【本記事のハイライト】

  • 柴犬や日本犬は認知症になりやすく、その原因は、オメガ3脂肪酸の代謝が影響しているかもしれない
  • 柴犬は年を取るごとに頑固になることが実験でもわかっており、認知症の発症しやすさに影響しているかもしれない
  • 柴犬の認知症では、吠えの問題や昼夜逆転の問題がが生じやすいが、漢方薬・向精神薬を含む薬物療法が有効な手立てとなる

ぎふ動物行動クリニックは、行動学を専門とする動物病院です。柴犬の認知症の治療と研究に取り組んでいます。対面診療の他、オンラインによるセカンドオピニオンを受け付けております。

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柴犬は認知症になりやすいのか?

 柴犬や日本犬は、犬の認知症になりやすいとの記載をみかけることもありますが本当でしょうか?動物エムイーリサーチセンターの調べでは、高齢性認知機能不全発生頭数の48%が日本犬系雑種、34%が柴犬であったと報告されています。

 一方で、10~13歳における犬の認知症発生率は日本犬より洋犬で発生率が高く、その他では差がなかったとの報告もあります。(水越ら,2017年,”高齢犬の行動の変化に対するアンケート調査”)また、海外における疫学調査において、日本犬に認知症の発症が多いというデータはないようです。

 一方で、臨床での印象としては、やはり柴犬の相談が多いと感じます。当院で診ている認知症の症例では、半数以上が柴犬です。この傾向は認知症になった場合に生活に支障を生じる程度が大きいか小さいかによっても影響を受けます。日本では飼育されている犬の多くが小型犬です。飼育頭数が多い犬種の中で、柴犬は体格が比較的大きく、認知症を発症した際に吠え声が大きかったり、世話が大変だったりして、相談につながる確率が高いのかもしれません。

 動物の医療が発達し、予防が徹底され、フードの質が改善されてきている昨今、犬の寿命は昔に比べ格段に伸びており、それに伴って犬の認知症の発生頭数は増加していると考えられます。それに伴い、発症する犬種の傾向も変化していくかもしれません。今後、相談症例の統計調査等が行われることで、犬種による発症の傾向がつかめてくると、予防にも大いに役立つでしょう。

柴犬の栄養と認知症

柴犬は原種に近く、最もオオカミに近い犬と言われます。日本人が日本列島で暮らし始めたのは約3.6万年前と考えられています。ニホンオオカミは1-2万年前、イヌは1.6万年前ごろに日本列島に来たという説が有力です。ニホンオオカミと日本犬は交雑しながら進化してきており、日本犬の中にはニホンオオカミの遺伝子が多く含まれています。

さて、地理的条件は、栄養的な側面の進化にも影響を与えます。人の進化においても、沿岸部と内陸部の民族では栄養の代謝に変化が生じます。島国である日本では、多くの魚を食し、魚由来のオメガ3脂肪酸を多く接種してきました。そのため、内陸に住む民族に比べて、代謝活性酵素が低く、より多くのオメガ3脂肪酸の摂取を必要とします。

先に述べたように柴犬では他の犬種に比べ認知症の発症リスクが高いと考えられています。柴犬は原種に近く、洋犬とは異なる進化をたどってきました。魚を多く食べる日本人と共に生活することで、残飯を漁る犬も多くの魚を接種してきたことが考えられます。

実際、柴犬と洋犬では、フード内に含まれ摂取する脂肪酸の組成に差がないものの、洋犬の方が血中のオメガ3系脂肪酸量が明らかに高いことが分かっています。

つまり、柴犬は、オメガ3系脂肪酸の代謝が他の犬種に比べて弱く、それが認知症発症の要因になっている可能性があるのです。柴犬こそ、オメガ3系脂肪酸を良く摂取し、早い段階から認知症予防をおkなうべきです。

【参考】https://www.azabuderukui.info/project/animal-evolution/

柴犬の認知機能(年を取るごとに頑固になる)

麻布大学で行われた研究で、空間認知能力を図る実験が行われました。実験の内容は、蓋をした3つの容器を用意し、そのうち1つに餌を入れます。餌を入れた容器を人が指さし、正解の容器をはじめから選ぶことができたら正解で、4回連続で正解したら課題達成です。

この課題をラブラドールと柴犬に対して行ったところ、柴犬の方が課題達成は早かったものの、年齢と課題達成までにかかる試行回数に相関がみられました。ラブラドールでは年齢と試行回数の相関がみられませんでした。

これの結果からは、柴犬は年齢が上がるにつれて柔軟な思考が出来なくなっていき、過去の成功体験を踏襲しやすく、頑固になっていく傾向があるということが考えれます。脳の柔軟性、思考の柔軟性が下がることは、認知症の発症にも影響すると考えられます。

【参考】https://www.utp.or.jp/book/b307131.html

柴犬の認知症の症状

柴犬は、人気犬種の中でも体が大きい方で、吠える声も大きくなるため、認知症発症後に行動診療科への相談が生じやすい犬種です。

柴犬の認知症の相談は、主に「昼夜逆転」「夜鳴き」です。認知症症状の初期には「攻撃行動」として相談を受ける場合もあります。

昼夜逆転や夜鳴きの場合、飼い主さんが睡眠不足で疲弊してしまうことが少なくありません。昼夜逆転と言っても、その症状は、睡眠リズムが崩れ、深い睡眠ができないため、すぐに起きてしまうという状態です。

起きているときに、動きたい、水が飲みたい、どうしていいかわからず不安であるという状態になると、その窮状を訴えるために吠えが生じ、夜鳴きとなります。夜鳴きといっても、昼も吠えているのですが、昼は問題になりにくいので、夜鳴きという主訴になります。

攻撃行動については、若いころに攻撃があった柴犬では、認知機能の低下により再発することが良くあります。学習によって「この状況は大丈夫」と判断していたものが、理解できなくなり、攻撃が発生しやすくなります。

また、目が見えにくくなる、耳が聞こえにくくなることにより、驚きやすくなり攻撃的になることや、関節痛などの身体的な痛みが生じて攻撃が発生しやすくなる場合もあります。

柴犬の認知症の治療

柴犬の認知症症状の改善には、身体的な異常が関わっている場合は身体的な治療を行うことを優先します。

認知症症状の直接的な治療としては、薬物療法がやはり最も有効です。セレギリンという、米国で犬の認知症の承認薬として使われている向精神薬や、抑肝散・八味地黄丸といった漢方薬を使用することで認知症症状を緩和できます。

昼夜逆転が強い犬の場合、睡眠薬を使い、一定程度寝てもらうことで、人も犬もQOLを維持しながら介護を続けることができます。

認知症に対する薬物療法は以下の記事を参考にしてください。

犬の認知症に使用する代表的な薬剤

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