今回は、猫の問題行動の症例をご紹介しながら、猫の「不適切な場所での排泄」や「マーキング行動」について考えていきたいと思います。
症例[雑種猫、メス不妊手術済み、4歳]
排泄の失敗や飼い主さんご本人が不在の時の行動変化について、ご相談いただきました。ご本人の数日間の不在をきっかけにトイレの失敗(主に排便)が出てきたそうで、以前からご本人の後をついて歩くような行動もみられ、分離不安も心配しているとのことでした。
基本の情報
- 症例猫:雑種猫、メス不妊手術済み、4歳
- 飼い主さんは、ご本人、ご両親、お姉さん、おじいさんの5人家族
- 同居猫が多数いるが、接触があるのはほぼ3頭
- いずれも4歳
- Bちゃん、雑種猫、オス去勢手術済み、4歳
- Cちゃん、雑種猫、オス去勢手術済み、4歳
- Sちゃん、雑種猫、メス不妊手術済み、4歳
- 4頭の中では、症例猫を一番最初に迎えた
- 健康状態について
- 以前より元気がない気がする
- 食欲もムラがある
- 体型は標準的で、特に体重の減少はない
- 以前から、便秘気味の時があるため、消化器疾患対応で可溶性繊維の入った療法食を与えている
- 生活環境
- 住居はかなり余裕のある広さの一軒家で、4頭の猫たちは一部エリアを除いて家の中を自由にさせている
- トイレについて
- 主なトイレは4つ
- 玄関のトイレ:衣装ケース
- ご本人の部屋:フタなし小さめ(比較的最近設置した)
- お姉さんの部屋:フタあり標準サイズ
- お父さんお母さんの部屋:フタなし標準サイズ
- キッチンにはトイレはない
- 砂は、ベントナイト、固まる細かい砂、香りなし
- 症例猫は玄関の衣装ケースをよく使っていた
- 掃除などのお世話について
- ご本人の部屋にあるトイレはご本人が掃除する
- 他は気づいた人やそれぞれの部屋の人が掃除する
- 主なトイレは4つ
- 休む・隠れる場所について
- 症例猫
- 主にはご本人のベッドで寝ている
- ご本人の部屋のタンスの上にクッションを置いてあり、これも時々使う
- Bちゃん
- お父さんお母さんの部屋のどこかで寝ていることが多い
- まれにご本人の部屋のデスクチェアーで寝ていることがある
- Cちゃん
- お姉さんの部屋のキャットタワーにいることが多い
- Sちゃん
- 廊下に開けっ放しで設置してある猫ケージを気に入っている
- 症例猫
- 生活習慣
- ごはん:常に食べられるようドライフードを置いてある
- 遊び:レーザーのおもちゃや猫じゃらしで遊ぶ(毎日)
- 手だけで遊ぶ感じですぐ飽きてしまい、3分くらいしか続かない
- 他の子はおもちゃを追いかけてよく遊ぶが、症例猫は遊ばない
- 台所か廊下で他の猫と一緒に遊ぶ
問題となっている行動について
- 1ヶ月ほど前に、ご本人が3泊4日で不在となる時があり、その期間中及びそれ以降に排泄の失敗がみられるようになった。排便も排尿もトイレ以外でしてしまうことがあるものの、排便の失敗のほうが回数が多い。
- [昨日の夜]トイレではない場所で排尿及び排便(ご本人在宅だった)
- 1階のキッチンに他所からもらったお土産の袋だけ置きっぱなしにしてあって、その紙袋の中に排便も排尿もした
- 他の猫はキッチンにはいなかった
- ご本人とお姉さんとお母さんがいた
- [1~2週間前]トイレ以外の場所で排尿
- 飼い主さんの部屋を出てすぐの床に排尿してあった
- [1ヶ月ほど前]ご本人の部屋の中のトイレ以外の場所で排泄(主に排便)
- ご本人が不在の間に、ベッドの上や床に排便してあった
- 上記以外にも、この期間内に、キッチンやご本人の部屋のデスクチェアの上に排便してあったことがある
その他の問題について
- 症例猫と他猫(BちゃんとCちゃん)との不仲
- 症例猫は以前から他の猫と仲良くない雰囲気があった
- ここ1年程、特にBちゃんやCちゃんに追いかけられたり、ちょっかいをかけられて、症例猫が逃げ回ったり唸ったりする様子がみられるようになっている
- 頻繁ではないものの、症例猫は他の猫と部屋で鉢合わせただけで表情が変わり、唸る様子がみられる
- 症例猫が追いかけられている時には、ご本人が症例猫を、お母さんが追いかけている猫を捕まえたりなだめたりして仲裁するようにしていた
- ご本人が在宅・不在時で症例猫の様子が違う
- 在宅時
- 以前から甘えん坊
- ご本人の肩に乗ったり甘えたりすることが多く、よく動く
- 不在時
- 在宅の時と比べて動かない、行動が少なくなる
- ごはんを食べたり水を飲む行動も少なくなる
- 在宅時
症例猫の「トイレ以外の場所での排泄」について考察
症例猫がメインで好んで使っていたトイレは玄関の大きなトイレだったようです。ここ1年程、他の猫(BちゃんとCちゃん)に追いかけられることが増えていたので、トイレに行く途中で鉢合わせすると困る場面もあったと考えられます。でも、飼い主さんご本人が在宅の時には猫の間に入って仲裁するようにしていたため、なんとかトイレに行けることが多かったのでしょう。
しかし、長期間ご本人が不在となったことがきっかけで、玄関のトイレまでの経路で他猫の脅威を感じてたどり着けず、トイレ以外の場所で排泄してしまったことが問題行動のきっかけと推測されます。この場合、診断は「不適切な場所での排泄」となります。
また、以前から同居猫同士でのトラブルもあり日常生活でのストレスが大きかった中で、最も信頼する飼い主さんご本人が急に長期間不在になることがあり、大きな環境変化となったことで、不安自体が強まったことも要因のひとつ考えられます。この場合、診断はストレスの増大による「マーキング行動」となります。
