獣医学が進歩したことやフードが開発されて摂取する栄養が改善したこと、また、室内飼育が一般的となったことにより、昔と比べて飼い猫がとても長生きするようになりました。1980年代には5歳未満だった平均寿命が2023年には15.79歳まで伸びています。
近年、ヒトの認知症治療薬が複数開発されてきており話題になっていますが、今回は、猫にも認知症があるのか?認知症の猫にはどんな変化があらわれるのか?について考えてみたいと思います。
猫のライフステージと老化
猫のライフステージには様々な分け方がありますが、おおよそ、子猫期(生後1年まで)、若猫期(1~6歳)、成熟期(7~10歳)、シニア期(10歳以上)に分類することができます。
ライフステージが進むに従い、猫の身体は機能や解剖の面で徐々に完全性を失っていきますが、この最終的には死に向かって少しずつ変化していく過程が「老化」であるといえます。老化にもさまざまなバリエーションがあり、品種や遺伝的要因、栄養状態、環境、病気にかかっているかなどの影響を受けます。
猫の老化と行動の変化
猫の老化に伴って出てくる身体の変化には、関節の問題(変性性関節症など)、さまざまな臓器の機能低下、歯周病、視力や聴力などの感覚機能の低下などがあり、認知機能の障害もこのひとつです。
これに伴って行動の変化があることも多く、よくみられるのは、活動性の変化、食欲の変化、トイレの使用状況(失敗するようになるなど)、睡眠覚醒サイクルの変化、性格や人との関わり方の変化、学習や記憶の変化(以前は覚えていたことを忘れているなど)などです。
認知機能の障害については、行動に変化が出てくるものだと広く認識されていると思いますが、それ以外の身体的変化についても、あらわれる症状が行動の変化以外にみつからない場合があります。そのため、猫がお年寄りになって以前と行動が変化したからといって、すべてを認知機能のせいと考えてしまうと、それ以外の身体の異常を見逃してしまうことがあるのです。
猫は高齢になってくると、10歳までに脳の萎縮が起き、視覚的・聴覚的な認知や運動機能の低下、行動の変化の原因にもなると言われています。11歳以上の猫154頭について、認知機能を調べたある研究では、36%に認知機能不全がみられ、その1/3が同時に認知機能不全以外の健康問題を抱えていたといいます。
例えば、猫の認知機能不全で最も多い症状である「発声の増加」は、腎臓病、視力の低下、聴力の低下、関節炎、甲状腺機能亢進症にも大きく関連していたとする研究結果もあります。
猫の認知機能不全とヒトの認知症との類似点
猫の高齢性認知機能不全では、ヒトのアルツハイマー型認知症に類似した学習と記憶の低下が起きてきます。
ヒトのアルツハイマー型認知症は、アミロイドβペプチド老人斑などを含む過リン酸化タウで構成されるタンパク質凝集体が脳内に蓄積することが特徴で、このために、脳神経がダメージを受け、認知機能が障害されます。
猫でもアミロイドβや過リン酸化タウの沈着がみられることがあり、こういった猫では、過度の発声、混乱や放浪などの行動変化が起きる可能性が高くなるとも言われています。また、14歳以上の猫でアミロイドβと過リン酸化タウの両方が沈着している場合、脳内で記憶を司る部位である海馬の神経が最も深刻なダメージを受け、認知機能不全の症状があらわれると言われています。
猫の認知機能不全のはっきりとした直接の原因は不明ですが、細胞の酸化ダメージや血管損傷、脳の血流低下が関与していると考えられています。
猫は高齢になると、心臓から送り出される血液の減少、全身性高血圧、貧血などによって、脳の低酸素症に陥ることがあるほか、心血管系の異常や動脈硬化症、アミロイドβの沈着などによっても脳の血流が変化することがあります。
猫の認知機能不全に多い症状は?
猫の認知機能不全に関連する行動は、「VISHDAAL」の頭文字で要約されることがあります。一般的な問題行動を、みられる割合が多い順にリストアップした頭文字となっています。
VISHDAAL
- Vocalization:発声
- alteractions in Interactions:社会的交流の変化
- Sleep-wake cycle changes:睡眠覚醒サイクルの変化
- House-soiling:不適切な場所での排泄
- Disorientation:見当識障害
- Activity level alterations:活動性の変化
- Anxiety:不安
- Learning or memory deficits:学習・記憶障害
猫の認知機能不全の予防や治療のためにお家でできること
身体の衰えがあっても活動しやすい環境を整える
高齢になると、筋肉や骨が衰えたり、痛みが出てくる猫ちゃんが多いため、休憩場所を低い位置にしたり、入口が低くまたぎやすいトイレを準備することで利用しやすくなり、生活がより快適になります。
高齢になってもその子に合わせた遊びを取り入れる
若い頃ほど激しく獲物を追いかけるような動きはできないとはいえ、その子に合わせたおもちゃを使った遊び、飼い主とのふれあい、フードを使った知育おもちゃによる遊びなどを工夫しましょう。新しい、たのしい体験をできることは、認知機能の改善に効果があると考えられています。
食事の工夫、サプリメントの利用
猫の認知機能不全専用の療法食は、未だ開発されていないものの、抗酸化物質、必須脂肪酸、コンドロイチンなどの関節保護成分、L-カルニチンやリジンを含む食事を与えることで、認知機能不全の猫の70%において症状が減少したという報告があります。
ビタミンE、βカロチン、必須脂肪酸などの抗酸化物質を豊富に含む食事は、酸化ダメージやアミロイドβの産生を減らし、認知を改善すると考えられています。また、α-リポ酸、L-カルニチン、オメガ3脂肪酸などは、神経細胞膜の健康とミトコンドリアの機能を改善する効果があると考えられています。
その他に、腸内細菌叢を整えることで、認知機能不全の進行を防ぐ可能性があるとも言われています。
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