仕事を邪魔してきたり、寝ているところを起こしに来たり…猫が飼い主に対して要求をしたり、注意や関心をひくためにする「過剰に鳴く」などの行動は、行動学的には「関心を求める行動」という名前がついています。今回は、猫の問題行動の症例をご紹介しながら、どのように対処すればよいか考えてみたいと思います。
症例[雑種猫、オス去勢手術済み、2歳]
以前から鳴くことの多い猫ではあったものの、鳴く頻度や声の大きさがどんどん大きくなっているとのことで、ご相談いただきました。
基本の情報
- 症例猫:雑種猫、オス去勢手術済み、2歳
- 飼い主さんは、ご夫婦二人家族
- 同居猫が2頭いる
- Bちゃん、雑種猫、メス不妊手術済み、18歳
- Yちゃん、雑種猫、オス去勢手術済み、12歳
- もう1頭いたが、2ヶ月程前に亡くなっている
- 現在いる2頭とは、特別仲が良いわけでも悪いわけでもなく問題はない
- 先日亡くなった猫とはあまり折り合いが良くなかったが、ケンカするわけでもなかった(症例猫がちょっかいをかけて怒られていた)
- 健康状態について
- 元気も食欲も十分にある
- 体型は標準的
- 特に既往歴はなし
- 生活環境
- 一軒家
- 3頭の猫たちは家の中を自由にしている
- ダイニングキッチンには入らないよう、リビングとの間に格子戸がある
- トイレや休む場所・隠れる場所は頭数に見合った十分な数が用意されている
- 症例猫はソファの背もたれの上や和室の段ボールの中で休んでいることが多い
- 一軒家
- 生活習慣
- ごはん:1日3~4回、ドライフードとウェットフード
- 食欲旺盛のため、体重管理用の療法食も混ぜてあげている
- 遊び:じゃらしのおもちゃなどで毎日時間をとって遊んでいる
- 夜8時頃に遊ぶことが多い
- ご家族がお休みの日は午前中や昼間にも遊ぶ
- ごはん:1日3~4回、ドライフードとウェットフード
問題となっている行動について
- 以前から、遊びたい時や食べたい時に鳴くことが多かったが、ここ2~3ヶ月ほどで鳴く頻度が増し、声量も増していっている
- 以前鳴いていたタイミングは、毎回のごはんの時間が近づいた時と、遊ぶ時間の夜8時頃だったが、今はそれ以外のランダムな時間にも鳴くことがある
- いつもリビングとダイニングを仕切る戸の前で、ダイニングにご家族のどちらかあるいはどちらもがいる時に鳴く
- 夜食の前は特に声が大きく、しつこく鳴いて困っている
- 夜食は10時30分頃にあげる
- ご家族がお風呂に入った後にごはんを準備する習慣になっているが、ご家族どちらかがお風呂に入ったのを確認すると鳴き始め、夜食をもらえるまで鳴き続けている
- 日に日に大きな声になっている
- 朝・昼・夕食の前や遊びの前にも鳴くが、夜食の前ほど大きい声ではない上に、長時間ではないので困っていない
- 留守番中に鳴いている様子はない
- 2ヶ月前に亡くなった猫が病気になる前は、夜食前は症例猫とこの猫の2頭でソワソワ歩き回っていることが多く、症例猫が亡くなった猫にちょっかいをかけて怒られることもよくあった
症例猫の「しつこい鳴き声」について考察
症例猫はもともと鳴く行動の多い猫のようですが、2~3ヶ月前から特に頻度や程度が大きくなり、問題となっているようです。
猫は、自分にとって何か足りないことがある時には、それが解消されるまでしつこく行動を続ける場合があり、それが飼い主にとっては困った行動となってしまうことがあります。今回も問題行動が激しくなった2~3ヶ月前の時期に、特に猫が不安になりやすくなったり、欲求が満足されにくくなるような何らかの要因があったと考えられます。よくみられる要因としては、以下のようなものがあります。
- 家庭内の日課の変更や引越し、家族構成の変化があった
- 飼い主が猫に対してきまぐれで一貫性のない関わり方をしている
- 困った行動に対して猫を罰している(叱る、追いかける、大きな音を出す など)
- 日常生活での活動が不足している(遊んでいない、遊ぶ時間が少ない など)
今回の場合、飼い主は猫を罰することはしておらず、関わり方や生活習慣も整えており、遊びなどの活動の機会も十分与えている様子でした。唯一、2ヶ月前に同居猫が亡くなっていることは、家族構成の変化として猫が不安を感じやすい要因となっていると考えられます。
