ヒトの認知症の症状
ヒトの認知症は、脳神経疾患や機能障害などの様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態のことをいいます。よくある具体的な症状として、物忘れが多くなることはよく知られています。
ヒトの認知症の症状は、脳の病変によって引き起こされる「中核症状」と、性格の変化などの心理的な症状である「周辺症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」に大別されます。
中核症状とは、脳細胞が死に減少することや脳細胞の機能が低下する事で直接的に起こる症状のことです。具体的な症状としては、人や物の名前を忘れる、何度も同じことを聞いたり言ったりする、置いたものの位置がわからず探すことが多くなるといった記憶障害は分かりやすいですね。他には、見当識障害(誰、いつ、どこ、といったことが理解できなくなる)、理解や判断力の障害(変化に対応しづらくなる)、実行機能の障害(ものごとをスムーズに進められなくなる)、言語障害(言葉が出なくなる)等が挙げられます。
周辺症状(BPSD)は、中核症状が出ることによって、二次的に起こる、行動や心理的等症状のことを指します。BPSDでは感情の起伏が大きくなったり、抑制が効かなくなることで、興奮や暴力が怒ることがあります。行動症状としては、身体的攻撃性、鋭く叫びたてる、不穏、焦燥、徘徊、文化的に不適切な行動、性的脱抑制、収集癖、罵る、付きまとうなどといった症状があり、心理症状としては、不安、抑うつ気分、幻覚、妄想などの症状が含まれます 。
一方、犬の認知症の症状は、中核症状・周辺症状という形では分類することができず、認知機能障害・情動変化・身体機能障害など全てひっくるめてDISHAAの6徴候として分類している点は大きく異なります。
ヒトと犬の認知症の共通点
ヒトの認知症は病態によっていくつかに分類されており、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症 が代表的なものになります。
この中で、アルツハイマー型認知症については、犬の脳をモデルとした研究が行われています。アルツハイマー型認知症は、アミロイドβやタウタンパク質といったたんぱく質が脳に沈着し、これにより周囲の神経細胞が死に、脳が萎縮することで引き起こされると考えられています。犬の脳の老化の過程においても、アミロイドβの蓄積、それに伴う脳神経の委縮が起こります。また酸化ストレスが脳神経へのダメージを与え、神経細胞の老化や死を引き起こす点も、ヒトと犬で共通しています。
脳の老化に関しては、人と犬で共通のメカニズムがあることから、ある程度は似通った病態で認知症が進行すると考えられています。もちろん別種の生き物ですから、全く同じプロセスで老化が起こるわけではありませんが、犬での認知症の研究が人に活かされ、人での認知症に対する実践が犬に応用されるということが起こっています。
犬の認知症では、症状の緩和や進行を遅らせるために、必要に応じて様々な薬が使われますが、当然ながら犬の為だけにつくられた薬は一つもなく、全て、人のためにつくられた薬を犬でも使っています。私は、犬の認知症に対しては漢方薬を使うことが良くありますが、人の認知症でも良く使われている抑肝散や八味地黄丸を利用することで、犬でも症状の緩和が見られます。
人の認知症と犬の認知症、それぞれの研究と実践が蓄積されることで、双方の患者さんの生活が改善されていくことを期待したいと思います。