「ストレスの多い毎日で憂鬱になってしまった」「仕事のストレスで胃が痛い…」と感じている方でも、「猫は毎日のんびりできていいなぁ、ストレスなんかなさそうだ」と思っていませんか?実際は、猫も人間と同じように、むしろそれ以上に、ストレスと闘っている場合があるんですよ。

ストレスとは?~ユーストレスとディストレス

「ストレス」と聞くと、すなわち悪いものと考えられがちですが、実は良いものもあります。ストレスとは、一言で言うと「日常で受ける様々な変化や刺激によって生じる緊張などの心身への負荷」のこと。日常で受ける変化や刺激には、例えば、「近所の工事の音がうるさくて眠れない!」とか「友人とケンカしてしまった…」など苦痛や苦難に関連するものもあれば、「興味が沸いたので新しい習い事を始めた!」とか、「遊園地に遊びに行ってきた!」など楽しかったりワクワクする変化や刺激もありますよね。苦痛や苦難に関連するものも、楽しい・ワクワクするようなものも、すべてがストレスなのです。

前者のように、苦痛や苦難を伴ったり、異常な強さで慢性的となっているストレスをディストレス(distress)、後者のように、正常な個体であれば対処して通常の状態に戻ることができたり、むしろパフォーマンスを上げてくれるようなストレスをユーストレス(eustress)といいます。

また、そのストレスが良いもの(ユーストレス)なのか悪いもの(ディストレス)なのかは、対象や状態、出来事そのものが本質的な問題なのではなく、むしろその出来事に対して個々がどう認識しているかによって決まります。つまり、ある人にとっては良いもの(ユーストレス)である刺激や変化が、別の人にとっては悪いもの(ディストレス)となることもあるということです。

猫も日常生活でストレスを受け、対処している

猫も人間と同じように日常生活でストレスを受け、対処しており、毎日の日課や健康状態などのどんな変化もストレス要因となり得ます。場合によっては、日常でのちょっとした変化によるストレスで、隠れてしまったり、食事を受け付けなくなるなどの行動変化をもたらすこともあります。

個体によって、ストレスの受け止め方や対処の仕方は様々で、同じ出来事でも悪いストレス(ディストレス)となりやすいような、ストレスを感じやすい個体の場合、少しの変化や刺激で回復力や対処能力を損なう場合もあります。

こういった個体には、母猫の妊娠時の低栄養状態、周産期のストレスの多い環境、子猫期の不適切な社会化やトラウマ体験が影響している可能性があります。

ストレスによる身体の変化

ストレスを受けた時、身体の中では様々な神経やホルモンが活性化します。外部環境が大きく変化したり、外からの刺激を受けても、身体の内部環境は一定に維持しようとするためです。

外部環境の大きな変化や刺激は、個体にとっては生きていく上でのピンチですから、まずはピンチを切り抜けるために、即座に闘ったり逃げたりするために必要な身体の反応が起き、変化に適応して生命を維持するのに必要な反応が後に続きます。

ストレスを受けると起きる身体の変化

  • 交感神経-副腎髄質系が活性化
    • 危険に対して身体が生理学的に反応し「逃走か闘争か反応」を引き起こす
    • 即座にエピネフリンやノルエピネフリンが放出される
    • 心拍出量、血圧、呼吸数、血糖値は上昇
    • 胃腸運動、消化液の分泌が低下
  • 視床下部-下垂体-副腎軸が活性化
    • 長期的に身体を保護するための反応
    • コルチゾールなどの糖質コルチコイドを副腎皮質から放出させる
    • 糖質コルチコイドには、炎症の制御、糖代謝、タンパク異化、免疫反応など様々な機能がある
    • 一時的なストレス状態を生き延びるために最終的に役立つ

平常時に、体内環境を一定に保ち恒常性を維持する働きを「ホメオスタシス」といいますが、ホメオスタシスを維持し、急性のストレスなどに対して適応していくプロセスは「アロスタシス」といいます。強いストレスがかかり、上記のような身体の変化に伴ってエピネフリンやコルチゾールなどが分泌された時に、それらの影響から体を守り、適応しようとするのが「アロスタシス」です。

非常に大きなストレスや長期に渡る慢性的なストレスに晒された場合に、アロスタシスによる調整が長期継続することで、体に負担がかかりすぎてしまうことがあります。これを「アロスタティックロード」といい、交感神経系が過剰に活性化した状態が長期に渡り続いて自律神経のバランスが崩れてしまうことで、心身に何らかの疾病状態が生じることがあります。

