ご相談の主旨

家族に対して咬みつく行動について問題を感じ、ご相談いただきました。

本日お知らせいただいた内容(行動の経歴)

問題は、家族への攻撃行動で、家族が帰宅した際に、ただいまと言うと飛びかかってくるので触ろうとすると突然咬みついてくるとのことで、特にお父さんに対して怒ることが多いとのことでした。最近は、触らないようにしているとのことでした。息子さんには吠えることが少ないとのことでした。

また、抱っこしようとしたり、ハーネスをつけようとすると歯を当ててくる程度であるものの咬むとのことで、これは息子さんも含めて、だれでも嫌がるとのことでした。もう一つ気になる点は、散歩から帰ってきた後、サークルに入れる時に、扉を閉めようとすると怒るとのことでした。

咬み始めたのは、1歳になる前くらいからで、ゴハンを食べ終わった後のお皿を片付けようとしたところ咬まれたとのことでした。また、トリミングサロンに出したところ、トリマーさんに咬みついたとのことで、トリマーさんから「馴らすためにたくさん触ってください」と言われ、触る練習をしたとのことでした。

気になる行動として、2月3日4日にかけて、聞いたことのないような鳴き声でずっと鳴いていたことがあったとのことで、その後、サークルの中で尻尾を追うことが増えたとのことでした。

カウンセリング時の様子

カウンセリング時は、奥田に対して警戒し、過剰に吠えていました。段ボールで視線を遮ると吠えはやみました。奥田がリードを持つことはできましたが、今回は身体検査等は断念しました。

診断とお話し

今回、身体検査を実施しておりませんので、身体疾患の関与の可能性は有りますが、可能性は低いと考えられますので、まずは安全確保と改善を優先し実施していきたいと思います。近いうちにかかりつけ動物病院にて、再度身体検査と必要に応じて血液検査もお願いすることになるかもしれません。

これまでの行動の状況、カウンセリングの様子から、今回の問題行動は、恐怖性/防衛性/縄張り性/食餌関連性攻撃行動と診断されます。これまでの対応から飼い主さんたちが何か自分に危害を加えるのではないかと感じ、攻撃すれば危険を逃れられる(嫌なことが終わる)と学習したものと考えられます。

犬は触られると嬉しいということは必ずしも正しくなく、触られていると咬むという犬については、触られるのが嫌いと考えたほうが自然です。トリマーさんから言われてたくさん触ったことが逆効果になっているかもしれません。

犬は自分の縄張りを守る意識として、特に境界線を守るという性質があります。ドアの出入りや、サークルに近づくこと、サークルを閉めようとする時に怒るのはそうした意識から来ているかもしれません。

尾を追って回る行動は、柴犬ではよく見られる行動で、葛藤行動の一種であり、何か自分が得たいものが得られなかったり、我慢しなければならない状況で発生しやすい行動です。こうした行動が無目的かつ反復的に発生する場合を常同障害と言います。常同障害では、脳のブレーキとも呼ばれるセロトニンというホルモンの脳内代謝に問題があることが知られています。

柴犬ではもともとセロトニンの少ない傾向のある犬が多く、常同障害や攻撃行動が発生しやすい犬種です。Fちゃんもそうした傾向があるタイプですので、お薬を併用しながら、トレーニングを実施していくことで、問題を改善していくことが出来るかもしれません。

以下、具体的な改善点を列挙します。

今後の治療法・対処

1. 環境の改善
サークルの位置をリビングの奥の様にするようにして、人の導線の近くにしないようにしましょう。また目隠しをして、中が見えないようにし、安心できる個室を提供しましょう。

2. 帰ってきたときの対応を変える
家に帰ってきたときに、すぐに撫でてしまうと興奮度が増してかむ危険が増します。帰ってきたときは一度無視して、落ち着いてから関わるようにしましょう。またサークルの上から手を入れて撫でるとプレッシャーを与えやすいので、関わるときはサークルから出して関わるようにしましょう。

3. オヤツをもちいたトレーニングをする
おやつを用いたトレーニングを実施しましょう。トレーニングなどをして精神的刺激を与えていくと共に、飼い主さんとの一貫性のある関わりを学習させていきます。
どんな関わりでもオヤツを使ってもらって、例えば、ハーネスを着けたらオヤツ、足を拭いたらオヤツ等の様に、嫌な事をした後は必ずオヤツを与えるようにしましょう。

4. サークルの扉を閉める際にコングを使う
サークルの扉を閉める時に、コングもしくはオヤツを用意しておき、サークルの中で食べている時(コングやオヤツに集中している時)に閉めるようにしてみましょう。

薬物療法について

今回、薬物療法として、塩酸フルオキセチンを使用し、反応を見ていきましょう。

◎ 塩酸フルオキセチン

フルオキセチン~行動の治療で使用される薬剤~

問題行動の治療でよく使用されるフルオキセチンについての紹介です。 塩酸フルオキセチンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬と言われる抗うつ剤で、脳内のセロトニンの…

飼い主さんへのコメント

防衛的な攻撃行動の改善では、絶対に咬まなくなるようにすることではなく、咬まなくてもいい生活を送らせてあげることが何より重要です。

改善に向かっていく過程では、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら進んでいく印象を受けます。改善には年単位の時間が必要な場合もあります。しっかりサポートさせていただきますので、焦らずゆっくり向き合っていきましょう。

レッスンの中でわからないことや改善の状況など、なんでもご相談ください。しっかりサポートして参りますので、一歩ずつ進んでいきましょう。

何かありましたらいつでもご連絡ください。