柴犬や日本犬は、犬の認知症になりやすいとの記載をみかけることがある方もいらっしゃるのではないかと思います。私自身、認知症の犬と言えば柴犬を思い浮かべてしまいます。やはりそれだけ臨床で診る認知症の症例は、柴犬が多いです。実際当院での相談でも、認知症の相談の半数程度は柴犬です。とはいえ、当院は岐阜県にあるという立地の関係上、元々柴犬の症例が3分の1程度を占めるため、あまり参考にはならないかもしれませんね。
これまでの学術的な研究の中でも、柴犬や日本犬が多いかどうかには触れられています。動物エムイーリサーチセンター(内野)の調べでは、1993年~2004年までの認知症発症頭数の48.4%が日本犬系雑種、33.8%が柴犬、日本犬を合計すると、84.1%であったと報告されています。これはかなりの割合ですね。
一方で、10~13歳における犬の認知症発生率は日本犬より洋犬で発生率が高く、その他では差がなかったとの報告もあります。(水越ら,2017年,”高齢犬の行動の変化に対するアンケート調査”)また、海外における疫学調査において、日本犬に認知症の発症が多いというデータはないようです。
臨床の現場では、やはり柴犬や日本犬系雑種の相談が多いように感じます。この傾向は認知症になった場合に生活に支障が出るかどうかによっても影響を受けていると考えられます。日本では飼育されている犬の多くが小型犬です。例えばチワワが認知症になっても、家族が寝れないほど困るということが少ないかもしれません。身体のサイズが大きい柴犬だと、声も大きいし近所迷惑になってしまうと言った要素も含めて、動物病院の受診につながる傾向があるのではないかと思います。
動物の医療が発達し、予防が徹底され、フードの質が改善されてきている昨今、犬の寿命は昔に比べ格段に伸びており、それに伴って犬の認知症の発生頭数は増加していると考えられます。それに伴い、発症する犬種の傾向も変化していくかもしれません。
犬種別の平均寿命は、長い方から順に、トイプードル15.3歳、ミニチュアダックスフンド14.9歳、カニーヘンダックスフンド14.8歳、柴犬14.7歳、ミックス(10kg未満)14.7kgと続きます(アニコム家庭動物白書2024)。このほかの人気犬種だと、チワワ13.9歳、ポメラニアン13.7歳、ミニチュアシュナウザー13.6歳、ヨークシャーテリア13.8歳となっています。やはり、平均寿命の長い犬種ほど、認知症を発症するリスクは高くなります。柴犬に限らず、トイプードルやダックスの認知症の相談は、これから他の犬種に比べて、増えていくかもしれませんね。
今後、相談症例の統計調査等が行われることで、犬種による発症の傾向がつかめてくると、予防にも大いに役立つと思います。これからの研究に期待したいです。