猫のストレスと心身の問題

猫においても、ストレスによる心身の不調は多岐に渡りますが、膀胱炎やトイレの使用に関する問題行動など、排泄にまつわる問題はよくみられるもののひとつです。

実に、30%もの猫で、生涯のうちに一度は特発性膀胱炎の症状があらわれるという報告もあります。また、膀胱炎を含む下部尿路疾患を抱えている猫は、他の疾患を併発していることも多いといわれており、ストレスによる負担がかかりやすい猫においては、身体の様々な部位に影響が出やすい可能性も考えられます。

ストレスが要因となっていると考えられる心身の不調が生じた時には、獣医師に相談し治療を受けるとともに、暮らしている環境や生活習慣の見直しを行いましょう。猫にとって必要なニーズを満たすことができているかをチェックし、環境の整備や飼い主さんの対応の修正を行うことで、ストレス状態は大きく改善すると考えられます。

ニーズを満たすことができているか見直そう!

猫の「必需品」は十分な数を適切な場所に

  • 新鮮な食べ物と水
    • 設置場所は適切か?
    • 飲水場所は複数あるか?
  • トイレ
    • 好ましい形状の物が適切な場所に設置されているか?
    • 砂の種類は適切か?
    • 大きさは十分か?(体長の1.5倍以上)
    • 個数は十分か?(飼っている頭数+1個以上)
  • 休む場所・隠れる場所
    • 隠れて休める場所があるか?
    • 複数あり、猫が選択することができるか?
  • 爪とぎ
    • 必要な場所に設置されているか?
    • 複数箇所設置されているか?

垂直運動ができる三次元空間を提供しよう

猫には、高い所に登るという生まれ持った性質があります。高い場所で時間を過ごし、下の様子を見降ろすことで、猫は自分の縄張りを管理できているという自信を持つことができるのです。家具に登ったり、カーテンやカーテンレールを登ったりする猫が多いですが、それをさせたくない場合は、キャットタワーや高さのある爪とぎ器など、代わりに猫にとって魅力的な高い休憩場所を設置してあげましょう。

垂直運動ができる環境は、猫にとってとても重要で、特に多頭飼育の家庭では、三次元空間を活用することで、猫同士のストレスを避けることができます。食料、水、トイレ、休んだり隠れる場所などの資源が、それぞれの猫が他の猫とかち合うことを避けながらアクセスすることができるようなルートで配置されていれば、資源をめぐる競争やストレスを最小限に抑えることができるのです。

外を見たりアクセスできる工夫をしよう

猫が窓辺で過ごしやすくなる工夫
  • 窓辺に安定したテーブルやキャットタワーを設置する
  • 出窓にする
  • 窓辺に休みやすい寝床を設置する
  • 脱走防止柵を設置し、安心して窓を開けられるようにする
    • 縦の格子を設置するとよい(横の格子では登ってしまう)

猫の嗅覚を尊重した環境を整えよう

猫の嗅覚は、人間よりずっと優れています。その優れた嗅覚で、猫は他の猫が擦り付けたりして残した痕跡を検出し、猫同士のコミュニケーションを取っています。顔や体を擦り付けてフェロモンによりマーキングし、自身にとって安全で安心できる境界を作っているのです。そのため、人間とは異なり、猫は嗅覚を使って自分の置かれた状況について判断します。

知らない動物の匂いや芳香のある洗剤の匂いなど、一部の匂いは猫に脅威を与え、不適切な場所での排泄やスプレー行動、不適切な場所での爪とぎ行動などの問題行動やストレス関連の病気につながる場合もあります。

毎日、遊びを提供しよう

猫にとっておもちゃを追いかけたりじゃれたりする遊びは、獲物を捕獲する練習、捕食行動の一環であり、実際は「遊び」ではありません。

毎日、できれば複数回、捕食行動と類似した流れで満足感の高い遊びを提供することが、猫の行動ニーズを満たすことに繋がります。

猫のしつけ教室で、もっとたのしい猫ライフを!

しつけ教室ONELife/ぎふ動物行動クリニックでは、愛猫と飼い主さんが学ぶ場として、成猫向けの「猫のしつけ教室」と子猫及びこれから猫を飼う方向けの「こねこ教室」を実施しています。

「猫のしつけ教室」は、猫とより楽しく生活したい飼い主さん、また、粗相や尿マーキング、咬みつきなどの攻撃行動、要求鳴き、同居猫同士の不仲など、生活の中で困っている猫の行動を改善したい飼い主さんを対象としたマンツーマンのプライベートレッスン。ご来校のほか、オンラインや出張でのレッスンも可能です!お気軽にお問い合わせください。

お気軽にお問い合わせください。058-214-3442受付時間 9:00-17:00 [ 不定休 ]

お問い合わせ