仕事で留守にすることが多いけれど動物と一緒に暮らしたい方には、猫を飼うことを勧められる場合が多いようです。

犬はもともと群れで暮らす動物であり、飼い主と離れた時に大きな不安やストレスがかかることで問題行動が起きる「分離不安」というものが一般的に知られています。一方、猫はもともと単独生活している動物であるため、長時間一匹にさせても特に問題はないと捉えられることが多かったんですね。

でも、本当に、飼い主が長時間留守にしても猫には何の問題も起きないのでしょうか?今回は、猫の「分離不安」について考えてみたいと思います。

「猫は単独生活する動物だから社会性がない」は本当?

猫が「単独生活をする動物」だと言われるのは、先祖種であるリビアヤマネコが群れをつくらない単独生活の動物だからです。リビアヤマネコは、姿かたちがキジトラのイエネコとそっくりです。イエネコの性質や生活上必要なニーズについても、リビアヤマネコ時代とほぼほぼ変わっていないのも事実。ですが、そのリビアヤマネコとイエネコの間での決定的な違いが「社会性」であるともいえるのです。

そもそも、単独で生活している野生動物であるヤマネコと人間とは、普通に生活していたら接点がないはずですよね。それがなぜか接点を持つようになったのには、その当時のリビアヤマネコは棲息地域によって異なる性質を持っていて、その中に「比較的小形で性格がおっとり」したリビアヤマネコたちの個体群があったという説があります。そしてそれが人間との距離が縮まったことに関係しているんじゃないかと言われています。

さらに、人間と生活するようになった他の動物種(犬、牛、鶏など)でも同じですが、遺伝子的な突然変異のひとつである「ネオテニー」が、人間と生活するようになる過程で関係しています。「ネオテニー」は、日本語にすると幼児化といいますが、「大人(=性的に成熟している状態)になっても、子ども(=性的に未成熟な幼生・幼体)の性質が残る現象」のことです。動物は幼い頃ほど高い学習能力や様々な環境に適応できる性質を持っており、それを成熟してからも残しているということは、同種の他個体とも異種の動物(人間など)とも慣れ親しみやすい、社会性のある個体ということになります。ちなみに、人間も、ネオテニー化した結果人類になったという見解もあるそうです。人間とサルとの違いを考えるとわかりやすいですが、サルにとってはテリトリー争いの闘争が不可欠である一方、人間は赤の他人でも隣人と仲良くできる性質がありますよね。

リビアヤマネコたちの中でも、特有のおっとりした性格の個体群が発生し、その中で突然変異のひとつである「幼児化(ネオテニー)」が起こり、何千年もの期間をかけて「人間と慣れ親しみやすい社会性のある個体」が残った結果、現在のイエネコとなったのです。つまり、猫には社会性があり、人間と絆を構築することができる性質を持っているといえます。

猫も飼い主がいないと不安やストレスを感じることがある

最近の複数の研究結果から、猫は社会性のある動物で、飼い主との絆を築くことができると考えられており、飼い主がいなくなることで行動の変化や生理学的反応を示す場合があると報告されています。

例えば、猫の飼い主への愛着を確認するために行われたある実験では、猫は一匹でいる時や知らない人間と一緒にいる時よりも、飼い主と一緒にいる時の方が、探索行動や遊び行動の頻度が高いこと、そして、飼い主がいる時には、警戒行動を示したり行動が不活発になる頻度が低いことがわかりました。

別の研究では、長く離れていた飼い主と再会した時に、猫の親和行動が増加し、喉をゴロゴロ鳴らすなどの行動が増えることが確認されています。

これらの研究はすべて、猫は飼い主がいるときにはより安心感と安定感を示すのに対し、飼い主がいないときにはより不安とストレスを感じることを明らかにしました。

飼い主との分離に関連する猫の問題行動

飼い主が留守の間に猫が困った行動をとる場合、一般的に、不適切な場所での排尿や排便をする、過剰に鳴く、様々な物を破壊する、過剰にグルーミングして毛がはげてしまう、などの行動がよくみられます。

