犬の認知症は、どの段階でどのように進んでいくのでしょうか?この疑問に答える研究が、スロバキアで行われています。
この研究では、犬の認知症に対して「CADES(CAnine DEmentia Scale)」という評価スケールを用いて、犬の認知症の進行度を初期・中期・後期の3段階に分けて症状の変化を評価しました。評価の対象となったのは、①空間認識(見当識障害)、②社会的相互作用、③睡眠・覚醒サイクル、④トイレのしつけの変化の4項目でした。
その結果、初期段階(軽度)では、最も顕著に見られた変化は「社会的相互作用の低下」でした。たとえば、飼い主とのふれあいへの関心が薄れる、呼んでも反応が鈍くなる、来客に対する態度が変わるなどの変化が見られます。その他の行動領域にはまだ大きな異常が見られないことも多いようです。
中期段階(中等度)になると、「社会的相互作用の低下」に加えて、「睡眠と覚醒サイクルの乱れ」が起こりやすくなります。夜間に眠らず歩き回る、昼間に長時間眠ってしまうなど、生活リズムが崩れるようになります。またこの時点で「不適切な場所での排泄」も頻発するようになり、飼い主の介助が必要になる場面が増えてきます。
後期段階(重度)では、上記の4領域すべてにわたって顕著な障害が現れます。犬は家具の間に入り込んでしまう、壁に向かって立ち尽くす、食事や排泄が自力でできないといった深刻な状態となり、ほとんどの行動において日常生活を維持できない状態になります。家族の顔にも反応しないなど、社会的な認知も大きく失われ、QOLが著しく低下した状態となります。
また、本研究の追跡調査では、6か月後および12か月後において、正常な老化から軽度への移行や、軽度から中等度への進行が高い割合で発生することが示されました。犬の認知症は時間とともに進行し、進行のスピードには個体差があるものの、進行を止めることはなかなか難しい疾患です。症状の進行を遅らせるためには、可能な限り初期の段階での対応を始めるべきです。
特に、初期段階については、高齢になって、遊ばなくなったとか、家に帰った時の歓迎の様子が減るなどよく耳にすると思います。「高齢だから仕方ないね」と思いがちですが、この段階から、認知症の症状は進み始めていると考えて、積極的に対策を打つべきでしょう。獣医師による診断を受け、現状を把握するということが大切です。
中期段階になると、夜鳴きが出てきますが、夜鳴きについては飼い主が寝られないという問題も発生するため、犬と飼い主のQOLに大きなダメージを与えます。そして、夜鳴きの発生については、介護を経験する飼い主の多くの方が経験する問題です。アニコム家庭動物白書2024によれば、認知症に限らず、どうぶつの介護を行った飼い主1300人のうち、夜鳴きに困ったとした飼い主は4割強でした。このアンケートには犬の飼い主以外も含まれますから、犬だけに絞れば、夜鳴きで困る確率はかなり高いと言えるでしょう。
中期段階になってから治療を行うとなっても、既に症状は進行しており、なかなか症状を抑えにくい状態となります。寝かせようとすれば、薬の量もそれなりに必要になります。だからこそ、初期の行動変化をしっかりと把握して、早め早めの対応を行っていくことが大切です。
【参考】
Madariら(2015)「Assessment of severity and progression of canine cognitive dysfunction syndrome using the CAnine DEmentia Scale (CADES)」