療に、体罰・力でねじ伏せる主従関係は必要なし
噛み癖の改善では、主従関係(① ”飼い主の言うことは聞きたくないけど、痛みや恐怖を避けるために言うことを聞く”)と言うのは、必要ありません!むしろ逆効果になることが多くあります。
必要ありませんよ!安心してください。もう痛めつけなくていいですからね。自分のココロにも鞭打って体罰をしている人が居るんです。色々な人からそうやって言われたからって。苦しいですよね。動物を痛めつけるのって。だから、この記事が、そんな人に届いてほしいな。少しでもね。
願わくば、主従関係と言った時に、『力でねじ伏せる関係』ではなく、主従関係という言葉の意味する本質的な意味を理解して、犬との関係を作っていける社会になっていきたいです。そのためには、犬への理解が何より大切なのかなと思います。
色々な情報があるかとは思いますが、このブログで書かれていることに納得される方で困られている方がいれば、一度ご連絡ください。しっかりカウンセリングさせていただきます。
では!
当サイトについて
当WEBサイトは、岐阜県岐阜市で行動診療を行っている、ぎふ動物行動クリニックが運営しています。当クリニックの院長奥田は、2017年に日本で8人目となる獣医行動診療科認定医を取得しています。
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こちらも是非ご一読ください。
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