また、日常生活の中で猫が要求してくる行動を意図せずに強化してしまっていることがよくあります。例えば、ごはん皿の前で鳴いてみたらごはんを出してもらえた、という経験が一度でもあれば、次にお腹が空いた時にはその猫はごはん皿の前で鳴いてみるでしょう。そしてまたごはんが出してもらえた、となれば、お腹が空いたらごはん皿の前で鳴けば要求が通るとしっかりと学習され、経験が増えるごとに強化されていきます。
今回もこれと同じような強化が起きていると考えられます。戸の近くで鳴いていたらごはんが出てくる、という経験が毎日増えていくので、夜食前に戸の近くで鳴く行動の頻度と程度が大きくなっているのです。
さらに、今回の場合は「飼い主さんがお風呂に入る音」と「食べ物」が関連づけられているようです。ベルの音の後にごはんをもらっていた犬が、ベルの音を聞いただけで唾液を分泌するようになるという実験と同じように、この猫もお風呂の音を聞くとヨダレが出るようになっているのかもしれません。
症例猫の「しつこい鳴き声」への対応
問題行動は、その行動を取ると猫の望むことが得られる、ということで続いていきます。逆に、その行動を取っても、猫の望むことは得られないようにすれば、その後同じ状況になってもその行動を取りにくくなります。
そこで、まず、猫がその行動を取った結果、何が起きているかを挙げてみましょう。挙げられたことは、猫が望んでいること、猫が得をしていることであるはずです。今回の場合、「戸の前で鳴き続ける」という行動が挙げられます。そして、最終的には鳴き続けた後に望んでいた「ごはん」を得ることができていますね。
次に、猫がその行動を取っても、常に、先程挙げられたことは起こらないようにしましょう。今回の場合、「お風呂の音」がすると鳴き始めて、「ごはん」をもらうまで鳴き続けるので、この順番を変えてみるとよいでしょう。つまり、「お風呂の音」がする前にごはんをあげておいて、飼い主さんのお風呂が終わった後には「ごはん」は得られない習慣に変えてみるのです。こうすることで、鳴くことに対する報酬(ごはん)がなくなるとともに、鳴く行動をしていない時に報酬(ごはん)を与えることができ、鳴かずに落ち着いている状態を強化することができます。
また、猫の欲求を満足できる環境や機会を提供することも重要な対策のひとつです。
今回、遊びなどの活動の機会は十分与えられている様子ではあったものの、日常生活でどの程度の活動が必要かはそれぞれの猫により異なり、それぞれの猫の気質も関連しています。具体的に1日に何分間遊んであげれば良い、ということではなく、それぞれの猫に合った活動量が必要なので、日常生活における活動欲求が満足されているかについては、今後の経過も見ながらよく考える必要があります。
最後に、身体的な疾患が、猫が要求を通すためにする困った行動の要因になっている場合もあります。疼痛や違和感を引き起こす病気が隠れており、ストレスが増大していることもあります。そのため、かかりつけ動物病院で診察や検査を受けることも考慮すべきでしょう。
これらのことを踏まえ、今回の症例猫には以下のとおり対応策を取ってみることをおすすめします。
具体的な対応策
- 環境整備
- 目隠しの設置
- 格子戸の前に衝立やカーテンを設置
- 飼い主さんの反応によって鳴く行動を強化しないようにする
- 目隠しの設置
- 対応の修正
- 夜食をあげるタイミングを変える
- 飼い主さんがお風呂に入る前にあげるようにする
- 知育おもちゃを使って夜食をあげる
- できるだけ長時間かけて食べられるよう難易度を調整する
- 市販のもののほか、手作りもできる
- トイレットペーパーの芯
- ペットボトル
- ガチャボール などなど
- 食事内容を工夫する
- 理由:できるだけ満腹感を出すため
- かさ増しできるようにする
- ウェットフードを利用
- 現在混ぜている体重管理用の療法食の割合を増やす
- 夜食をあげるタイミングを変える
- 活動する機会を増やす
- 遊ぶ機会を増やす
- 1回は短時間でもOK、1日複数回機会をつくる
- 遊びにバリエーションをつける
- さまざまなタイプのおもちゃを試す(じゃらしのおもちゃ、ボールなど転がすおもちゃ、知育おもちゃなど)
- おやつを投げて追いかける遊び
- トレーニングで遊ぶこともできる(タッチゲームなどがやりやすい)
- 段ボールを並べてフードサーチ(ノーズワークを応用した遊び)
- 遊ぶ機会を増やす
- かかりつけ動物病院で健康診断を受けるとよい
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