高齢犬の行動変化

 2024年現在、犬の平均寿命は14‐15歳と言われています。フードの高品質化や、獣医療の高度化により、犬の寿命は年々伸びています。

 高齢犬は身体機能の低下から様々な病気が発生します。高齢になるにつれて発生しやすくなる疾患としては、心疾患、脈管系疾患、代謝性疾患、各種の腫瘍(がん)など多様な疾患が生じてきますが、その中でも、痛みを伴う疾患や、神経疾患、感覚機能の低下は行動に直接影響します。これらの疾患は、行動変化をきっかけとして発覚することがほとんどです。つまり、行動変化を見逃さないことは、疾患の早期発見に繋がるということです。

 本書は犬の認知症をテーマにした書籍ですが、高齢犬の行動変化=認知症ではないということを理解しておく必要があります。高齢犬の行動変化の多くは、認知症ではない疾患が原因となっており、認知症に対するケアではなく、疾患に対する治療が必要になります。

 例えば、これまでトイレで排泄ができていた犬が、高齢になり、トイレの失敗を繰り返すようになったとしましょう。「トイレのしつけを忘れる」という症状は、犬の認知症の特徴で来な症状の一つです。しかし、高齢犬のトイレの失敗=認知症と決めつけるのは間違いです。当然ながら、泌尿器系の疾患により、排泄の頻度が増したり、尿量が増加することはあります。あるいは、関節の痛み等によって、トイレに入るのがおっくうになったり、トイレで排泄の姿勢をとることが出来なくなったりすることもあるでしょう。

 高齢犬の行動変化が生じたときにまず行うべきなのは、なぜ、その行動変化が起こっているのかという原因を探ることです。その原因は、身体的な疾患かもしれないし、認知症なのかもしれません。原因を探るには、獣医師の診察を受け、しっかりと検査してもらうことが大切です。しかし、獣医師に全て任せれば原因がすぐにわかるわけではありません。獣医師が判断できる材料を飼い主さんから提供する必要があります。そのためにできるだけ正確な情報、つまり、微細な行動の変化、その行動がどのような文脈(前後関係)で起こっているのか、行動の変化以外に変わったことがないか、元気や食欲の状態はどうか、その他の身体的な症状はないかなどの情報を、飼い主さんが把握し記録しておくことが重要です。毎日よく観察する。それが愛犬を大切にすることだと思います。

 愛犬のことを一番わかっているのは飼い主さんです。高齢になった愛犬の行動変化をいち早く発見してあげて、疾患の早期発見につなげてあげたいですね。