困っている方の多い問題である「不適切な場所での排尿」では、猫が一人で留守番中に発生した場合、75%が飼い主のベッドに排尿していたという研究結果もあります。

223頭の猫を対象としたある調査研究では、13.45%の猫でなんらかの分離に関連する問題がみられ、それらの猫にみられた行動として最も多かったのは「破壊行動」、そして「不適切な場所での排尿」「過剰に鳴く」が続きました。この研究では、猫の分離に関連した問題とその家庭の女性の人数との間に有意な関連があったという結果も出ており、家族に女性が2人の家では、他よりも発生率が高かったそうです。また、同居動物のいない家庭においても、分離に関連した問題がある猫の割合が高かったといいます。

飼い主が長時間働いている、飼い主の仕事のスケジュールが変わった、飼い主が頻繁に旅行に出かける、飼い主が家族や友人と過ごす時間が増えたなど、飼い主のライフスタイルが、猫の分離に関連した問題行動の発生リスクとなる場合が多いという報告もあります。

猫の「分離不安」に対する予防や対策

安心できる環境を整える

単独生活の動物を祖先にもつ猫は、他者と対立することで危険にさらされやすく、自身の身を守るため未知の動物や環境などを危険と認識しやすい性質があります。猫が脅威と感じることが少なく、ニーズを満たした生活環境を整えることで、留守番中も不安になることなく、ストレスなく過ごすことができるようになります。

猫が精神的に健康な状態で暮らすには、最も基本となる部分であり、分離不安の対策にも予防にも、まず最初に確認すべきポイントといえるでしょう。

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お出かけ前と帰宅時に特別なあいさつをしない

お出かけ前に「〇〇ちゃん、私はお仕事に行ってくるからね!いいこにして、お留守番していてね!〇〇時には帰ってくるからね!!」、帰宅時に「〇〇ちゃん、ただいま!いいこにしていた!?ひとりにしてごめんね!!」という風に言い聞かせたり、抱っこしたり撫でたり、ひとしきり特別な儀式をするご家庭もよくあるのではないかと思います。

この刺激的な儀式を行うことで、猫にとっては「飼い主の不在」がより際立って感じられてしまいます。そのため、より不安を感じやすくなってしまうのです。

お出かけ時は「いつの間にかいなかった」、帰宅時は「あれ?帰ってきてたの」と思われるくらい、静かに、刺激しないよう出かけて帰ってくるようにしましょう。

在宅中と留守中の室内環境の差をできるだけ減らす

ご家族がいてもいなくても、特に変わらない室内環境であるほうが、不安が少なくなります。留守中でも、普段と変わらないエリアで生活できると良いでしょう。テレビやラジオの音を、在宅・留守にかかわらずいつも変わらず流しておくというのも、できる工夫のひとつです。

また、人間も猫にとっては室内環境の一部。在宅時に過剰にべたべたしない、関わり過ぎないようにするなど、普段の猫への接し方を見直すことも大切です。

知育おもちゃなどを使って留守中もたのしめることを提供する

いつも食べているフードを知育おもちゃに入れて、留守中にゆっくり楽しめるようにしておくと良いでしょう。市販のおもちゃでも良いですし、ペットボトルやガチャボールに穴を開ければ、手作りで使いやすい知育おもちゃを作ることもできます。

毎日、満足感の高い遊びを提供する

遊びは猫にとっては生活に欠かせないニーズのひとつです。ニーズが満たされていなければ、日常的なバックグラウンドストレスが大きくなり、留守中に不安や不満を感じたことがきっかけで、大きな問題行動に発展しやすくなります。

毎日、おもちゃを使って満足感の高い遊びを提供することで、しっかりとニーズを満たしてあげることは、問題行動の予防にも対策にもなります。

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薬物療法や不安をやわらげるサプリメントの使用

不安が非常に大きい場合には、環境整備や飼い主さんの対応を変えるなどの対策を行いながら、補助的に抗不安薬などの薬物療法を併用すると治療効果があがりやすい場合があります。(獣医師による診察と処方を受ける必要があります。)

また、α-カソゼピンなどのサプリメントを使用したり、合成フェロモン製剤をスプレーや拡散器で使用することで、猫の不安軽減に役立つ場合があります。

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