こんにちは!
こちらのQ&A記事では飼い主さんから過去に寄せられたご相談を紹介します。

今回のご相談はこちら!

「飼い主や家族に咬みついてきます…」
「なでるだけで咬んでくるんです…」

意外と多い撫でられたタイミングでの咬みつき…飼い主さん的にはショックですよね。
今回のわんちゃんは、小さいころから刺激に対して敏感な様子で、ブラッシングも苦手とのこと。

また、飼い主さんがそばにいると緊張した様子でごはんも食べないとのこと。
飼い主さんが思いつく環境的な変化は、仕事の都合で遊ぶ時間が減ってしまったことや生活スペースが外から室内に変わったことなどがあるそうです。

【診断やアドバイス】(獣医行動診療科認定医 鵜海敦士)
(問題となっている状況の原因)
今回の問題行動は、生まれ持った気質による過敏性を背景として、無理やりブラッシングをすることなどによって、触られることに対する嫌悪感が強くなってきたと考えられました。特に飼い主さんが触る機会が多く、ブラッシングとの関連付けもあることから、飼い主さんが触ろうとすることに対する警戒心や嫌悪感が強くなっていると考えられました。

医学的な問題に関して関連は低いと思いますが、可能性は考えられます。排便の際などにキュンキュン鳴く、毛を取ろうとすると極端に嫌がるなどの行動から、感覚が過敏になっているような印象も見受けられました。
その他疾患の可能性を完全に否定できるわけではないため、治療を進める中で改善状況が今一歩だったり、別の情報が判明してきた時には、各種検査を推奨することとしました。

(初期対応の方針)
触らなければ咬まないということですから、飼い主さんから触るという関りは一旦やめていただいて、信頼関係を構築していく必要があると考えました。
フードを守らなければならない状況を作らないことや、不用意な関りをせずに、わんちゃんがリラックスできるような関わりを増やしていくこととしました。
また、薬物療法も選択肢の一つと考えられ、ご家族の事情的にも、まずは一度使った反応を見た方が良いと考えました。

(長期的な対応)
環境や関わり合い方の見直しと、お薬を使用により、徐々に落ち着いている様子がみられるようであれば、少しずつ減らす見通しを立てました。
ただし、良くなっているように見えても、元の環境や関わり合い方に戻ったりすればまた咬まれるようになりますし、薬はあくまで補助的なもので、気持ちのトーンを少し下げてあげるものです。
根本的な問題解決に必要なことは、わんちゃんと飼い主さんとの信頼関係の構築や、接触されることに対する嫌悪感を軽減することと考えられました。
それらについては基礎的なトレーニングを積んでいくことで培われていくことと考えられました。

<具体的な対応と対策>

①必要以上に触らない
わんちゃんが嫌な思いをしないように、飼い主さんやご家族が怪我をしないように、基本的には触らないことを心がけてもらいました。

②散歩中にフードを与える
お皿からフードを与えるのではなく、散歩中にできるだけ与えて、あまり家の中で与えなくても良い状況を作るようにしてもらいました。
また、関わりながら散歩することによって、遊びたいという欲求も同時に解消することを狙いました。

③フードを投げて与える
オヤツは投げて上手くキャッチ出来ていたので、普段からフードを与えるときに投げて遊びながら与えられると良いかと考えました。
遊びながら与えることで、守る機会もなくなり、警戒しながら食べる機会が無くなると思われました。

④玄関を通るときにフードやオヤツを与える
玄関の生活スペースに誰かが近づくことに対して警戒している様子が見受けられました。
そのため、人が近づくことに対して良い印象を持たせるために、近くを通ることがあればその都度フードやオヤツを与えましょう。

⑤知育トイの使用
フードが出てくるおもちゃを使って、飼い主さんが関われない分の欲求を少しでも発散させましょう。
もし知育トイを守ってしまう様子があれば使用は控えておきましょう。

⑥散歩の時間を増やす
できそうなときは散歩を少し長めに行ってあげられると欲求も発散できますし、運動量が増えれば排便も今よりもスムーズにできるようになると思われました。

⑦生活空間の視界を遮る
家族への警戒心を和らげる目的で、今使っている柵に目隠しをしてもらいました。


<薬物療法について>

◎ 塩酸フルオキセチン

塩酸フルオキセチンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬と言われる抗うつ剤で、脳内のセロトニンの有効活用を促し、崩れたホルモンのバランスを整えるお薬です。

セロトニンは、脳のブレーキとも言われる脳内ホルモンで、恐怖や不安が根底にある問題行動がある場合には、このセロトニンが少なくなってしまっている可能性が多くの研究で示唆されています。

このお薬の特徴としては、多くは1カ月近く飲ませないと効果が見られないことです(短期間で作用がでる場合もあります)。焦らず様子を見るようにしてください。お薬は場合によりますが、犬によって年単位で投薬が必要になる子もいますし、生まれつきセロトニンが少ない犬の場合は一生飲ませる必要があることもあります。他の対応が総合的に効果を発揮して、薬に頼らなくても安心して過ごせるようになれば、徐々に減らしていきます。但し、突然薬をやめてしまうと、離脱症候群と呼ばれる、一種の禁断症状のような状態になり、状態が余計に悪化する可能性がありますので、獣医師の指導なく突然薬をやめることはしないでください。

副作用は、食欲低下と眠気です。これは良く見られる副作用で、数週間でなんとか落ち着くことが多いです。大きな副作用としては、胃腸障害で、食べない、嘔吐する、下痢が続く、便秘、けいれん等があります。こうした大きな副作用が出た場合はご連絡ください。対応を検討します。

行動が落ち着いてきたら、徐々に減らしていくことになりますが、長期間続けなければならない場合もあることをご了解ください。

以上、このご家庭のわんちゃんへの初期対応でした。
本記事が、愛犬のことで悩まれている方の参考になれば幸いです。