動物福祉という言葉、聞いたことある方も多いと思います。
実は、動物福祉と問題行動は大いに関係しているのです。

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柴犬は葛藤に弱く、興奮性の高い脳機能が噛みつきの背景にあります。薬物療法による治療も選択肢となります。

こちらの記事で紹介している通り、問題行動の発生プロセスは、1.先天的要因・後天的要因、2.きっかけとなる刺激・状況、3.行動の発生、4.行動の定着という4つの段階を踏みます。この中でも動物の福祉状態は、1.の先天的要因・後天的要因の部分に相当します。動物の福祉状態が低ければ、それはそのまま問題行動の発生要因になりえます。例えば、健康状態が悪く、腰が痛いという状態があれば、触られるのを嫌がって咬むかもしれません。あるいは母胎の福祉状態が低いことで、先天的に不安傾向の強い個体が生まれるかもしれません。動物福祉と問題行動は切っても切れない関係と言えるでしょう。

動物福祉とは?

では、動物福祉とはなんでしょうか?動物福祉とはアニマルウェルフェアの訳語で、西欧由来の思想です。語源的には、動物(アニマル)の良い(ウェル)生活(フェア)と言う意味であり、動物の生活レベルが高い状態を指します。それに加えて、動物の高い生活レベルを保証することが倫理的であるとする思想も包括する言葉と言えます。そして動物福祉の思想には、人間の情ではなく、動物の生活水準をどのように評価し、どのような技術を持ってその水準を保証するのかという科学的な側面が強く反映されています。

動物福祉と動物愛護

動物福祉の話で良く取り上げられるのが、動物愛護との違いです。端的には、動物愛護は人が主語、動物福祉は動物が主語であると言われます。動物愛護は、人が動物を愛し護る「情」であり、可哀そうな動物を守ることが人としての倫理であるという思想を指す言葉であるとされます。動物福祉は動物の良い生活のことであり、それを保証することが倫理であるという思想を指す言葉ですが、一方で動物の利用を妨げるものではないともしています。動物愛護はウエットな、動物福祉はクールな印象ですね。

動物福祉の原則

OIE世界動物保険機構では、動物福祉を「動物が生活環境といかに適応しているか」としています。そして、福祉状態が守られているということは、動物福祉の5つの自由が守られていることを上げています。動物福祉の5つの自由が守られていることが、生活環境と適応しているといえるということですね。

動物福祉の5つの自由

動物福祉の5つの自由とは、1960年代イギリスで社会問題となっていた、集約畜産の虐待性に対して、動物の福祉を守るために考えられた、動物の生活上保障されるべき5つの自由のことを指します。この5つの自由は、その後、動物福祉の国際基準として認知されるようになり、今日に至っています。5つの自由をとは以下の5項目です。

1.飢えと渇きからの自由

2.不快からの自由

3.痛み・怪我・病気からのの自由

4.恐怖や苦悩からの自由

5.正常な行動を表出する自由

家庭の犬たちは、動物福祉の5つの自由が守られているのか?

さて、と言うことで、動物福祉について簡単に解説してきましたが、この動物福祉、すべての飼育動物に当てはめて考えられています。すべての飼育動物とは、当然、家庭の犬も含みますね。

では、家庭にいる犬たちは、動物福祉の5つの自由守られているか考えていきましょう。

1.飢えと渇きからの自由

家庭にいる犬たちは、おそらく1つ目の自由は確保されているのではないでしょうか。日常的に水が与えられていない、食餌が与えられていないというのは、多くはないと思います。しかし、場合によっては、夏場に車の中に放置して(これは2番目の自由ですが)、水が無くて脱水症状になってしまったりっていうのは稀に聞きますよね。