猫のマーキングといえば、尿スプレーを思い浮かべる方がほとんどだと思いますが、まれに糞便を使ってにおいをつけ、マーキングすることもあります(ミドニング middening)。
最後に、今回の症例猫には便秘気味の時があったという経歴もあり、トイレ以外の場所での排便には排便時の疼痛や違和感が関係している可能性もあります。
症例猫の「不適切な場所での排泄」「マーキング行動」に対する対応
まず、猫同士がお互いの存在をストレスに感じることなく快適に生活できる環境を整えたり、適切なトイレ環境を整えることで、バックグラウンドストレスを減らしましょう。
また、猫同士の関係についても、ご家族の対応を見直す必要があるかもしれません。今回の症例では、猫同士のトラブルが発生した時、あるいは発生しかけた時には、人が仲裁する対応が取られていました。しかし、ある場面でお互いにどちらの猫が優先されるかを決めかねている場合に、猫同士のトラブルが発生しやすいため、そこに人が介入することでますます優先順位が決まらなくなり不安定な状況が継続してしまうことがあるのです。猫同士の関係には、できるだけ人が介入しないようにしましょう。
そうはいっても、人が介入しなければ大ケガをしてしまうような猫同士のケンカが起きてしまう場合、又は、そういった事態が心配である場合もあると思います。その場合は、猫同士のトラブルが起きてから対処するのではなく、発生しないよう未然に対策しておく必要があります。
今回の症例猫においては、「最も愛着があり信頼している飼い主さんご本人の不在」が、問題行動が起きる大きなきっかけとなっていました。猫にとっては、人も環境の一部であり、ご家族の誰かがいるかいないかも環境の変化といえます。特に、頼りにしている人が通常より長時間不在にすることは大きな環境の変化であり、大きなストレスがかかったことで問題が発生するきっかけとなったと考えられます。できるだけ生活習慣を一定のリズムに保ち、数日は一日中在宅だったが、急に数日不在になる、というように落差が大きい状況を作らないようにできると良いですね。
これらのことを踏まえ、今回の症例猫には以下のとおり対応策を取ってみることをおすすめします。
具体的な対応策
- 環境整備
- トイレ環境の整備
- ご本人の部屋のトイレを大きなものに替える、数を増やす
- キッチンにもトイレを設置する(できるだけ大きく、フタのないものが望ましい)
- 休む場所、隠れる場所を増やす
- 入って隠れながら休める場所を各部屋に複数設置する
- 高さ、場所、素材などバリエーションをつけて、多数設置することで、状況によって猫の選択肢を増やす
- 猫の動線の確保
- 猫同士の経路がぶつかることを避けるため、同じ経路でも高さの異なる複数の動線が確保できるとよい
- 動線を考慮しながら、キャットウォークやキャットステップを設置したり、家具の配置を工夫する
- トイレ環境の整備
- 対応の修正
- 猫同士のトラブルを回避する
- トラブルの起きやすいタイミングではあらかじめそれぞれの猫がいるエリアを分けておく
- ご家族がキッチンに集まりやすい夜だけ、その前に部屋分けをしておくなど
- 猫同士のトラブルがあった際はできるだけ人の介入は避ける
- 猫をなだめない
- 猫を人の手で止めない(あらかじめトラブルが起きないようにしておくことが大切)
- 食事から水分を摂れるよう工夫する
- 理由
- 排便をスムーズにするため
- ご本人不在時に水分摂取が少ないという心配に対する対処
- ウェットフードを利用
- 1日1~2回、ウェットフードを与える機会をつくる
- 少し水を加えるなどするのもよい
- 理由
- 猫同士のトラブルを回避する
- プレイセラピー
- 他の猫に遠慮せず症例猫が遊べる時間を作る
- 他の猫が来ない場所でしっかり遊んであげる
- 最初は遊ぶ気がなさそうでも、毎日きちんと時間は作ること
- 1回は短時間、1日複数回実施できるとよい
- 遊びにはバリエーションをつける
- さまざまなタイプのおもちゃを試す
- 同じじゃらしでもさまざまな種類を用意して好みのものを探す
- 知育おもちゃも活用する
- フードをお皿ではなく知育おもちゃで与えるのもよい
- 市販のもののほか、手作りもできる
- トイレットペーパーの芯
- ペットボトル
- ガチャボール などなど
- 飼い主さんの不在時にも「やること」を作れる
- おやつを投げて追いかける遊びは、おもちゃに食いつきが良くない場合にも楽しみやすい
- さまざまなタイプのおもちゃを試す
- 捕食行動に則った遊び方を意識して、満足度の高い遊びを提供する
- 狩りをする→捕まえる→殺す→食べる
- 追いかけさせるだけではなく、何度かに一度きちんと捕まえさせること
- 食べることで完結させると満足度が高い
- おやつ投げで締める
- 遊び終わったら少しおやつをあげる などの工夫
- 他の猫に遠慮せず症例猫が遊べる時間を作る
- かかりつけ動物病院で健康診断を受ける
- 一般的な健康診断項目での血液検査
- 排泄の失敗があるので、尿検査、腹部エコー検査(膀胱や腸管)、腹部X線検査なども実施できるとよい
- その他
- 療法食は継続する:排便をスムーズするため、可溶性繊維入りのフードは継続することが望ましい
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