ご相談の主旨
家族に対する攻撃行動に問題を感じて、ご相談いただきました。
行動の経歴
基本の情報
14歳、柴犬、未去勢雄
既往歴について
特になし。
涙焼けが2~3年前から発生しているとのこと。
攻撃行動の経歴
若い頃(1~2歳ごろ)は何度か咬むことがあったとのことでした。普段は手からフードを食べさせることができていたものの、何かの拍子に、手からフードを与えるときに咬まれたことがあったとのことでした。
その後は、咬まれることを気にして基本はお父さんのみで世話をしていたとのことですが、ゴハンのお皿を出すときに咬まれたことが3歳ごろまでに1~2回あったとのことでした。その後は13歳になる頃までは、ずっと咬まれることはなかったとのことでした。
2~3年前から、実家のお父さんに世話を頼んだ時に、散歩から帰ってきた時に、係留しようとすると、唸り、牙をむく様子があったとのことでした。実家のお父さんが世話をする際は毎回攻撃行動が発生していたとのことでした。
今年の5月(半年前:13歳6か月)くらいに、散歩から帰ってきた時に、係留しようとすると、唸り、牙をむく様子があったとのことでした。こうした行動は頻繁には見られておらず、週に1回くらいで頻度が増えることもなかったとのことでした。
数週間前、お父さんと散歩から帰ってきた時、お父さんがリードを係留しようとしたときに、お父さんが誤って肢を踏んでしまい、それに反応したのか、前肢でお父さんの足を抱え込んで、咬みついてきて、血が少し出たとのことでした。
リードのつけ変えに関する攻撃行動
1か月前から、リードを変えるときに毎回唸るようになってきたとのことでした。散歩帰ってきてから、リードを外し、ワイヤーに係留する時に歯を鳴らしたり唸ったりしていたとのことでした。そのため、ワイヤーをつけっぱなしにして、ワイヤーの付け根(持ち手側)にリードを延長する形に変更したとのことでした。足を咬まれた際も、ワイヤーの付け根(持ち手側)を係留しようとしたとき、後ろから咬まれたとのことでした。
後ろから咬まれてからは、散歩に行っておらず、今日にいたっているとのことでした。
生活環境と生活習慣
生活環境としては、外飼いで、家の外壁と外の塀の間の60センチ幅の空間に小屋を置いており、小屋に係留するためのワイヤーが設置されている環境とのことでした。
散歩のときだけ外に出る形で、それ以外は小屋にいるとのことでした。散歩は1日1回30分程度とのことで、排泄も散歩中にしているとのことでした。つないだままでも、小屋から出た芝生のところで排泄していることがあるとのことでした。
その他の行動
診察時の行動について
診察中、奥田が白い封筒をかざすと歯を鳴らし、牙を見せる様子がありました。奥田がパソコンを打っていると、落ち着いて攻撃的な様子を見せることはありませんでした。
診断とお話し
問題となっている状況の原因と対応の方針
今回の問題行動の原因は、認知機能の低下を伴う、易怒性の亢進と考えられます。
今回、身体疾患については十分な除外ができていない状況ですが、易怒性の亢進以外に特筆すべき身体的異常が観察されていないこと、身体的な検査について過度の負担が予測されることから、行動学的アプローチを優先して実施し、改善が見られない場合に身体疾患を改めて疑っていくという流れとしたいと思います。
14歳の柴犬ということで、認知機能の低下が起こりやすい犬種であり、認知機能不全を発症しやすい犬種です。症状をお伺いした限りでは、活動性の低下(睡眠時間の延長)、飼い主とのコミュニケーションの変化(感情の起伏の変化)という部分が出てきている状態です。これは認知機能の低下を表す兆候ではありますが、現在の状態では、高齢性認知機能不全と診断するほどの認知機能の低下はなく、生理的な範囲~認知機能不全予備群といったところでしょう。
人間でも、高齢になって怒りっぽくなることがあります。犬にも同じように起こる事があり、今回はそうした症状であると思われます。当然、老化に伴い発展する可能性もある症状ですから、今後の状況に注視していく必要があります。
老化現象の一つであり、治るものではないので、うまく付き合っていくことを考えていかなければなりません。環境設定を見直して、安全に関われるように工夫していくことと、薬物療法によって攻撃性を抑えることが対応の中心になってきます。
以下具体的な対応を列挙していきます。
具体的な対応と対策
1.環境の見直し
リードを係留するタイミングで攻撃してくるということですので、リードを安全に係留できるような防御壁を作りましょう。
2.係留する際にオヤツを使う
係留する際には、小屋の付近に美味しいオヤツをばらまき、食べさせるようにしましょう。食べている隙に、リードを係留するという形にすれば、攻撃される危険性が減りますし、係留されることに対する葛藤を抑えることができるでしょう。
3.薬物療法
薬物療法は、第一に漢方薬を用い、その後改善が芳しくなければ西洋薬を使っていきましょう。
【抑肝散】
抑肝散は、柴胡、甘草、蒼朮、茯苓、 当帰、川芎、釣藤鈎の7種の生薬からなる方剤で、元々は、こどもの夜泣きや癇癪に使用されてきた漢方薬です。脳血管を拡張し血流を良くし、抗てんかん作用や精神安定作用を持つと言われています。人の認知症において、感情的な問題が生じるBPSDに用いられ、怒りっぽさや昼夜逆転といった症状に広く効果があることが知られています。
さいごに
高齢になってからの問題行動は、治すというよりは、うまく付き合っていくことが大切です。飼い主さんの安全を第一に、最後まで寄り添える関係を目指していきましょう。