2.不快からの自由

不快な環境、じめじめした空間とか、灼熱環境とか、寒すぎるとか、寝るところがとげとげしているとか?そういう不快な環境からの自由という意味ですね。日本は夏が暑いですから、これからの季節暑さからの自由を与えてあげないといけない犬たちは多いでしょうね。真夏日でなければ扇風機で大丈夫だと思いますが、真夏日になってくるとクーラーが必要な場合も多いかもしれませんね。屋外飼育の方は、日陰の確保と風通しの確保は確実に行って、暑くて危ない日は涼しい空間を用意してあげてくださいね

3.痛み・怪我・病気からのの自由

ほとんどの場合、動物病院に行かれて適切な処置を受けているので、これも確保されていると言えるでしょう。

4.恐怖や苦悩からの自由

これは確保されていないことが多い項目ですね。飼い主さん自身、犬にとって何が恐怖になるか分からないということもあるかもしれませんし、社会化が十分でなく多くの刺激が恐怖刺激になっているかもしれません。例えば『暇だろうから外が見えるようにしてあげよう』とわざわざ窓際にゲージを置いたり、門のそばに係留したりすることで、侵入者に対して恐怖を感じている犬も多いことでしょう。あるいは、ブラッシングが嫌いなのに、無理やりブラッシングしたりとかも恐怖・苦悩から自由になっていない状況ですね。他にも、一生懸命褒めている(頭をごしごしする褒め方)つもりなのに、それが恐怖となっておしっこを漏らしてしまうなんてこともあるかと思います。

恐怖や苦悩については、犬がどのような時に恐怖や苦悩を感じるかと言うことを飼い主が学び、それを避けるあるいは馴らす、つまり恐怖がある場合は、恐怖刺激を除去したり脱感作したりする必要があるでしょう。もちろん、子犬期にしっかり社会化し恐怖となる刺激を作らないことも大切です。

あるいは、体罰的なしつけにより恐怖を感じている犬もいるかもしれません。恐怖を与えることで飼い主と犬の間には多くのデメリットが生じます。体罰的なしつけについては、こちらの記事もご参照ください。

https://tomo-iki.jp/shiba-problem/1761/

5.正常な行動を表出する自由

これも確保されてないことが多い項目ですね。そもそも犬の正常な行動ってなんだろう?って話になるんですが、例えば散歩を取り上げると、犬はそもそも薄明薄盆性といって、日の出と日の入りに活動期があって、昼間と夜間は寝ている動物です。人と暮らすことでこのあたりもあいまいにはなっているのですが、1日2回散歩に行くというのは、活動期に活動させてあげましょうという意味から来ています。

あるいは、犬種独自の行動特性を表出できているかと言うのもあります。レトリーバーなら、レトリーブするのがお仕事ですから、なにかを回収する様な遊びが必要かもしれませんね。柴犬は猟犬ですし、そもそも食べるために狩りをするというのは本能的な行動ですよね。であれば、疑似的な狩りをするための引っ張りっこ遊びや、知的オモチャを使うというのも必要かもしれません。動物園動物では、正常な行動を表出できないことでストレスを感じ、常同障害を発症する動物も多くいます。犬でも当然過度の制限状況では同じように精神的負荷から行動の疾患が発症しやすくなります。

犬は犬らしく、生活させたり運動させたりすることが出来ているかどうかという面を確認する必要がある、と言うことですね。

問題行動の改善は、動物福祉が守られるようにするところから

このように5つの自由、特に4.と5.は問題行動に大きく影響しています。そしてこの二つは、飼い主が知らず知らず奪っている自由でもあります。恐怖だとは思わなかった、犬らしくってどうすればいいか分からなかった、と言う様に、飼い主が知らないことで犬の福祉を低下させてしまうことは良くあります。

飼い主は、動物福祉の5つの自由という観点からも、『愛犬の福祉状態はどのような水準にあるのか客観的な評価ができる様になる』とまでは行かないまでも、一方的な愛情ではなく、愛犬の幸せ指数を感じるセンスを持つ必要があるかもしれないですね。